恋のバカンス

 長らく会っていなかった旧友Aから、久々に電話があった。
「実はちょっとお願いがあって…」
 そして久々に会った彼女は、なんだか艶々していて、こころなしか若々しくなった感じ。
「あのね、私、今度引越ししようと思っているの。だから、そっちのほうに知り合いがいたら、仕事を紹介してもらえないかなあと思って」
 なんだ、仕事の紹介か、と思って彼女を見ていると、なんだかニヤニヤしているのである。
「どうしたの? ダンナの転勤?」
 すると「待ってました」とばかりに彼女が「ううんっ! 好きな人ができたのっ!」
「えーっ、ダ、ダンナはどうするのっ?」
「えへへーっ、実はもう、捨ててきちゃったんだよー」
 彼女の名刺にはしっかりと「●●荘」といういかにも小さくてボロっちいアパートめいた住所が書いてあった。
「で、再婚するわけ?」
「えへへへーっ、そんなの行ってみなきゃわかんないよーっ。だってめちゃくちゃ年下なんだもーんっ」

 長らく会っていなかった旧友Bから、久々にメールがきた。
「いとーさーん、私、らぶらぶー」
 ばかものっ、キミは2児の母ではないか!?
「私は海外に行って、すっかりラブラブでーっす。本気でーす」
 能天気なメール。なにか悪いクスリでもやっているんではなかろうかと心配になる。
 添付の写真を見ると、ビーチ・リゾートというか、なんていうか。相手はどう見たって若者だ。
「そうなのよ。でも、本当にかっこいいでしょう?」
 勝手にしなさいっ。

 長らく会っていなかった旧友Cから電話がかかってきた。
「実はねー、好きな人ができちゃったの」
 おいーっ、夫はどうする? 中学生の息子は…?
「うーん、それとこれとは別なのよー。でもね、私が彼のこと好きだってわかっているから、もうひどいの。わがまま言われほうだい。自分はもてるって、自信をつけてるみたいなのよねー」
 某国を守る機関の幹部候補生のための大学に行っていて「とにかくかっこいいの」だそうだ。
「でもね、私ったら嫌われたくないから親戚の女子大生を紹介しちゃったの」
 そうしたら「律儀な」彼は「今度デートの約束した」と連絡をしてきて「どうしたらいいかわからない」と言う。
「私って、ほんとうにバカなんだから……」

 長らく会っていなかった旧友Dから電話がきた。
「このまえ、ナンパされちゃった…」
 ほうほう、ようございました。
「オトコのコってさあ、オトナのオンナの年齢がわからないみたいなのよね。『ボクの姉くらい?』って言うんで『お姉さんていくつ?』って聞いたら『30』だって言うから、笑っちゃってぇ」
 で、いくつだったんですか、彼?
「26だって! 彼女と別れて5ヶ月目だって。連絡先とか聞かなかったんだけど、いまとなってはもったいなかったよなあって思うんだよねぇ」

 長らく会っていなかった旧友Eからメールが届いた。
「いい年して片思い中。でも、彼の将来を思うと負担になりたくないから…。なんでこんなにつらいのかなあって思う。ひとりでいるより、好きな人がいるほうが淋しいなんて思わなかった…」

 長らく会っていなかった旧友Fから電話がかかってきた。
 彼女は某社会主義国に旅行した際、日本語堪能の青年に出会って、なんとしてでも日本に呼びたくなった。
「私、これまでこんなに一生懸命誰かのためにしたことがないくらい、ものすごーくいろんなことを調べたの」
 そしてそれによれば「大学に留学する目的で、きちんとした保証人がいて、彼自身もしっかりとお金を持っていること」が最低条件であるとわかったのだそうだ。
「でもね、問題はお金なの。私、去年までは数百万なんて言われてもぜーんぜん平気だったのに、なぜか今、たった100万円がないの。エルメスとグッチの腕時計と、プラダのバッグと、ダリの時価1000万円の絵をセットで、だれか100万円で買ってくれないかしら…」
「私、これまでずっと仕事してきたのよ。でもね。それをみーんな捨てちゃってもいいくらいなの。それに、こんなにがんばれるのって、きっともう一生ないことだと思うの…」

 久々に会った旧友G。
「自分の年齢がどうのこうのとか、結婚がどうのこうのとかいうのはさておいて、やっぱりオトコは32くらいまでが花だと思うわぁ。35過ぎたらだめね。体力的にも、仕事のうえでも、輝いているのってそのくらいまでよ」

 ところで、我が社の「母」ともいえるIさん(推定50歳)は余裕たっぷりに言う。
「ある一定の年になると、オトコとかオンナとかいう見方はしなくなって、『人間』という本来の見方ができるようになるのよ。だから、男女のドキドキするようなことっていうのは超越しちゃうわけ」
 ところが、Iさんは最近、心臓がドキドキすることがあるそうだ。
「これって『初恋の予感』なのかしら」

「違うよ、不整脈だよ」
と教えてあげていいものかどうか。

 




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