『東大オタキングゼミ』1998年4月15日版 ン1997.Toshio Okada
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第1章 テーマパーク


1.テーマパークとは

 今回の講義は、テーマパークについてです。1982年に開園した東京ディズニーランド、(マニアやリピーターにはTDLの名で親しまれています)は大成功をおさめました。これに押されてバブル経済の時代、日本中でテーマパーク建設が始まりました。しかし、ほとんどが無惨な結果に終わっています。

 失敗の原因としてあげられることは、そもそもテーマパークっていう考え方自体があんまり理解されていなかったということがあります。つまり、ただ単に遊園地のことを英語ではテーマパークっていうんだと思っている人がすごく多かったわけです。「ちょっと豪華な遊園地」を作ればそれがテーマパークだ、という認識だったと思うのですが、実は全然違うわけですね。

 では、そもそもテーマパークとは何なのか。それを考えるために、いわゆる遊園地というのは4種類くらいに分類できるというところからお話を始めることにしましょう。

いわゆる遊園地というものを、「ライドパーク」「アミューズメントパーク」「テーマリゾート」「テーマパーク」と4つに分けてみました。ここでの分類の特徴は、施設や内容の違いもあるんですが、売り上げが何によってなされているのかで分類しているところにあると思います。

 では順番に、その特徴をみてみましょう。

ライドパークというのは、まあいちばん遊園地というもののイメージに近いかもしれませんが、としまえんとか後楽園ゆうえんちというような、乗り物が主な楽しみとなる遊園地ですね。いわゆるジェットコースターがあったり、観覧車があったりというやつです。1900年には、アメリカのシーライオン・パークで宙返りコースターが設置されて、人気をよんでいました。

 ライドパークの収益は、入場料とチケット販売で、入場者の平均滞在時間は4時間程度です。

 ライドパークの問題点はいくつかあるんですが、設備投資にかかる金がどんどん過剰になっていくことが最大のものでしょう。「フジヤマ」とか、そういうでっかいジェットコースター1基作るのに何十億円もかかるようになってしまったので、バーチャルリアリティー技術を利用するとか、もしくはお化け屋敷とか、小さいアミューズメントスポットを作って回収しようとする流れが見えてきています。

 もう一つの問題は、ライドパークに来るのは子供が中心なので、オンシーズン、オフシーズンの差が激しいというこ

とです。夏休みとか、混むときはめちゃくちゃ混む、でもヒマなときはすごいヒマだと。ということはどういうことかというと、ライドパークにある乗り物っていうのは、機械でしょう。機械というのは毎日毎日同じように動いてはじめて整備が楽になるんだけど、過剰のときには平均人数の倍の荷重がかかって、1日に何十回と動いてるのが、乗らないときには全然乗らないとなると、サビが浮いてしまう。これだけでもう故障の原因になっちゃう。つまりオンとかオフがあるってこと自身が、実はメカニカルな運営をやっていかなきゃいけないライドパークにとっては、致命的な問題になってるんですね。

 それから、このライドパークというのは、はやればはやるほど、設備が過剰になっていきます。設備が過剰になっていくってこと

は、実は危険率が上がっていくわけで、その遊園地が加入しなければいけない保険の額も増えていってしまうと。

 お客さんをよぶためにはどんどん設備投資をしなければならない、そうすると保険やらメンテナンスやらの費用も膨らんでいく。そこまで過剰な投資をしてるのに来園者の平均滞在時間も4時間程度しかない。というようなかたちで、ライドパーク自体、実は今、頭打ちになっています。

アミューズメントパークとは、ナムコワンダーエッグとか、広い意味での「アミューズメント施設」で観客を集める都市型の遊園地です。収益は入場料とチケット販売で、これはライドパークと同じですね。

 ライドパークが乗り物中心なのに比べて、こちらはやや大人向けです。つまり、1回のアミューズメント施設の使用料を高く設定できるということになります。それから、ライドパークのように、高低差があるような危険な乗り物を作るんじゃなくて、電子的なものを利用した施設が多いのが特徴です。これの最大のメリットは、とにかく安く済むということです。どうしてかといいますと、ソフトウェアの変更によって乗り物の印象を180度変えることができるので、施設を新しくするというときに、大規模な工事が必要ないからなんです。

 例えばイスが動く映画なんていうのは、恐竜が出ようが未来都市が出ようが海の中へ行こうが、フィルムを変えてイスを動かすプログラムをちょこっと変えるだけで済んじゃうっていう、そういうやり方ですね。ライドパークで模様替えしようと思ったら土木工事しないといけないのとはえらい違いです。どういう違いがあるのかというとですね、例えばこの前まで山の中を走っていたジェットコースターを、今度は海の中を走らせますっていうと、何カ月もの間その一帯を入場禁止にして、収益ゼロにして、工事しなくちゃいけない。ところが別のところでソフト作ってデータ入れ替えるだけだったら、そういう切り替えって3日もあればできちゃう。この差ってすっごい大きいですよね。

 というように、ライドパークと比べると設備投資がものすごく節約できるというのがアミューズメントパークの特徴です。じゃあ問題がないかというとやっぱり悩みはありまして、観客の滞在時間が短いんですね。平均滞在時間は約3時間。あとね、これ1回行ったら飽きる。結局アミューズメントパークっていうのはライドパークの安く作ったバージョンだから、1回か2回行ったら飽きちゃうんですね。

ナムコワンダーエッグとかに行って、電子銃でお化けを撃ったりして遊ぶというのは、ハイテクでかっこいいんだと思っていましたが、実はなんのことはない、安上がりの施設で遊ばされていたということだったんですね。

テーマリゾートっていうのはですねえ、テーマパークをさらに発展させたようなもので、中心部にテーマパークをおいて、その周辺をまとめて開発して大規模リゾートをつくるというものです。いちばん有名なのはフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドなんですが、最近ではラスベガスのルクソールホテルなども注目されてきています。これは開発費は膨大ですが、その見返りは驚くほど巨大です。というのは結局、都市開発ができるからですね。

