油断大敵美女台無

新年早々、私は仕事をしている。
大晦日に実家に帰ったものの、一晩ふとんを温めただけですっとんで帰ってきて、以来2日間パソコンに向かいっぱなしなので肩凝りがひどく、気分もいまひとつ冴えないのでよろしくない。
仕事も進まず、やることもまったく減らないので、かかってくる電話の1本1本がいらいらする。
世の中、なんでみんな暇なんだろう。なんで私だけがこんなに毎日毎日忙しいんだろうと、眉間に皺が寄り添うな気分を一新するために、気分転換と取材を兼ねて渋谷に出てみることにした。
といっても家から10分だ。
化粧もせず、とりあえずコートを着て、なんとなく気の重いお散歩である。

なんで気が重いかというと、気楽に引きうけてしまったMIT(マサチューセッツ工科大学)の講演のレジメがまったく進まないからで、「日本のティーンのポップカルチャー」というテーマ設定を自分で言ってしまったというのになにかいまひとつのらないのだ。
結局「日本の女の子のデジタル・コミュニケーション」というタイトルに替えてしまったのだけれど、その話題がどのくらいウケるのかが想像がつかないのだ。
最初から「マンガとアニメ」というオタッキーなテーマにしておけばよかった。
そもそも今回は私の講演のあとにアニメを上演するのだという。それも「Perfect Blue」
精神的におかしくなっちゃうタレント志望の女の子の話じゃなかったっけ?

とにかく「日本のことは雑誌とテレビでしか見ていない」という学生たちに「ポップカルチャー」らしきものを見せてあげなくちゃいけない。
とはいえ、渋谷のコギャルなんかを「これが日本のティーンだ!」なんていうのは絶対に憚れる。
とりあえず私らしいところで、少女マンガとキャラクターグッズの世界なんかをやってみよう。それでもって携帯電話とEメール文化に焦点を当てよう。講演はたったの40分。質疑応答を10分とすれば、話をする時間は30分しかないのだから、なんとかなるだろう。

そこで携帯電話売り場の写真を撮るために「さくらや」に行き、SONYのinfoCarryと和英・英和の電子辞典を買った。
infoCarryはPalmPirotをふたまわりほど小さくした・・・・・えーっ、なにぃ? なんとこれはパソコンからダウンロードしたデータを持ち歩く「メモマシン」みたいなものなのであった。よって、「見ることはできるけれど書き込むことはできない」というすごいシロモノ。本当に役にたつのか? と思ったけれどデジタルのニューフェイス好きとしては押さえなければという気持ちが先立つ。これで書き込みできればいうことないんだけどなあ。画面も見やすいし、インターフェイスだっていい。さすがSONY。これだけ中途半端なものを売ってしまうとはあっぱれ、あっぱれ。
電子辞書のほうは「たとえば」と和英で調べたいときに、「た」と打つとすでに「た【他】」「た【田】」「た【多】」「たあーっ」「ターキー」「ターゲット」「タータン」「たーっ」までインデックスが出てくる。思わず「たーっ」を見たくなったのでひいてみると
★「たあーっ」と相手に気合いを掛ける yellfirtcely to put fight into one's opponent
なーんて出てきちゃったりして、なかなかおもしろい。(それにしても外国語って擬音がないのね)

そうやって、こうやって、マイお年玉を購入して「疲れたからもう帰ろうかなあ」とふらふらと歩き、「そうそう、スペイン坂にある『どこいつ』ショップとやらをのぞいてみようかな」と行ったところが bitStore Shibuya(だったっけな?)
1階入り口には『どこでもいっしょ』のトロ人形がくねくねと客を招いていて、広くはない店内はどこでもいっしょグッズやその他ゲームもののキャラクターグッズが並んでいる。
お客さんとトロの記念ポラロイドなんかも貼ってあったりして、ちょっとした観光名所?
そして2階は!
マインドストームだ!
LEGOの最新ロボティクスおもちゃ、マインドストームがずらりと並んで、おまけに「新春セット」とかいってバッグにあれこれ入っている3万5千円相当のものが3万円! 安いっ!

でも、私はすでに持っているのだ。しかも封も開けていないマインドストーム・・・。
グッズが並ぶ棚には書籍や雑誌もあり、そのなかにあったマインドストームの本を買うことにして、レジに行くと、ナイスな男性が「マインドストーム、持っているんですか?」と聞くではないの!
「え、ええ、まあ・・・」
スッピン、ノーメイク、しかも正月早々疲れ果てた顔なので、殿方と会話するのはもってのほか。目を合わすのも恥ずかしい。
「いつ、買ったんですか?」
「えーと、おととし、かな」
「へー、そりゃ、ずいぶん早いなあ」
「そう。ハシリのころで、アメリカから必死で運んできたんですよ。でも、もうほとんど同じ価格じゃないですか。安いですねえ」
「うちはLEGOと直接取引してますからねー。特にそのセットはお買い得ですよー」
「でも、持ってるし。しかも開けてないし・・・」
「じゃあ勿体ないよねー。ところでこの店、どうですか? ボクがプロデュースしてるんですけど」
なんて爽やかな会話が続き、えーい、しょうがない、思い切って、
「私、こういう関係の仕事しているんです。お名刺いただけますか?」というと、
「あー、はいはい。ボクねー、めったにここに来ないんだけど・・・」
といただいた名刺がなんと! 見たことのある名前。 「あー、もしかして『J・・・』の編集長だったTさん!?」
「えー??? あのー、お名前はぁ? えーと、確かE3で会いましたよねー。そうそう、SONYのパーティーの飛行場で! ボク、覚えてますよー!」

ああああああ。もう、穴があったら入りたいっ! やっぱりそうだったか・・・。デジタル業界は狭いんだよなー、よりによってこんなぐったりしているスッピンなんだもんなー。普段着でモンペみたいだしなー。
「いやー、そうかあ。よかったなー。また来てくださいねー」なんて、やけに爽やかな方だけに、私ってばめいっぱい恥ずかしいことこのうえなし。
Tさんであれ、だれであれ、スッピンはいけません! レディーたるもの、いつでも気を入れてなくては!
しっかし、やっぱり会っちゃったなあ・・・。
昔、鎌倉の小町通りを歩いていると1メートルごとに知り合いがいて、ボーイフレンドが「もう2度と一緒に歩きたくない」と怒ったことがあったけれど、いずれ渋谷もそうなるのかしらん。
実はすでに、タクシーに乗っていると横づけされたバイクから「ボク、覚えてますぅ? 目黒の美容師です!」と声をかけられたり、コンビニで急に抱き着かれたら行きつけの店のマスターだったり、交差点でぼうっと立っているとクラクションを鳴らされて知り合いのデザイナーがいたり。大都会にして田舎みたいに知り合いがいっぱいいるのだ。

「ねーちゃんは化粧してるときと、してないときの差が激しいよなー」と妹のダンナの友達が言うのだけれど、それは「化粧をしてればキレイ」ってことか? ならばやはりふだんから化粧はしなくちゃダメっていうことか?
「どこでだれが見てるか、わからないでしょ」っていうのは世の母親が得意なフレーズじゃないかと思うのだけれど、ほーんとに「覚えてますよー」という記憶の底に「ボロボロでくたびれてるオバハン」みたいなイメージが焼き付かないようにしなくちゃなぁ。
いくつになってもキラキラした人でいたいと思うけれど、それには少し、生活態度を改善しなくちゃいけないかもなぁ、と反省。
「ステキな男性の出現は100の苦言よりも反省を促す」と、ちょっとここでTさんをよいしょしておこうかな。
今度行ったときにはまけてねー。




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