『鉄』道のオンナ

 先日、都内某所で開催された筑波大K先生主宰のパーティーで、東大のHH先生、MH先生、慶應大のI先生、YA先生などなどの先生方に久々にお会いした。(なんとゴージャスな顔ぶれ!)
 MH先生にはウエアラブル・コンピュータのシンポジウムなどで講演を拝聴しているが、ワインを片手にいろいろな話をするうちに、先生は「鉄道模型マニア」であるということを知った。

「じゃあ、信濃のローカル線とか、そういうのがお好きなんですか?」と少ない知識をひけらかすと、先生、目がきらきらと光って「そうそう、××とか××とかがねー」と、話ががんがんとはずむ。
 MH先生によると「鉄道」は「鉄」の道であり、武道などと同様に「極める」ものなのだそうだ。
 ちなみに、鉄道マニアの妻たちは「鉄道の妻」(イントネーションは「極道の妻」)とのこと。
 妻を伴い、夜行列車で北国へ。鉄道に乗りたいために参加する学会もあるとか、ないとか。

「私、日本の鉄道はあまり知らないんですけど、アメリカでサンフランシスコからシカゴまで48時間、アムトラック(AMTRAK=大陸横断鉄道)で横断したことがあるんです」というと、
「キミ、それは完璧に『鉄』が入っているよ。ふつう、48時間乗らないだろう」といわれた。

 私がアムトラックに乗ったのは、2度目の海外旅行のときで、23歳だった。
「Fine」という雑誌の別冊企画をたて、180ページの特集号をひとりで編集・取材執筆をするために、アメリカ22州をまわったときのことだ。
 サンフランシスコから走る電車は「カリフォルニア・ゼファー」(カリフォルニアのそよ風)と呼ばれているというが、私の記憶ではそのときは「サンフランシスコ・ゼファー」だったように思う。
 電車には周囲がよく見渡せる展望車があり、コーヒーを飲みながら景色を眺めていると・・・1時間たっても変わらず、2時間たっても変わらず・・・・
 インディアンが襲撃してきそうな荒野が続いているのである。
 そして、ぽつ、ぽつ、と木が見えてきて、わわーっと林になって、ちょっとした集落や町が通り過ぎていく。
 日本ではあまり見る機会がない、広い、広い荒野を、開拓者とは逆のルートで走ったのだ。

 アムトラックで記憶に残っていることはいくつかあるが、ひとつは食事について。
 黒人のトレイルマンが分校の小学校の用務員さんが持っているような鐘を鳴らしながら、肉声で「the call for lunchー」とか各車両を歩く。
 これがまた、バリトンでいい声。いい雰囲気。
 食堂車は各テーブル、真っ白なクロスがかけられていて、時間帯ごとにメニューは違う。
 ヨーロッパのオリエンタル急行を模したという話も聞いたが、そこまでゴージャスではないものの、なかなか雰囲気のあるいっぱしの「レストラン」だった。

 そして、夜。
 窓の外は漆黒の黒。
 目を凝らして見ても、何も見えない、トンネルのような黒い世界が何時間も続く。
 ときどき、ぽつん、と、遠くに光りが見えることがある。
 人が住んでいるのだろうか、手前は湖かなにかあるのだろうか。
 夜の闇のブラックホールような黒さを見ながら、好きだった人のことを思い出したりもした。

 あるときWOWWOWをなにげなくつけたら、アムトラックの番組をやっていた。
「アメリカ横断8000キロ」
 BGMもいい。ナレーションもいい。
 懐かしさが込み上げてきた。
 その番組がビデオになって、東芝デジタルフロンティアから発売されている。
「レイルウェイストーリー アメリカ横断8000キロ」1巻3800円、全5巻。
 私は自分が乗ったことがあるサンフランシスコからシカゴまでの路線と、NYボストンの路線が入っている1巻から3巻までを買った。
 ビデオでは私とは逆に、東から西へと移動する。(本来はこの向きが開拓の方向として正しい)
 お正月にゆっくり観よう、と思っていたらそうもいかなくなりそうで、結局例によって夜中に仕事をしながらBGVとして観ることになるだろう。(まだその時間すらない)

「そういうビデオまで買うなんて、もう『鉄がちょっと入ってる』どころか、完璧『鉄』だよ」
 恐れ多くもMH先生にお墨付きをもらい、私のマニア歴にひとつ「鉄」が加わったようである。


 

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