 例えば、フロリダのディズニーワールド誕生により、1966年には17万人足らずだったオーランドの人口は、20年後の86年には200万人。つまりそれだけ雇用が作られたわけです。

 17万人が200万人になっちゃったわけですね。フロリダのディズニーワールドができる以前は、オーランドっていうところは沼地で、ワニしか住んでなかった土地です。ところがそんな場所にディズニーワールドができて、その周りにディズニー経営のゴルフ場、ホテル、海水浴場とか、そういう施設がガンガンできて、いま街の人口が200万人くらいです。つまり、183万人分の仕事がここで発生したわけです。日本ではあんまり雇用創出というのはいわれないんですけども、とにかくアメリカなんかでビジネスをすると、いちばんいわれるのは、その仕事がいくら儲かるかじゃなくて、どれくらい雇用を作ることができるか、つまりどれくらいの人が雇えるかということですよね。このへん、日本とはちょっと考え方が違うんですけど、その意味で、これは当たればものすごくでかいです。

 ただこれの欠点はですね、ハズすと考えられないほどの被害が出るんです。なんか、向こう35年間にわたって年間50億円の赤字とかですねえ、そういう大爆笑の話をよく聞きますけれど(笑)。これハズしたら、たぶんその企業が倒産するだけでは済まないで、それにゴーサインを出した知事からなにから、全員責任とれというような状況になるでしょう。

 ただ、うまくいくと、地域開発どころじゃなくて、そこに産業が作られて雇用が発生して町ができてっていう、いいことはいっぱいあるし、あと活気ですね。よそから人が来る活気というのが作られる。しかもテーマリゾートというのはリゾートですから、高収入の人、所得高額者が来て、お金落としていくわけだから、犯罪率があまり上がらないんですね。

 もともとはですね、スイスにあるサンモリッツなどのスキーリゾートが原型で、17世紀から18世紀の中頃までは貴族しか行けなかったようなところが、一般市民に解放されたというのがテーマリゾートの始まりです。他に世界で有名なテーマリゾートというと、モナコですね。つまりあそこは、F1レースっていうテーマパークがある町なんですよ。日本でテーマリゾートに近いものというと、京都があるかな。

 収益に関していうと、ちょっとさっきとは違いまして、ライドパークやアミューズメントパークはチケットの売上と入場料がメインだったんですけれども、テーマリゾートは滞在費と物販がメインです。物販というのはお土産の販売ですね。テーマリゾートを作るときのすごい注意点は、この物販がちゃんとできるかということ。つまり、テーマリゾートの中にあるテーマパークの場合、それ自体の売上は、ほとんど期待されてないんです。はっきり言っちゃって、タダでもいいんです。そのかわり、ホテルにできるだけ長い間滞在してくれて、その間そこで食事してくれて、そこでお土産をガンガン買ってくれるっていうのがすごい大きなものなんです。ですから、平均滞在時間は48時間以上というのも、統計上そうなっているだけで、見学なんかで日帰りで帰る人以外はだいたい3日以上滞在します。そういう長期滞在客を対象にして、とにかく滞在中にいろいろなところでお金を使ってもらいましょうというのが、テーマリゾートです。

 さて、いよいよテーマパークです。日本のテーマパークが東京ディズニーランドを除いてほとんどうまくいってないというのは冒頭にお話ししましたが、まず失敗例と言いましょうか、それじゃあうまくいかないだろう、という事例として、瀬戸内海にある「レオマワールド」をあげて説明したいと思います。

レオマワールドというのははじめて聞きましたが、どんなテーマパークなんですか。「レオマ」というと、何かそういう動物とかが出てくるおとぎ話でもあるんですか。

レオマワールドのテーマというのは、一応「おとぎの国」なんですが、その「レオマ」という、いかにも何か伝説でもありそうなネーミングが、実はものすごい理由でつけられたんですね。

 瀬戸内海のレオマワールド。大西さんというのが社長なんですが、開園のちょっと前に、いよいよ開園ということでドキュメンタリーの特番がありました。それによると「レオマ」というのは、

担当の社員が「レジャーは大西にまかせろ!で、レ・オ・マ、はどうでしょう?」といって決まったそうで、大西社長はうれしそうに「これを考えた社員にはボーナスを出しました」と言ってました。

 もう、これ聞いただけで、むちゃくちゃでしょう。そんなの、テーマ性も何もあったもんじゃない(笑)。

 でもこの当時の日本のテーマパーク作ってる人たちっていうのは、テーマパークというのがわかんなくて、何か、高級な遊園地なんだろうと。遊園地があったら、まん中でぬいぐるみが踊ってりゃいいんだろうと。そんで、お昼にはパレードすりゃあいいんだろうと、要するにそういうものだと思っていたわけです。

 それで、そのレオマワールドという、瀬戸内海の島に浮かぶテーマパークというのが、「レストランには和洋食全ての料理がそろう」というのが売り文句のひとつだったんですね。でも僕なんか見てたら、「なんで和洋食なの?」と言いたくなってしょうがないわけです。つまりそれは、テーマに沿ってないというか、例えば森がテーマだったら、森の料理しか食べられない方が、絶対いいんです。逆に言えば、和洋中華イタリアと全部食べられるじゃなくて、これしか食べられない、ここでしか食べられないというところに魅力があるんだけど、日本という国はもともと40年前の貧乏から這い上がってきた国だから、和洋食全部っていうのが豪華に見えちゃう。

 それはねえ、僕が中学生か高校生くらいの頃に、大阪で喰いだおれの人形が出てくるテレビのCMがあったんだ。ロボットが「チンチンドンドン」って動きながらやってて、その時の子どもたちをしびれさせた言葉が、「和洋中華何でも」っていうのがあったんだ。それを聞いたその当時大阪の貧乏人だった僕たちは、「和洋中華何でも」っていうのがすごい豪華に聞こえたわけだよね。でも今は、「イタリアンレストラン」とか、「フレンチレストラン」とか、もしくは「チーズフォンデュの専門店」っていうほうが豪華に聞こえる。このチェンジっていうのが、恐らく80年代の前半にあったんですね。そのことを気付かずに、いまだに「チンチンドンドン和洋食中華全て」っていうね、それは60年代の大阪だよ、レオマさん、って(笑)。それで「レジャーは大西にまかせろ!」でしょ、ダメだよ、それじゃあ(笑)。テーマも何もない。でも、社長大喜び(笑)。

