カタリーナの理由

 貞淑な面と奔放な面を持つ女性を「カトリーヌ」と勝手に命名したように、いつでも自分中心に話をしてしまう人たちを「カタリーナ」と分類することにしている。
カタリーナはだいたい早口の人が多く、常にその場の中心でいなくては気がすまない種族でもある。 自分は正しいということを常に主張して、誇示し続けることで、みんなの関心と尊敬を得ることができると「願って」いるが、えてして発言は攻撃的で、プライドの高さが他人を拒絶してしまう。

 昔仕事を頼んだライターに究極のカタリーナがいた。
彼女がひとたび口を開けば3時間は忍耐を強制されることを覚悟しなくてはならないし、そもそも語る内容が自慢話か他人をけなすことのどちらかであることが余計オーディエンスを苦しめた。
それでは彼女はどれほど仕事ができたかといえば、「口ほどにない」のであった。
「他人を批判している暇があるなら、もっと仕事をしろ」と何度も言いかけたのだが、彼女の恐ろしいばかりのプライドはそんな他人の助言などを受け付ける余裕など持ち合わせているわけはなく、また、仕事を依頼していた私のほうも、そんなことで彼女の熱弁がとまるならともかく、火に油を注ぐ結果になりかねないと思い、結果2度と仕事を依頼していない。

 私もどちらかといえばカタリーナの傾向があるかもしれないが、自分では「真性カタリーナ」には足元にも及ばないと思っている。
なぜ人はカタリーナになってしまうのだろうか。

 若いころは単なる夢ですんだものが、大人になると「実現努力」をしてしまえるところにいろいろな悲劇が生まれることがある。
つまり、「こうなったらいいな」で終わらせておけばいいものを、なんとかそのとおりにしたいと思うあまりに、そうならなかったときに大きな反動となってしまうのだ。
夢というのはいろいろあるけれど、いちばんやっかいな夢は実現しそうでしない夢だ。
「自分はこう考えている」ということが、周囲や世間とずれているときに、そのズレがわからない人がカタリーナになるのではないだろうか。
ズレているのが自分だ、と、認めるのが恐い。裸の王様のように、孤独を認めようとせずに、それを「孤高」であると美化してしまう。自分が微力であり、小さな存在であるということを視野の向こうに追いやって、「私はすごい」ということを強引にアピールし続けるということは、同じくらい強烈なコンプレックスと不安を抱えているのではないだろうか。

 友人のひとりに、カタリーナ度がどんどんエスカレートしている人がいる。
彼女をどうやって沈静化したらいいだろうかと、周囲の友人たちは少なからず心をくばっている。
「いっそのこと、みんなで彼女をスターにしてあげたらどうかしら」と彼女の親友(?)に言ったら、「だめだめ。彼女の『飢餓感』はそんなことじゃ埋まらないの。もっともっと根本的なことなのよ」と返ってきた。
「だれか彼女をだっこして、『いいこ、いいこ』してあげればいいのにね」と言うと、
「そうなのよね。どんなことだって、だっこしてもらえる人がいれば治るものなのよね」と彼女は笑った。
ちなみに彼女は「まだ手を握ったこともないけれど、大好きな人がいて、とても満たさせてる」そうである。
「満たされてる人がいくら手を差し伸べても、カタリーナにはそれが悔しくなるだけなのよ。彼女自身がきちんと満たされなければなんの解決にもならないの」

 話は変わるが、私はいま、サンフランシスコの空港でこれを書いている。
来る前に買ったばかりのsigmarionをつかっていて、この原稿が送信できるのかどうか、不安たっぷりであるけれど、それはさておき、久しぶりのアメリカ。8ヶ月ぶりだ。
貯めに貯めたマイレージで、往復ゴージャスなビジネスクラスである。
私はいつも「窓際」と決めているのだけれど、友人のなかには「絶対に通路側」という人もいる。その人の言い分では「トイレのときにいちいちすみませんというのは嫌」ということらしいが、私はいちいち言われるほうが嫌だ。
そう思ったら、私ってずいぶん傲慢なんだなと思ったりした。
そして、空路は寝て、食べて、本を読んで、文章を書いて、その繰り返しであった。つまりお隣りとはトイレにたつときに「ごめんなさい」「ありがとう」という以外には何も会話をしなかった。
 私はカタリーナは男女ともに苦手だが、特におしゃべりな男というのは苦手だ。
饒舌な男性の相手は疲れる。年々その傾向が強くなってきたのは、自分自身が仕事でいつもカタリーナ化しているということの反動かもしれない。仕事以外ではなにを語っていたらいいのかわからなくなることがある。なにも語らず、ごろごろしていられるのが一番しあわせに思える。

 好きな人には言葉はいらない。
言葉を重ねることもたいせつだけれど、言葉をいくら重ねても解決できないものがあるということを、最近ちょっと考えている。

 



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