開放の旅

 ラスベガスという街は終日人と車がひしめいていて、しかもホテルのなかはどこもかしこも迷路のようになっているカジノばかりで、疲れる街である。  カジノのなかは「一獲千金」を当てようという金の亡者ばかりが集まっているから、当然「気」も淀んでいるので、うろうろしているとエネルギーを吸い取られるようであり、その点は東京にかなり近いものがあって、マトモな人間が行くべきところであるとは私には思えない。
 しかし、東京と違うところは、一歩外に出れば空は高く、砂漠の乾いた空気が「人工の街」を包んでいる。
 東京のラブホテルもまっさおなくらい、派手で、みっともない建物が点在していて、一見集約しているようにも見えるのだが、実はひとつひとつがばかでかいためにやたら遠く、1日中歩きまわるはめになる。
 ただでさえ方向音痴だというのに、いったんホテル内に入り込んでしまうと、出口を見つけるまで最低30分は人込みとカジノのなかをイライラしながら歩きまわらなくてはならない。
 おまけにここへ来る人たちは皆暇つぶしで来る人ばかりだから、店員も客も、動作が遅く、何をやるにももたもたしているし、タクシーも最低15分は待つ覚悟が必要だ。
 食べ物はまずいし、みやげものもろくなものがない。
 それでも女ひとりで歩きまわることができるし、エンターテイメントがいろいろあるという点では他の数々の欠点も目をつぶってしまってもいいかもしれない。

 今回、私はCES(Consumer Electronics Show)のためにやってきた。
 一応天下御免のPressPassを手配して、いざ出陣、というときに考えた。
「今回は取材するのではなくて、視察に徹しよう」と。

 これまでどこかに行くと、どうも「何かにしなくては」という脅迫観念が働いて、しなくてもいい取材(めいたもの)をしてしまう。
 それには「会社で残っている社員たちは働いているんだから」というプレッシャーもあるし、「遊んでばかりいるわけにはいけない」という戒めもある。
 考えてみれば、私は19歳くらいから仕事をしていたので、そのころから「これって、いつか使えるかも」という取材貧乏性にかかっていたんじゃないだろうか。
 いつでもなんでも貪欲に知るという姿勢があるからこそ今の私があるのだけれど、もうそろそろ、スピードを緩めてみてもいいんじゃないだろうか、と思ったのだ。

 そこで今回は「インタビューしないで観て歩くだけ」「もらった資料はホテルでチェックして(なるべく)持って帰らない」「あとでニュースでわかるようなものはほっぽっておく」「約束しない」ということにした。
 つまり、いつもならば、おもしろいものがあれば話を聞き、資料を貰い、名刺ももらい、そのほかタダでもらえるものはなんでも山のように集めて、会える人には会って、だれか一緒に食事しようといえば約束し、コンファレンスをチェックし・・・とまあ、なんだか気せわしいうえに、やたら荷物も重くなる傾向にある。

「取材しない」と決めたくせにPressPassで入ってしまっては申し訳ないので、あとでちょっとだけレポートしようとは思った(そして一応ASCII24にはダメもと原稿を3本送った)が、見て歩くだけってこんなに楽なのか!
 と、新しい発見をした。
 PressPassはどこでもドアみたいに、どこでも、だれでも会えるけれど、それなりの責任とか使命とかがあるのだと改めて感じた。

 とはいえ、やはりある程度はまわってみて、あまりのつまらなさに2度めの驚きを感じた。
 なんでこんなにつまらないのかといえば、私が想像していた「情報家電」とかそれにまつわる生活やシニアライフのための電化製品とかがまったく見当たらなかったことと、近年ではあるけれど学会に参加させてもらったり大学の先生方となかよくさせていただいているおかげで「最先端」の技術や夢に触れる機会が増え、それに比べると現実はまだまだ「ダサイ」のひとことなのだ。
 ダサイということは、今後まだまだ私たち女性の出番は多い。そうわかっただけで来たかいがあった。

 取材しないとなれば駆け足で会場を見てまわり、シャトルバスで別会場もチェックして、それで終了。
 夜は、到着日に手配できた「Load of the dance」のショーを見て、部屋に戻ってから資料チェック。気がつくとやはり深夜になっている。
 翌日はルクソールのiMAXシアターに行くつもりが、エクスカリバーからトラム(モノレール)が走っているとわかって乗ろうとしたら、確かにルクソールは通るのだが、エクスカリバーからはマンダリーベイ(?)まで直行になっている。ルクソールにはそこから戻らなくてはいけない。
 ラスベガスのホテルはこのようなトラップがあちこちに仕掛けられていて、客は知らず知らずのあいだにあちこち引っ張り回されるのだ。
 結局私もマンダリーベイで「せっかく新しいホテルに来たのだから」と立ち寄る。

 Mandaly bayは香港系か中国系のホテルらしくきらびやかでゴージャスだ。
 中心からはずれているからか新しいせいか(?)、人ごみもないので、カジノのなかも比較的落ち着いて歩くことができるし、ショップもちょっと品がある。
 ちょうどバーゲンをしていたので、ボストンにそなえて薄手のセーターと、安かったのでシルクのパンツスーツを買う。
 妹に服を頼まれていたのだが、そもそもアメリカなんかはたいしたものはないのだ。

 買い物袋をぶらさげてルクソールへ。
 iMAXシアターでディズニーの「Fantasia2000」を観る。
 ルクソールのこのシアターは、確か以前はピラミッド探検かなにかの映像で、イスが動くアトラクションをやっていたはずだ。会場まで階段をぐるぐる登らされるのがうざったいが、アメリカ人はだらだら並ぶのは案外平気だ。
 映像は、サンフランシスコのiMAXで観た「エベレスト」にはいまひとつの感じがしたが、登場人物やCGアニメーションなど、予算をふんだんに使っているところがうらやましい。
 一服したらもう3時近くなっていて、まっすぐ歩ければ10分のホテルまで何分かかるかわからないこともあって、とりあえず戻ることにする。

 

 そして案の定迷いに迷って、ホテルに戻ったら5時。
 6時からは隣りのモンテカルロで「ランス・バートン」というマジシャンのショー・チケットが買えたので、即効で荷物をパッキングしてチェックアウト。
 7時開演のショーが終わったのが8時30分。
 ホリデーインに荷物をとりに戻って、タクシーで空港へ。
 飛行機は夜11時53分発だが、CES帰りの人で夜も道路も空港も混雑している。
 空港に10時ころ着いたので、コロナビールとピザで夕食。

 

 取材をしない、と思っていたわりには結構動いた。(原稿も書いたし、資料も読んだ)
 本当はロボットシアターがあるシーザースパレスのフォーラムショップに行って、妹の服をみようかと思っていたのだが、そこまで行けなかった。

 ラスベガスで時間どおりに動けない理由は、とにかく移動に時間がかかるからだ。
 タクシーに乗ってしまえばたった5分という距離でも歩くとたいへん。タクシーを待つのもたいへん。なにをやるにもたいへんだ。
 空港でピザを買うのだって、もたもたしている店員にイライラしていてはダメなのだ。

 やっとのこと買ったピザとビールが半分くらい減ったところで、搭乗案内だ。

 

 



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