★1 ここで述べた「あえてコレしか食べられない!」を応用し、成功したテーマパークの実例として、横浜の「ラーメン博物館」があります。

そんな理由でテーマパークの名前決めちゃうというのは、ものすごいですね。じゃあ冗談じゃなくて、本当にいい名前だと思ってやってるんですね。「レジャーは大西にまかせろ!」「すばらしい!」と。

そうそう。確かにねえ、「レオマ」っていうのはおもしろい。「なんだ?」と聞きたくなる。すると「レジャーは大西にまかせろ!」だと。それもおもしろい。何より人に憶えてもらえるというところで素晴らしいアイデアでしょう。「じゃあ大西ってなんだ?」って聞くと、もうないんだ(笑)。そこから先がない(笑)。

 これがディズニーだと、「ウォルト・ディズニーってなんだ?」っていうと、あの人のキャラクターだよね。顔を見るとおじさんで、ヒゲを生やしている。あのヒゲも意味があって生やしてるわけで、伊達や酔狂であんなかっこうしてるんじゃなくて、あれは何かっていうと、アメリカ人が追い出されたヨーロッパだよね。尻け飛ばされてメイフラワー号で裸一貫でドーンと東海岸に放り出された、みんなが追い出されたあこがれのヨーロッパの文化、そういうふうなものを子どもたちの代に与えたいと。つまり私たちの代では開拓民だから無理だろうけど、でも子どもたちの代になったらヨーロッパ風の教養を身につけてほしい。それは同時にヨーロッパに対するコンプレックスだけでなくて、よりアメリカ的、つまり大衆的にポップにした形でやることで、故郷のヨーロッパに対して、どうだ俺たちの方がサイエンティフィックに君たちの古典文化を再現したんだよというふうに威張りたいという、アメリカ人のすごい切ない願いが込められてるわけです。それが大西さんは、ヘリコプター持ってるのはよくわかったけど、もうそれだけでその先は何もない(笑)

なるほど。そうすると、ディズニーというものに込められているテーマ性というのは、単純に「おとぎの国」というものだけではない、アメリカ人の精神の根本的なところにまで結びついている、ものすごい深いものだったんですね。そこまで深いテーマ性を持ったテーマパークっていうのは、やっぱりなかなかないですよね。

コンセプトのテーマ性さえちゃんとできればいいんですよ。例えば、ホンダがモータースポーツのテーマパークを作ることはできる。ところが、レオマワールドのテーマは何かというと、やっぱり「おとぎの国」でしょ。それはディズニーでやってるじゃないですか。

 家族そろってどこかに出かけようとなると、おじいちゃんもいればおばあちゃんもいれば子どももいると。そういうふうなときに「ディズニーランド行こう」だったらノリがいいし、もしくは「江戸村に行こう」だったら、「ああ、江戸なんだな」とすごくわかりやすい。「横浜のラーメン博物館行こう」。もうコンセプトはラーメンですよね。すごくはっきりしててわかりやすい。

 ところが、世の中にはわかりにくいコンセプトのがあるんですよ。まさにレオマワールドなんかがそうで、「レオマワールド行こう」「そこ何?」っていわれたら、「えーっと、瀬戸内海にあるディズニーランド」としかみんな答えられない。その意味ではテーマ性っていうのがはっきりしないと、テーマパークというのはなかなか人を呼べないです。

 テーマパークの収益はですね、チケット販売、物販、お土産の3つがきれいに配分されているのが特徴です。チケット販売、それも年間チケットとかの販売が案外多い。あと物販、中でどんどん飯を食って、ジュースを飲んでくれる。それから、帰りにはガンガンお土産を買ってくれる。このお土産をいかに買ってもらうかというのも、テーマパークの勝負どころですね。平均滞在時間は7時間以上と書いてありますが、夕方からの割引の料金で2時間3時間しかいない人を含めての数字ですから、実は1日行ったきりの人がほとんどなんですよ。そうすると最低2回飯を食う。この売上は結構いいですよね。だから数字的には、テーマパークというのはすごくおいしいんですね。なんかそういう話をしてるとうらやましい商売の話をしてるみたいで、関西人の血が騒いできました(笑)。

 テーマパークというのがただの「高級な遊園地」というようなものではないことがわかっていただけたのではないかと思います。じゃあ、そのテーマパークと呼ばれるようなものは、いったいいつ頃から世の中にあったのだろうかという、「テーマパークの歴史」がつづいてのお話です。

 

2.テーマパークの歴史

 テーマパークというのがただの「高級な遊園地」というようなものではないことがわかっていただけたのではないかと思います。じゃあ、そのテーマパークと呼ばれるようなものは、いったいいつ頃から世の中にあったのだろうかという、「テーマパークの歴史」がつづいてのお話です。

人類の歴史でいちばん古いテーマパークっていうと、ローマ帝国のトラヤヌスの大市場でしょう。古代、人が集まるところには「市」が立ちましたが、紀元1世紀、ローマ帝国の最盛期には21平方キロに120万人の人口があって、現在のどの都市よりも人口密度が高い、繁栄したところだったんですね。

 トラヤヌスの大市場というのはですね、当然ローマ帝国ですから石造りなんですけど、3階建ての建物なんです。その建物のいちばん上に、プールが2つあるんです。けっこうでかいプールで、一方が海水で、一方が淡水のプールなんです。その中に魚とかエビとかが泳いでて、それをお客さんが眺めたり、買って帰ったり、その場で食ったりもできるというものでした。

