『東大オタク学講座』1997年9月26日版 ン1997.Toshio Okada
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第三講 アニメ各論

エフェクトアニメ進化論


★ パソコン通信の世界では「ロト」というハンドル名で知られている。  氷川竜介さんは、アニメ仙人みたいな人だ。日本アニメに関して、書物が出版され始めた一九七〇年代後半頃から、ずっとオタクとして第一線を走ってきた。まず、持っている資料がハンパじゃない。市販されている書籍や『アニメージュ』の全バックナンバー(つまり二〇年分)なんて当たり前。先日、氷川さんがTVアニメ『無敵超人ザンボット3』の研究書を出した時は驚いた。設定資料はもちろん、原画も動画も、自分のコレクションからザクザク掘り出してきたのだ。『ザンボット3』放映の時、アニメ誌で誌面を構成するために入手した資料を、二〇年後の今まで丁寧に保存していたのだ。結局、その単行本は、版権元から何一つ借りずにできあがってしまった。

 氷川さんは、ほんとは特撮マニアなのだが、僕にとってはアニメの師匠だ。アニメの基本的な見方を僕に教えてくれた恩人である。先著『オタク学入門』にも氷川さんからのウケウリが多数、混ざっている。金田伊功から始まったエフェクトアニメの歴史の話をすると、ビデオを編集して、さっと作ってしまえる。もちろん、どのビデオのどこに、どんなエフェクトが入っていたか、全部頭に入っているからできる離れ業だ。

 氷川さんのアニメの見方は、理系的だ。見たアニメは、氷川さんの頭の中で、進化系統樹のように整理されている。アニメ自身も進化するし、アニメーター一人一人も、進化する。さっき言った、エフェクトなどの手法や表現方法も、わずか一〇年でめまぐるしく進化する。そういった大きな進化の流れの中でも、それぞれの人の、独特のテイストが守られたりもする。

 こういう話を聞きたいと思ってお呼びした。

 でも、講義の中で氷川さんがフル出力で話すと、僕もついていけなくなるので、今回の話はごく基礎的な段階で留めていただいた。それですら、コレである。

 

岡田 本日のゲストは、アニメ研究家のロトさんです。今日は、この講義のためにロトさんが編集してくれたVTRを見ながら、日本のアニメの進化、とくに「エフェクトアニメの進化」についてお話ししていただきます。

ロト(氷川竜介) そもそも日本のアニメというのは、限られた時間と予算の中でいかに表現をふくらませるか、という部分で工夫し、発展してきました。それがエフェクトアニメという分野で、日本独特の表現方法を生み出しました。そして、『宇宙戦艦ヤマト』から始まったアニメブームのときに、ついに金田伊功という突出したアニメーターが出現します。ここでは彼の仕事と、金田アニメがその後の作品とアニメーターにどんな影響を与えたかを検証していきたいと思います。

 

■第一世代・金田伊功以前の世代

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〈VTR字幕〉エフェクトアニメとは、ディズニーによって規定された用語。ディズニーでは、キャラクターを作画する班とは別に、嵐、火事などの自然現象を作画するエフェクトチームが立てられていた。日本のアニメでは、エフェクトアニメが独自の進化をたどってスペクタクル化した。すなわち、「アニメによるSFX」である。そのエフェクト作画の分野で、アクション・画面構成において日本独自のものを生み出したアニメーターが、金田伊功である。彼にスポットを当てて、八〇年代後半までの日本アニメが進化する過程を追った。

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ロト まずは、東映劇場映画の作品を見てください。一九六三年作品『わんぱく王子の大蛇退治』です。作画は、ご存じ大康生と月岡貞夫。この作品は、エフェクトがちりばめられた、最初のスペクタクル作品といっていいでしょう。オロチが体の色を変化させながら火炎を吐き、火が地面をなめていく表現が秀逸。主人公が馬に乗って空を駆け巡るシーンも、空間の奥行きとスピード感がしっかり表現されています。

 次は、一九六九年作品『空とぶゆうれい船』。いまや大監督の宮崎駿がアニメーター時代の作品です。日常風景をまず描き、そこに突然、侵入してくる戦車と敵ロボット。その対比がものすごい恐怖感を演出してますね。この作品は、とにかく描き込みが緻密で、宮崎さんらしいリアルな画面構成が見られます。ロボットが壊したビルの破片も、一個一個ていねいに描かれていたり、戦車にしても動きとはまったく関係ないのに、装甲板に打たれたビスまでていねいに描いている。戦車マニアも納得の画面です。余談ですが、宮崎さんは、街なかに戦車がやってきて車を踏みつぶしていくシーンを、後に、『テレビ版 新ルパン三世』の最終回でもやってるんですよ。一度やったことは忘れられないんでしょうね(笑)。

