4.いま起こっている、ヘンなこと
マルチメディアについて語るとき、どうして人によってバラバラな意見になるのか、ということを、ここまで考えてみました。マルチメディア業界の関係者が、その価値観によって「おたく」「ネクタイ」「電機屋」「ギョーカイ人」「役人」「カリスマ」の6種類に分けられること、また、その交点から新しいソフトが生まれるという話でした。
実際、現在もいくつかのソフトのようなものが開発されたり、企画が進められたりしています。でも、それらをみると、どうもヘンなものが多いです。なんでそんなものをつくっちゃうんだろうとか、本当にそうなるの、と疑問を感じざるを得ないヘンな話というものが、いくつかあります。

いま世の中で起こっている、マルチメディアがらみのヘンなこと、を順番にみていこうというのが、つづいてのお話です。
まず大きな問題は、官僚の争いですね。先ほどもいいましたが、どこがどれを担当するんだ、という話です。
で、通産省が、いまのところいちばんキャスティングボードを握るといわれているところです。しかし通産省というのはですね、
かつて自分がキャスティングボードを握った企画で成功させたことがないという、悪夢のような省庁でありまして(笑)。
たとえば、戦後すぐにですね、「自動車産業なんてのは、まあ子どものおもちゃみたいなもんだから、まあ日本で、そうだな、会社2つとか3つありゃいいから、みんな合併しなさい」とかいって、戦後日本にあった個性的な自動車会社が通産省の意向でいくつもつぶされちゃうということがありました。その結果、まあ日本の自動車産業というのは、けっこう遅れちゃったんですよ。いまの自動車社会というのを、通産省は全然読めなかった。
もうひとつは、15年くらい前に、これからのコンピューターは大きくなっていくのか小さくなっていくのか、という議論がありました。よくいわれる、スパコン、大型コンピューターみたいな方向で進化するのか、それとも個人で使うようなパソコンが発展するのかという問題です。
これでも通産省は完璧な読み違いをして、その、大型コンピューターを開発している富士通とかにですね、ガバガバっとお金を出して、人も投資して、国際競争に勝とうとしたわけです。
ところが、その後スーパーコンピューター開発も、演算速度では世界トップだったクレイ社とかにも勝ったんですけれども、そこまでやって計算速度を上げても、やることといったら気象予測くらいしかないわけですね。大規模な雲の流れとか大気の動きっていうのは、各々の気体分子の典型的な動きというのをそれぞれベクトル計算して集合体で表して把握するという、恐ろしいことをやってるんですけど、それくらいしか実は使い道がないんですよ。そんな計算速度の速いやつは。
それから、みなさんが高校とか中学生くらいのときに新聞によく書いてあって、もういまはみなくなった話に、「第5世代コンピューター」とか「光コンピューター」というのがあるんですけれども、あれはもうご存じのとおり開発がとん挫しちゃいまして、そういうものはなかったことになっています。
あとですね、さっきのファイバー・トゥ・ザ・ホーム、というやつなんですけど、実はNTTが電電公社時代に、日本全国の主要都市に光ファイバーを引いたんですよ。引いたんですけどね、「そんなに大容量のファイバーなんか、必要ない」といって、電電公社がNTTになるときに、開発を中止しなさいとは通産省もいいませんけども、開発しなくていいというふうにいっちゃったんですね。あの光ファイバー、日本各地のメインのところへ張ったものが、いま朽ち果てようとしています。
その他にも、まあ、けっこうナンパなところでは、いま通産省では「国立国民映画学校」というのをつくろうとしているんですよ。ネーミングもすごいんですが、おかしいと思うのは、その国立国民映画学校にアニメ部門がないんです。
これは、考える人が考えればわかるんですが、いま日本で、よその国に比べて金をとれる映画、国際競争力のある映画っていうと、怪獣映画と、寅さんと、アニメだけなんですよね。で、この怪獣映画も寅さんもアニメもつくらずに、いきなり黒沢明とかですね、あとなんだっけな、あの、なんかすぐに吉原で女の人がどつきあいするような映画ありますよね、ああいう映画の監督にガンガンお金を渡しちゃおうとしています。
まあ、過去の話はこの辺でおしまいにして、では彼らはいま、マルチメディアについてどんなことをいっているのか。
最近よくきく「123兆円」という数字があります。これは何かというと、郵政省の諮問機関が今年1994年の2月にまとめた、マルチメディア産業が2010年、いまから15年後に発生する、総生産というか総売上みたいなものですね。
123兆円というと、国民ひとりあたり、えっ、100万円?そんな恐ろしいことをいうわけです。で、それによって得られる直接雇用250万人。間接雇用、彼らがいうには1500万人から2000万人以上。国民の、働ける人のうち2人に1人はマルチメディア産業で働くという、すごいことをいったわけですね。
でもこれはまあ、極端に数字膨らましたもんで、いま通産省がいってるのは、これを半分にしてます。60兆円と125万人というふうに。まあ、こういう話があるもんだから、マルチメディアに対するビジネス界とか官庁の注目というのが大きくなっていて、これによって、産業界の思惑がなりたっているわけですね。