 泳いでる魚を自分で捕まえて食べるっていうのは、本来は海女とか漁師とか、「下賎の民」がすることですよね。それを貴族がわざわざ自分でするってことは、「遊び」なんですよ。「遊び」と「食」とを組み合わせるというのは、実は文明が頂点に達していないとなかなか行き着けないことですから、やっぱりローマ帝国というのはすごかったわけです。ドーバー海峡ではカキの養殖をやってて、トラヤヌスの大市場で足りなくなったら伝書鳩で注文して、常にお客さんが入る分だけのカキをキープしていたそうで、その商業的なルートの確立の仕方から何から含めて、まあエラいもんですね。

 また、1661年にロンドンで誕生したヴォクスホールガーデンは、貴族の特権だった「庭園で遊ぶこと」を一般市民に解放した画期的な庭園でした。

 公園というのはパブリックなガーデンと書くわけですけれど、パブリック・ガーデンっていう概念は、実は近代になって、貴族社会が市民社会に解放されたときに、市民が手に入れた権利の一つなんですね。それまで庭園っていうのは、ベルサイユ宮殿の中のベルサイユ庭園のように、貴族のお城というか、館の中に作られた、プライベートなガーデンだったわけです。

じゃあ当時は庭園っていうと、ちゃんとお城の壁に囲まれてるようなものしかなくて、今みたいに、その辺を歩いていると、適当に手入れされてて、ベンチがおいてあったりするような場所というのはなかったんですね。

うん。その辺にあったのは「荒れ地」といいます(笑)。中世のキリスト教社会では、城塞に囲まれてない部分というのは、すなわち神の契約外の部分だったんですよ。神様が、「この中は安全ですよ」と保証してる範囲はその中だけであって、それ以外はもう、追いはぎが出るような荒れ地だったわけです。

 それで、男は狩りをするので山の中に入ったりもするんだけれども、女の人を連れて散歩したりして自然に触れあう場所というのは、庭園しかなかったわけです。で、市民といいますか、町の人たちというのは、まあ外に出ることはあるんだけれども、それは農地であったりで、別に心が休まるものでも何でもない。そういうふうなものが、貴族社会が打ち倒されて、市民社会になるにつれて、パブリックなものとしてどんどん公開されるようになったと。なかには有料で公開するところもできた。というのが、大英帝国のヴォクスホールガーデンですね。

 そうすると、その中では何をやってたんだろうと気になりますが、サーカスとかアクロバットとかパノラマショーというふうな、今でいう遊園地みたいなことがもうすでにやられていました。貴族の時代にはすでにサーカスというものがあって、貴族は、自分の庭園に呼んできて見ることができたんですね。サーカスというのはもちろん町にも来たんですよ。でもそれが、公園という場所でやられるようになった。そうやって、庭園の意味が変わっていったわけですね。それまでは貴族の私有地であって、もてなすためにいろんな設備がおいてあったのが、みんなが楽しめる場所になって、お金を一回いくらと払って入るというかたちになったんですね。

それまでは特別な場所だった庭園というところが解放されて、まあ入場料はとられるものの、フツーの人でも入れるようになったんですね。当時を想像すると、貴族の人たちしかできなかった「庭園を散歩する」という優雅なことを、そこに行けば自分もできるというのは、それだけで、すごい夢があるというか、テーマ性にあふれたことですよね。今の人たちが「ディズニーランドに行こう」と思う時よりも、もっと大きな魅力に満ちた行為だったように感じます。

1843年にデンマークで誕生したチボリ公園は、明確なコンセプトのもとに作られたという意味で、世界初のテーマパークです。デンマークというのは冬が厳しく長いところですけれども、それに対して、コンセプトはずばり、「春」です。

 このデンマークのチボリガーデンというのは、おそらく世界の公園っていうか、テーマパークの中で、最も有名なところです。日本では知名度低いですけど、だいたいテーマパークを開発する人っていうのはそこへ行って勉強するっていうくらいです。

 施設もかなり立派でして、公園の中にはコースターなどのアトラクションが25種類、レストランは29店、夜には11万個の豆電球が照らされて花火があがり、園内にはカジノまであるというものでした。

 ちなみに入場料は、大人25クローネ、子ども15クローネで、この金額というのは、当時の人が毎日は払えないけれども、あまり気にせず払える料金だったらしい。だから、そんなにむちゃくちゃ高かったわけではないです。

 さて、時代はちょっと前後しますが、1829年にニューヨーク郊外の海岸に誕生したコニーアイランドこそが、アメリカ初の本格的な遊園地でした。ただ、宙返りコースターや回転木馬、観覧車といった現在の遊園地並の施設を誇ってはいたんですが、抱える問題点も現在そっくりで、まさに悪いお手本というか、最悪の遊園地だったんですね。

 当時からコニーアイランドっていうのはめっちゃくちゃ評判悪くて、行ったら物がなくなるとか、スリが多いとか、子どもがさらわれるとかで有名な場所で、ニューヨークの人というのは海に行くというとコニーアイランドしかなかったからしょうがなく行ったんだけども、係員の態度が悪いとか、売春婦のたまり場になっちゃってるとか、園内もゴミだらけで、すごく有名でした。

 コニーアイランドを見たければ、『ウォリアーズ』という、ウォルター・ヒルの映画があるんだ。ウォルター・ヒルというのはね、アメリカ一のバイオレンス監督でですね、なんか、暴走族がどつきあいばっかりやってるような映画を撮ってる人なんですけども。その人がコニーアイランドを舞台にして撮ったという映画です。

 それで実は、あのウォルト・ディズニーというのも、コニーアイランドに来てものすごいがっかりした一人だったわけです。ちょうどその頃、ディズニーはアニメーションの製作が一段落ついて、さあ次は何しようかと思って、そういえば新婚旅行もロクに行ってなかったなといって奥さんを連れて、コニーアイランドに来たんですね。そして、怒り心頭に発して、「どうにかならんのか」と思って、次にデンマークのチボリ公園に行って、「なんだ、できるじゃん」と。「なんでこのチボリ公園みたいなのを作らないんだろう」と。そこでまた出てきたのが、「ヨーロッパのいいものを、アメリカのサイエンスで皆さんに安く提供」っていう、ディズニーの思想だよね。というわけで、ディズニーがディズニーランドを作ろうと決意した背景には、その最悪の遊園地、コニーアイランドがあったんですね。

