デブリンの悩み

 アメリカには視聴者参加型のトーク番組が多いが、朝起きたらみのもんたみたいなオヤジが巨大なデブ女(それではあまりなので「デブリン」と呼ばせてもらおう)に囲まれている番組をやっていた。
 ひとりの女性はベッドいっぱいにひろがる肉体と化していて、「600ポンド以上ある(300キロ近い)体重で外出できない」と泣いているのである。
 泣くな!
 なぜそこまで巨体になれるんだ!?
 はっきりいって、スターウォーズに登場するジャバ・ザ・ハットに体形も顔もそっくりだ。

 番組には300ポンド以上あるというデブリンが何人か登場して「私たちがどんなにつらいか、一般の人にはわかってもらえない」と訴える。
 ちなみに、映画館やレストランで座る椅子がないというのが一番の悩みなのだそうだ。
 ある女性は8歳の女の子がいるが、道を歩いていると「ほら、見て、すごいデブ!」と母親の事を言われるのがくやしいと子どもが言うのである。
「そんなとき、あなたは私にどうしてもらいたいと思うの?」と母親(巨デブリン)が尋ねると「そういうことを言ってる人を蹴飛ばしてほしいわ」とか言って、なんとも健気だ。

 アメリカにはほんとうに人知を超えた巨大なデブリンがたくさんいる。
 いったいどうしたらあそこまで太ることができるのかと思うが、「100キロ痩せた」という女性が登場して、彼女のBad Habit(悪習)として、それまで何を食べていたかを紹介した。
 たとえば、朝食はコーラ(500mlくらいのもの)を5杯に、ドーナツ(もちろん甘いものがコーティングしてある)が5つ、パンが2つ、目玉焼きが2つ。
 昼食、夜食も推して知るべしだが、きわめつけの夜食に、ハンバーガー2個にホットドック2本、チーズのたっぷりかかったポテトスキンにスナック…。
「人間て、そんなに食べることができるんだ」と感動するほどの膨大な量で、食費もさぞやたいへんであったろうと思う。

 彼女はやせるためにいろいろトライしたものの、結局は8年かかって、食事と運動でやせたのだという。
 カラダに悪いものも1ヶ月に1度は食べるけれど、ふだんは野菜中心で、「ダイエットという考え方じゃなくて、自分の体に対するコンセントレーションなの」とのこと。
 コンセントレーション(Concentration)というのは精神を集中するということ。
 ちなみに、コンセントレーション・キャンプというのは強制収容所とかひどく過酷な状態を言うそうだから、精神集中も楽じゃなさそうである。
「なにか食べるときに、自分の体が喜ぶものを選ぶだけのことなのよ」というその女性に続いて、女性の医師が登場して、デブたちに「大丈夫、あなたもできるのよ」とコメントする。
 その医師の研究がBariatrics Psychology(肥満心理学)なのだそう。
「デブは遺伝でもなんでもなくて、心の問題よ」というけれど、テレビに出ている巨デブたちは姉妹親子、デブ揃いで、生活態度そのものではないかと類推される。

 小錦よりもずっとデカいデブリンたちがそれぞれちゃんと服を着ている(それもどうやら既製服っぽい)のだから、アメリカには「デブリン市場」があるのだろう。
 実は、途中の飛行機で、隣がオトコデブリンだった。
 さすがに300キロはないだろうが、100キロ以上はありそうで、エコノミーシートでは足がまっすぐには入らず、逆ハの字にするしかない。つまり、私の席まで進出してくるのだ。
 もちろんボディや腕にも肉がたっぷりついているから、肘掛けの上にある見えない境界線などものともせずに空間を占領してくるのである。大迷惑。夏でないのが幸いだ。飛行機のエコノミーシートも遊園地のアトラクション並みに「年齢制限・体重制限」を設けるべきだと常々思う。
「差別じゃないか」と言われるかもしれないが、「平等」にするためにふつうの人が「がまん」しなくちゃいけないのはおかしいし、デブリンにしても「デブリン王国」があればそのほうが住みやすいだろう。

 ベッドの上でつきたてのお餅みたいにでろんとひろがったデブリンは、クリネックスをひと箱使い果たし、「がんばってやせる努力をする」と誓っている。
 3人の子ども(6、7歳なのだが、ということは数年前はそういうことがいたせるくらいの体形だったということだろうか)もすがっているが、そのシーンはジュラシックパークの恐竜に抱きつく学者のシーンのようだ。

 油断大敵。人ごとと笑っていられない。私だって今はアメリカにいるのだ。なぜか暖房の効かない部屋でコーヒーを飲んでいるが、調子にのってアメリカン・フード三昧していると危ない。
 そろそろ朝食をとりたい気分なんだけれど、フレンチトーストとかはあぶないだろうなあ・・・。



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