やっぱり、そんなでかい数字をみせられたら、企業がマルチメディアときいて、うちだけ遅れてはならない、何かせねば、と思う気持ちもわかりますね。よくきく話では、インターネットにホームページをつくる企業が増えている話とか。でも、ホームページをつくっても何がメリットなのか考えるより先に、とりあえずつくってる、という感じがします。そのへんの、バランスの崩れた感じというのも、マルチメディアの混乱のひとつなんでしょうか。

そうだねえ。何かしようと思っても、結局マルチメディアってものがわかりにくいから、おかしなものがでてくるんでしょう。じゃあ、官庁の話をしたので、次に産業界、企業で起こっているヘンな話をしてみることにしましょう。
デパート業界では、マルチメディアの発達にともなうネットワークの進歩とか、流通革命によって、デパート自体がなくなっちゃうのではないかというふうにいわれています。ですから、そこでどうやって生き残っていくかというのはデパート業界の大きなテーマなわけですが、いま三越がバーチャルリアリティー技術に注目してつくってるやつがすごいんだ。
まず、デパートの屋上にテントみたいなのがあるわけです。テントをなかに入っていくとですね、カウチがあるんですよ、ソファが。まあ、俺がみたやつは、例の、猫足のバロック調というソファだったんですけど、そこに座ると、目の前に宝石箱があるんですよ。
で、その宝石箱をパカっと開けると、すごいでっかい指輪が入ってるんです。これが、ジョイスティックなんですよ。宝石箱の向こう側にはでっかいテレビスクリーンがあって、その宝石箱の指輪を握ってグッと動かすと、テレビに映ってるすっごいせこい3Dで描いたデパートの廊下を歩けるんです。で、その一式には「奥様向け」って書いてあるんですが、なんで奥様向けかっていうと、宝石箱のなかのでっかい指輪がジョイスティックになってるからなんですね。
こういう、消費者をなめたようなことを研究してまして。で、僕、そのビデオをみせてもらったときにですね、まあ一応自分が映像づくりの人間として、「この映像だったら700万だな」というふうに見積もったんですけど、これに出た予算が2億ときいて、「マルチメディアがいまおいしい」というのは本当なんだなと思いましたね。
それから、今年の6月に「日本液晶学会」というのがありまして、そこでシャープの人がいっていたことなんですが、だいたい今年の秋くらいに、シャープは液晶の生産が月産500万枚になるそうです。で、液晶の技術はシャープはいちばん進んでますから、それを追って他のメーカーもいっせいに液晶工場というのを世界中につくっているわけです。
となると、今年から来年にかけて、月産何百万枚の液晶というものができるわけです。そうするとですね、まあシャープのものだけでも、月に500万枚も液晶を使わなきゃいけなくなるわけですよね。
でも、そんなに使い道ないんですよ。だから、みなさんがいま買おうとしている新しい電話機とかに、全部液晶がついてるのはこれですね。とにかく液晶の使い道をさがそうとして、みんな必死なんです。カーナビゲーションシステムとかの宣伝に熱心なのも、これのせいです。何か使い道をさがさなきゃいけない。
で、大林建設が考えたのが、高層ビルの壁面を全部、カラー液晶にしちゃいましょう、というものです。壁を全部テレビにしちゃって、そこに自然とかを映して、都会人が失った心のオアシスを再現しましょう、と。
お昼になったらですね、なんか高層ビル全面に「思いっきりテレビ」とかがオンエアされるわけです。……そういう未来、やだなあと思いますね。