じゃあ、その最悪のコニーアイランドがなかったら、ディズニーランドは生まれてなかったかもしれないんですね。それにしても、なんでコニーアイランドというのはそんなにダメになっちゃったんでしょうか。何か理由でもあるんですか。

当時の遊園地って、それが当たり前だったんですよ。やる気のない従業員は当たり前だし、園内が不潔なのは当たり前。スリや強盗が多いのも当たり前。売春婦のたまり場になっちゃうのも当たり前で、どうやってそうしないのかが難しい。どうすれば遊園地を美しいまま保つのか、っていうほうがよっぽど大事なんですよね。ヨーロッパの場合は貴族がもっていた管理された庭園がもとになって公園ができたわけだから、すごく目が届きやすいというか、管理しやすいのに対して、アメリカの場合は新天地でしょう。そこにいきなりアミューズメント施設を作ったもんだから、「アミューズメント施設だ!」「昼は楽しむぞ!」「夜は飲むぞ!」「売春!」「ギャンブル!」ってなって当然だから(笑)。

 たぶんね、ピノキオに出てくる「プレジャーアイランド」っていう、ピノキオが誘惑されていく悪の巣窟みたいな遊園地があるんだけれども、それがこの時のコニーアイランドがモデルになったのかもしれません。

 

3.ディズニーランド研究

 さて、アニメーションの製作に一段落ついたウォルト・ディズニーが最悪の遊園地コニーアイランドで怒り心頭に発した結果、できたのがディズニーランドだったという話までしました。今回は、そのディズニーランドに焦点を絞って、いかにディズニーランドがうまく作られているか、訪れる人を楽しませる作りになっているか、研究してみることにしましょう。

ディズニーランド開園は、1955年7月17日の日曜日。当日のABCテレビ中継レポーターとして「眠れる森の美女の城」の前に立ったのは、若き日のロナルド・レーガンでした。当時レーガンはチンピラの俳優だったわけですけれども、それがマイクもって「眠れる森の美女の城」の前で、「さあアメリカ国民どんどん来い来い」とかやってたわけですね。

 この後、このディズニーランドというものがより広く世界の人たちに知られることになった、有名な事件があります。

 ケネディが大統領候補だったときに、ギニアの大統領がアメリカに来たわけです。その時に、ケネディがディズニーランドを1日借り切って、ディズニーランドのレストランの中でギニア大統領との会談をやったんです。その日は園を全部オープンにして、普通の人は無料でディズニーランドに入れるようにして、この日はギニアDAY、ギニアの日だということで、そこら辺の旗を全部ギニアの国旗に変えたりしました。で、「眠れる森の美女の城」の前にテーブルを置いて調印式なんかをやって、当たり前だけどアメリカ国民にめちゃめちゃ受けたわけです。こういうイメージ宣伝の連続で選挙に勝った。これがジョン・F・ケネディの成功って言われるやつです。

★2 ケネディのテレビ好き、利用の上手さは有名です。1959年、ニクソンとケネディの共和党と民主党との大統領選挙がありまして、宣伝合戦があったわけですね。ニクソンはニクソンで強さをアピールする。ケネディはケネディで若さをアピールする。で、クライマックスのテレビ生出演でニクソンとの公開討論が決戦の場になった。ところが、論争に熱中するニクソンを尻目に、ケネディは「論争の中身より印象」を優先させた。テレビでニクソンに言い勝ったわけではなかったんです。テレビの前で演説したんですけども、ニクソンが何か言うたびに「ホントかな?」とか「ウソつけ」というふうに顔をしかめることによって、全米の視聴者の心をつかんじゃった。ケネディはだからテレビの利用方法をすごく知ってた政治家としても有名なんですね。

 この成功に味をしめたウォルト・ディズニーは、東西冷戦のさなかにアメリカに来たフルチショフに対しても同じことをしようとしました。ディズニーランド内の潜水艦の前で「閣下、米ソに次いで世界第三位の船舶数を誇る、わがディズニー潜水艦隊です」とか見栄を切りたかったんですよ。この提案にはフルチショフも大喜びで、「俺もディズニーランドで握手をして、世界中からかっこいいと言われたい」とOKを出したんですが、警備担当者からダメが出て諦めたそうです。

やはり、当初からディズニーランドというのはアメリカ人にとっても夢に満ちた場所であり、ケネディという人はそれを見事に利用したわけですね。でも、考えてみれば、ただのネズミのぬいぐるみを着た人間がうろついている場所なのに、それがどうしてそんなに夢の場所に感じられてしまうんでしょうか。

ディズニーランドにやってきた人が、どうしてそんなにハマってしまうのか。日常生活している世界とは違う雰囲気というのは、どこから醸し出されているのか。そして、どうして「また行きたい」と思ってしまうのか。実はそれには、ちゃんとそう感じるように作られているという、理由があるんです。そういった仕組みというのを、行ったことがある人も多いと思いますので、東京ディズニーランドで説明することにしますね。

 東京ディズニーランドというのは、直接建設費が1260億円。プロジェクトの規模は、戦後最大の事業といわれた黒部の第4ダム建設にも匹敵します。ほぼ国家プロジェクト並の資本投下、雇用創出、経済波及効果を生み出しました。

 それほどの投資によって作られるわけですから、それは相当考えて作られているわけです。ここでは大きく分けて三つ、次のような「仕掛け」についてみてみましょう。

 最初は、ディズニーランドというのはいろいろなところで、実際以上に遠近感を感じさせる作りになっているという話です。

 「建物の縮尺」というのは映画のセットを組む時に使われる方法です。建物があって、2階、3階とあるんだけれども、それを見た目で高く感じてほしいわけです。それでどうやったかというと、縮尺を工夫しました。ディズニーランド内の建物は、だいたいどれも中に人が入れるんだけれども、ちょっと小さいなと感じたことはないでしょうか。というのは、街の中にある実際の建物と比べたとき、ディズニーランドの建物というのは、1階は実物の8分の7の縮尺、2階は5分の3の縮尺っていう比率で建てられているわけです。映画のセットを作るときに、「パースをつける」というんだけれども、遠近感を極端に強調した方法だよね。

 だから、3階建てでも、普通の2階建て程度の大きさで、3階まで階段もあって窓もあるんだけど、よく見たら3階なんて人が立って歩けない。かがんで這ってまわるようなスペースしかないんだけれども、ただ見てる分には目がだまされて、ちゃんと3階まであるように見えるわけです。おかげで、実際は小さいのに実物以上に遠近感が感じられて、空間がすごく広く感じるし、建物が低い分、空が高く感じるんです。すごく開放感がある。実際のディズニーランドの2階3階部分は倉庫にしか使われないらしいんですが、そういう縮尺の組み方をしてあります。

 それから、何気なく歩いている道路にも工夫がされています。

 これはね、ディズニーランド全体に言えるんだけども、どんな道路でもメインストリートから奥の方にいくに連れてやや狭く、入り口の方はやや広く作ってあります。それだけで、道がとても長く感じる。で、一本道で、そういうふうな舗装ができない場合は、真ん中をやや高くして、両側をすぼめてあります。そうすると、その道にさしかかったとき、反対側が見通しにくくなってるもんだから、とても奥行きのある感じがするわけです。

 で、直線で行けちゃうところは、当然クネクネ曲がって行かせた方が距離を歩いたように感じるでしょ。でもただそういう道になってたらダラダラ歩かされたような感じがするから、そこに池を作って池を回り込んで、その先にアトラクションの入口を作れば、回り道した感じしないじゃないですか。そういうふうに誘導して、結果的に長い距離を歩いてもらえば、ディズニーランドっていう空間を、実際以上に広く感じさせられるわけです。

なんか、知らないところで実にうまく作られてるんですね。すごいよなあ。ことごとく、よく考えられていますよね。

うん。それはねえ、君が人をだまさない職業だからだよ。俺みたいに人をだます職業だと、それは最初に考えるって(笑)。

 そういう設計はまだありまして、東京ディズニーランドは「ワールドバザール」っていう入ってすぐに屋根のあるところを抜けたら、「シンデレラ城」というのが前にバーンと見えます。それを真横から見るとどうなってるのかっていうと、「ワールドバザール」と「シンデレラ城」との間の地面が、ガバッとえぐれてるんですよ。

 これ、なんのためにやってるのかっていうと、実は、「ワールドバザール」を抜けたところに立って「シンデレラ城」を見るとき、目の前の地面がまっすぐの時よりも、えぐれた地面の方が遠く見えるんですよ。

 これをよく利用するのが、映画ですね。崖っぷちに立って海を見たり、向こうの大陸を見て、主人公が決意するシーンっていうのを映画ではよく撮るんですよね。崖っぷちに立って眼下に海が広がってるっていうのは、すっごいスケール感があるように見えるわけ。ディズニーはその辺を知ってましたから、地面を掘ってえぐっちゃったわけです。本当は「ワールドバザール」出たところから「シンデレラ城」まで200メートルちょっとしか離れてないんですよ。300歩歩いちゃうと着いちゃうくらい近いんですけども、その地面のために、心理的にはほぼその3倍くらいの感覚があります。

 それから、「暖色と寒色」の違いを効果的に使った設計っていうのもやられています。

 人間、暖かい色は飛び出て見えて、寒い色は奥まって見える。つまり赤とかオレンジ色というのは近く見えるんだけれども、青とかグレーとかは遠く見える性質があります。そうするともうおわかりの通り、「シンデレラ城」というのは基本色は白と青なんですよ。で、「ワールドバザール」のまわりでは風船とかが売られてるんです。なんであそこで風船を売ってるのかもわかりますよね。それから、パラソルのでっかいやつみたいなのも置いてあります。これらは、派手な色です。派手な色を自分のまわりに置きながら、「シンデレラ城」の青とか白を見ると、すごい遠近感が生まれると。

 で、反対に、その人間が「シンデレラ城」まで行って、「ワールドバザール」の方を見るとどうなってるか。城の前に立ってみると、ちょうどうまく、手前にある木で風船とかパラソルの派手な色が隠れるようにできてるんですよ。で、「ワールドバザール」の屋根とか建物の壁はクリームとかグレーとかがメインになってるので、またこちら側からも遠く見える。おまけに自分は城の寒色を背中にしているんだけれども、背中だから当然気づかない。こういうふうな方法で、遠近感をものすごくごまかしています。ごまかしているっていうか、うまく利用してるってわけですよね。

いや、驚きました。「シンデレラ城」が白と青というのは、「やっぱ城は白だろ」とか、適当な理由で塗られているんではなくて、そこには「実際より遠く見せる、スケール感を感じさせる」という意味があったんですね。「ワールドバザール」を出たところにあるパラソルの派手な色も、「その方が楽しそうだから」とかいう曖昧な理由ではなくて、ちゃんと考えた上で設計されていたとは、知りませんでした。

つづいて「本能によるマーケティング」ということですが、これは何かというと、言葉や論理では説明しきれないんだけれども、おそらく人間っていうのはこういうのを快感と感じるんじゃないか、というような想像に基づいて、極めて本能に近い部分に訴えかけようとする「仕掛け」のことです。

 例えば、ミッキーマウスというのは赤いズボンをはいていて、手袋は黄色だというふうに決まっているんですけれども、その黄色っていうのがどんな黄色かっていうのが、何十センチもの厚さのカラーマニュアルで決められています。

 だからみなさんが東京ディズニーランドで見ているミッキーの色と、フロリダのディズニーワールド、あとロサンゼルスのディズニーランドで見るミッキーの色は、全部違います。国や地域によって、同じ黄色でもどんな黄色が受けるのか、どちらの方が見る人に快感を与えるのかを研究して、色を調節しているわけです。