デパートのバーチャルリアリティーというのは、なんかものすごいですね。でっかい宝石箱を開けて指輪型のジョイスティックを操作するというのには、何ともいいようのない破壊力を感じさせられました。
それと、必要だからつくるんじゃなくて、つくっちゃったから使い道をさがすという液晶の話も、バランスの崩れ方がマルチメディアっぽくて、いいですよね。
さて、官庁、産業界、ときましたが、あとは個人ということになるんでしょうか。いま、ひとりひとりの人間のまわりで起こっている、マルチメディア関係のヘンな話、というとどんなことがあるんでしょうか。

やっぱり個人となると、パソコンの問題ですよね。パソコンで何が問題なのかというと、最大の問題点は「パソコンで生産性は上がるのか」というものです。
これ、ソースを忘れちゃったので、あんまりはっきりした数字はいえないんですが、アメリカで、あれは何省だったかが調べたことなんですが、パソコンを導入したことによってだいたいアメリカ人のビジネスの生産性はどれくらい上がったか、という調査です。確かその結果は、98〜104%の間だったと思います。つまり98%というのは、下がっちゃってるってことですよね。104%は、4%上がったと。
そこに書いてあった主な理由が、たとえば、ボールペンというものを使うのには、買ってきたらいきなり書けばいいと。で、壊れりゃ次のを買えばいいと。とにかく、ボールペンというのは買ったらすぐ使えるものなんだというわけです。ボールペンにはマニュア
ルもなければ、『ボールペンファン』とかですね、『月刊ボールペン』というような雑誌もないわけですよ。(笑)
ところがパソコンってそういうわけにはいかないんです。どんどんマニュアルは分厚くなる。で、毎月4冊も5冊も専門誌を購読しなくてはいけない。
俺もこの春、自分で新しいマッキントッシュを入れたんですけども、俺のやつも買ったらすぐに古くなるわけですよね。最新のコンピューター環境を維持しようと思ったら、どんどん買い換えないといけないわけです。それで、前にアスキーの人と話したときに、どのくらいお金をかければ常に最新のコンピューターをも
っていられるのかときいたら、「普通の人がやろうと思ったら年間200万円いる」というんですよ。
で、マルチメディアによって、バーチャルリアリティーだ、インターネットでモザイク使って画像に直接アクセスだ、というのは、そんなようなマシンを使うという前提なんですね。じゃあ、これから何十年も、毎年200万出す根性のある日本人が、はたして何人いるのかという問題ですね。
そして、それによって生産性は上がるのかというと、もうご存じのとおり、マニュアルを全部読み切らないうちに次のマシンを買うというのが、いまのコンピューターの業界ですよね。だから、はたしてこれで生産性は上がるのかどうか、日本でも疑問ですよね。
それと、パソコンというのは、まあ毎年ではなくとも2年に1回は買い換えるものだと考えると、いまいろんなとこに出てるパソコン普及率という数字のウソがわかります。「国民機のPC-98というのはすでに200万台売れて……」とか、いろいろ書かれてますが、累計で200万台売れようが、それは40万人が2年に1回買い換えたのが5年間続いたというだけのことなんですよ。「累計で何百万台売れた」というと、「国民の何人に1人はもっている」というふうにみえちゃうわけですね。だから、「これからマルチメディア時代がくる」と。例の「123兆円」とかいう数字も、ここからきてるわけで、やっぱり注意が必要ですよね。
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