 ちょっと脱線しますが、日本で公開されるウォルト・ディズニーのアニメーション映画に関しては、現像所で、「焼きのタイミング」っていうんですけれども、露出のタイミングを変えることによって色を微妙に調節しています。はたしてそれが本当に意味があるのかどうか、誰もわからないんです。公開された映画がビデオ化されてレンタルビデオ屋に置かれるんですけれども、これのパッケージも、都市部と田舎部では色が違うんですね。ある地方全体の年間所得の平均というのを出して、あるいは『アラジン』だったら年齢層高いから15歳以上22歳未満というふうにターゲットを限定した上で、どの地方のビデオレンタルに置くかによって「だったら赤はこの赤だ」というふうに決めるカラーマニュアルがすごい分量あります。

 これはもちろん、ディズニーの宣伝担当の人も家にもって帰れませんし、実はLAにあるディズニーの本社にしかなくて、これがあることすら秘密と言われています。なんでかっていうと、もちろん、そんなことをしたら「人種差別につながりかねない」っていうことになっちゃう。

一つ一つのぬいぐるみとか、建物とか、その他の施設全部について、使われている色というのも徹底して考えられているんですね。そういういちいち細かいところをていねいに考え抜いている結果が、ディズニーランドを本当に夢がある空間と感じさせているんだと思います。それにしても、地域ごとに、「好まれる赤はどの赤か」なんて研究しているとは、生半可じゃないですよね。

では次の、「日常→不安→混乱→日常」というやつです。これは、人間の心を動かす、典型的な一つのパターンなんですよ。日常的なところから、ちょっとした不安が生じて、それが混乱するほどの状況になって、再び日常的な場面になったとき、だいたい人間っていうのはすごくほっとしたり、よかったと思ったり、快感を感じるんですね。

 ディズニーランドというのは、駐車場とか駅から入口の方に行くまでのところはですね、すごく日常的な雰囲気になっています。最初からとばさないんですよ。いきなりミッキーとか置かずに、花壇とかを置いて、日常的な感じになっています。そして、入口のところは狭くしておいて、ボトルネックにしておいて、混雑している感じにしておく。その次に、チケットをもぎ取るときには、混雑が最高になって、人の肩がぶつかるくらいに設計されているわけですね。この日常→不安→混乱という状況に続いて、そこからポンッと出ると、もう前にお城があろうがただの木しかなかろうが、人間っていうのは、「ディズニーランドに入った!」というふうに感動しちゃうんです。

 で、この基本的な手を日本映画を作ってる人っていうのはだいたい知らないんで、日本映画って退屈なものが多いのです。ハリウッド映画というのは、みなさんストップウォッチを見てはかってもらったらわかりますけど、見事にこのパターンに沿って作られています。120分の映画だったら、最初の30分は間違いなく日常的なシーンで、「ちょっと出会った」とかやっててですね、次の30分は「本当にあの人は私のことを好きなんだろうか?」とかやって、次の30分では「妊娠したかもしれない」とかなってですね、最後には「やっぱりよかった」ということに絶対なりますから(笑)。

なんと、ディズニーランドの入口が狭くて混雑しているというのは、来る人が多いからとか、人件費を削ってるからとかいうわけではなくて、わざと混雑させる設計になってて、入った瞬間に「ついにディズニーランドに来た!」という快感を与えるためだったとは……。ここまでくると、もういかに自分がハメられていたというか、設計者の思うがままに感動させられていたということに、唖然としますね。

ディズニーランドというのは、来た人を感動させるだけの設計しかやられてないと思ったら甘いです。1日見てまわって、「もう1度来たくなる理由」があるんです。

 東京ディズニーランドというのは、面積が、ほぼ45ヘクタールから50ヘクタールの間です。しょっちゅう拡張工事をやっているのでこの間としか言えないんですが、だいたい人間がディズニーランドに7時間滞在したとき、平均して7キロメートルから8キロメートル歩くと言われています。で、この7〜8キロメートルというのを45〜50ヘクタールで計算してみるとですね、なんとうまくできたことに、全体の7割から8割しか歩けないんです。つまり、はじめてディズニーランドに行って、適当な混雑の時に7時間歩いて見てまわると、必ず3割は見てない部分が残るようになっている。この部分が、もう1回行きたいと思わせることになっているわけです。

 テーマパークを作るときには、どのくらいの広さにするかというのがまず問題になります。あまり狭ければ、すぐに全部見てまわれますから、もう1回来る気にさせられない。でも広くするには、確実に用地コストがかかってしまう。そういうバランスを考えたときにも、ディズニーランドというのはとてもよくできていると言えるんですね。

 

4.テーマパークの経済学

 ここまでの話でテーマパークというのがどんな施設なのか、わかっていただけたのではないかと思います。つづいては、みなさんの中にも将来テーマパークを作りたいという人がいるかもしれませんが、テーマパークというのは今後事業として取り組むとしたら可能性はどうなのか、そして具体的にはどうやってテーマパークというものの設計はやられているのかということを考えてみましょう。

まず、上の図を見てください。日本の人口を世代ごとに分けて表した、いわゆる人口ピラミッドというものです。日本の人口構成は40年前はきれいなピラミッドの形をしていました。しかし、出産率の低下、老人医療の発達によって今や人口ピラミッドはその形を崩しています。2010年の人口最大のボリュームゾーンは35歳と60歳。人口のピークは20年後の2015年と予想されています。

 どうしてこんな図を持ち出したかといいますと、事業としてテーマパークに取り組む場合に、まず考えないといけないことは、何歳くらいの人をメインのお客さんとして想定するか、何歳くらいの人が来たくなるようなテーマパークを作るかということですね。それで、どうせなら人口の多い世代をターゲットにして設計した方が、まあうまくいくのではないかと考えるわけです。

 つまり、今は、テーマパークみたいなものは恋人同士で行くのがかっこいいとか言われてますけど、あれは代理店の陰謀でありまして、ただ単に皆さんが最大のボリュームゾーンでお金を持っているからそう言われてるだけなんです。これがずーっと先に行くと、たぶんこれから5年後には、25歳くらいの男女がテーマパークに行くのがかっこいいと言われるはずですし、10年後には30歳前後の結婚したカップルがテーマパークに行くのがかっこいいと言われるはずです。それはもう、ただ単にこのボリュームゾーンが推移していくだけの話で、そこに的を絞った宣伝というのがやられるわけです。ですから、これからのテーマパークのマーケット対象は、現在のカップル中心から推移せざるを得ないと言えます。

★3 すでにディズニーランドでは、宣伝キャンペーンの主力を「家族での思いで作り」にシフトさせています。開園当時の「デートの場としてのディズニーランド」から比べると、大きな違いがありますね。

なるほど。ディズニーランドで好きな人とデートしたらどんなに楽しいだろうと今は感じさせられていますが、10年後には、ディズニーランドに自分の子どもを連れていったらどんなに楽しいだろうと感じさせられるはずなんですね。そういう意味では、第二次ベビーブームに生まれた今の大学生世代というのは、今後もしばらくは何かにつけてマーケットの対象として、カモにされやすいんですね。

そういうことです。ところで、そもそもこんなにも娯楽産業、余暇産業というのが注目されるようになった背景には、人々の労働時間がこの100年くらいで劇的に少なくなったことがあります。

 1890年、アメリカの代表的大企業スタンダードオイルの従業員の1日の労働時間は16時間でした。それが30年後の1920年には、10時間になりました。1920年っていうのは何かっていうと、1929年にアメリカの大恐慌というのがありまして、その直前、アメリカを中心に世界の経済がもっとも発展した時代ですね。この時代で、アメリカの労働者の1日あたりの平均労働時間は10時間になったわけです。現在はもちろん、それからさらに減っていて、だいたい正味で7時間程度っていわれています。

 1890年の労働時間16時間っていうのはどういうことかというと、寝る以外はだいたい働いているというような状態です。つまりそれだけ賃金が安いということですし、仕事が終わったら寝るしかない。それが30年たって10時間になったっ

ていうのは何を意味するのかというと、1日10時間労働すれば、もうそれで食えちゃう、生活できちゃうという意味です。寝る時間を8時間としたら、残りの6時間は、何かをしているわけです。その何かをしている時間っていうのが、いわゆる余暇時間というやつです。この余暇の増大が、空前のレジャーブームの引き金となったわけです。日本でも、学校の完全週休2日制度の導入などで、今、余暇産業はたいへん注目されています。

 次の図は、日本の娯楽支出と余暇支出というやつですけど、1989年から1年刻みになっていますが、娯楽に対してのお金、余暇に対してのお金というのが、どんどん増えています。バブルが崩壊して、国民の支出というのは下がったはずなんですけども、不思議なことに娯楽と余暇に関する支出だけは年間5%以上増えています。だからまあ、テーマパークというのもその意味で景気のいい産業だというふうにいわれているわけです。

 それでは現在、テーマパークというのはどのような方法で設計されているのでしょうか。

 やっぱり事業ですから、どうやって資金を調達するかという問題があります。テーマパークを作ろうとしたら、どうしたって莫大なお金が必要になりますが、金融機関の審査部門では、テーマパーク事業に対して投資額の設定ルールを設けています。ある金融機関だと、入場者1万人で消費単価5000円に対して投資額1億円というルールがあります。わかりやすくいうと、受ける融資の金額によって、逆にどの程度売り上げを上げなければいけないかが決まってくるわけです。そのために、テーマパーク開園までには、大変な分量の調査が行われます。

 例えば、経験則として、年間で最も入場者の多い日から数えて30日目を目安に、テーマパークの「平均的な1日」というのが設定されています。その中でも、午後2時あたりがその日の入場者の70%が集中するピークと考えられますので、パーク内のトイレの数や食べ物、混雑も、すべてこの数字をもとに作られます。

 土地も、できるだけ安く手に入れたいですよね。そのためにどういう手法がとられているかというと、最初の段階で、テーマパークだけでなく周辺の土地も買収し、パークを作るというアナウンス効果によって周辺地を開発します。それらの利益によって用地代をゼロに近づけるというやり方が一般的です。

 それから、どこに作るのかという問題は、交通の利便性のことを考えるのももちろんですが、温度という要素も重要です。その地域が、暑すぎず、寒すぎないことも大切です。アイスクリームは気温が23度を超えると売れ始め、28度を超えると売れ行きは鈍って、飲み物や氷ばかりが売れるようになります。また、マクドナルドのハンバーガーというのは客の口に入るときに摂氏62度になるように調理されています。それがいちばん人間がおいしいと感じる温度だからなんですね。このように、人間の快適な温度は決まっているので、寒冷地などにテーマパークを作る場合は屋内設備にしなければならず、建設コストが上がってどんどんお金は消えていきます。

 アイスクリームの話をしましたが、この飲食代というのをあなどってはいけません。テーマパークの収益は、最初の「遊園地の分類」のところでも話しましたが、チケット販売、物販、飲食代の3つです。それで、この3つがちょうど1:1:1のバランスの売り上げになるのが理想的というふうにいわれています。チケットを買って中に入って、ちゃんと食事して、ジュースを飲んでもらうこと、帰りにはお土産を買ってもらうことが、ものすごく大事なんですね。

★4 ここまで読まれた方にはもう、大方の見当がついているだろうが、ディズニーランドの宣伝をテレビで全国にするのには理由がある。ただ単なる遊園地ならば、関東地方だけの宣伝で充分なはずだが、その宣伝を全日本で展開する理由は「オミヤゲ効果」であろう。つまり「テレビで知っているディズニーランドに行った=オミヤゲを買わなくちゃ」というブランド感を出すための宣伝なのだ。お客をディズニーランドによぶためのCFではない。「オミヤゲを買わせる」ためのCFなのだ。

 お客さんが使う金額というのは、滞在時間に正比例します。つまり、なるべく長い時間パーク内にいてもらいたいわけです。そのために面積を大きくして、売上高を大きくしようとすると、最初の土地への投資が大きくなっちゃう。その辺のバランスが難しいわけですが、前にも話したように、例えばディズニーランドは、1日歩いても7割しか回れない広さになっていて、「もう一度来よう」という気を起こさせる、うまい広さになっています。

 


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