 こちらは特撮ですが、一九六四年の東宝映画『三大怪獣・地球最大の決戦』。当時、宇宙怪獣キングギドラが、三つの首からバラバラに放つ光線と破壊のイメージは衝撃的でした。キングギドラが誕生するシーンも、実際の爆発の映像を、上下逆さまにして、さらに別の爆発の映像を後からいくつも重ねるなど、実写でありながらアニメ的技法を駆使しています。

 これらの作品群が、金田さんの作画方法、表現方法などに影響を与えたと思うんです。金田さんはハッキリとはおっしゃってはいませんが、インタビューなどで、「こんな作品が好きだった」と言ってますので、あえて第一世代としてまとめてみました。

 

■第二世代・金田伊功の登場

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〈VTR字幕〉東映長編漫画映画や東宝特撮映画の破壊シーン、アクションシーンに魅せられて、アニメの作り手になった若手たちが出現した。なかでもその旗手は金田伊功だ。彼は、作画監督より目立った最初のアニメーターである。

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ロト 金田さんが作画に入った回は、明らかに他の回とはちがうというのが、当時のアニメファンにもハッキリとわかりましたね。たとえば、トリッキーなアクションや極端なパース、爆発や光線のエフェクトなどが派手で、なおかつ独特で新鮮でした。私は快感すら覚えました(笑)。

岡田 いい意味で、変でしたよね(笑)。

ロト そう、変(笑)。止め絵だと変なんだけど、動くとカッコいいし、スピード感もある。画面以外の空間を存分に感じさせる、独特の画面演出でした。

 

●『無敵超人ザンボット3』第五話の戦闘シーン

岡田 こうして見ると、やっぱ変だなあ。立ってる人が垂直じゃないし、手の形だって普通はそんな格好しないでしょ。なんでこんな表現を始めたんでしょうかねえ。

ロト 本人に聞いてくださいよ、本人に(笑)。ロボットのポーズも構図が決まってるんです。

岡田 でも俺、ちょっとオーバーだと思う。

ロト 身長五〇メートルのロボットですからこれくらいでないと。

岡田 ザンボットって五〇メートルなんですか。一〇〇メートル超えたロボットって、作画のときスゴイ困りますよ。だって、東京タワーのちょっと小さいのが歩いてるようなもんでしょ。取り返しつかないですよね(笑)。

ロト 科学的に考えると描写するのは難しいでしょうね。『ザンボット3』の頃は、メカも鉛筆の腹でなぞったりして、汚しの表現が結構あったんですよ。今は死滅しちゃって迫力が減りましたね。

岡田 今のアニメは、全部清潔になりましたね。こういう汚しっぽい線は目立たなくなって。

 

●『超電磁マシーンボルテスV』オープニング

岡田 このオープニングは全編、金田さんの作画なんですか。

ロト いや、七割ぐらいですかね。

岡田 七割ですか。やっぱり変な表現ですよねー。殴って友情を確かめ合うんですからね。このへんの作画から、人物のポーズが変になってくるんですよね(笑)。走り方がとにかくオーバー。止まってるときも、みんな真っすぐに立ってない。どこかポーズが独特。キャラクターが空中に飛んで出てくるシーンがあるじゃないですか。そのポーズがまた、全部変(笑)。背中曲がってて、何かどことなくポーズをつけてる。あの表現は、金田さんが始めたんですか?

ロト もともと東映動画の画調が、ああいう感じではあったんです。でも、あそこまで極端に発展させたのは、金田さんってことになるんでしょうね。

岡田 ロボットアニメとか、デカい怪獣みたいなのを出そうとする時、普通、実写だったら広角レンズを使いますよね。広角レンズだと、ロボットが立ってるのをカッコよく撮れるわけです。地面が盛り上がってて、ちょっとアオリっぽく。だから普通に立っていても、広角だったら、こーゆう感じになってる(笑)。それを、二次元のアニメーションが巨大感を出すためにやる場合、作画でやるしかない。

ロト そうですね。「心の中のレンズ」でゆがめるしかないですね。

岡田 心の中のレンズで地面を曲げる(笑)。VTRの続き、いきましょう。

 

●『サイボーグ009(新)』オープニング

岡田 これも金田さんなんですか?

ロト これは全部、金田さんの作画です。

岡田 歌詞は恥ずかしいけど、この時代はこういうアニメの主題歌が流行ったんですよね〜。あ〜、学生の皆さん、歌わないようにね(笑)。

ロト ここでも当時、一人一人のキャラクターが出てくる時のエフェクトのちがいが、評判になったんですよ。「004」が画面に登場して手から光線を出すとき、その反動で体が後ろにずれたり、その光線が画面を見てる側に向かってくる迫力とか。「005」が石を持ち上げるシーンも、石の重量感、その巨大さまでしっかり表現している。

岡田 本当だ。うーん、カッコいいなあ。

ロト 「009」のシーン。これは、涙を光らせた表現第一号の作品です。

岡田 君たちは分かんないけど、前の席のわれわれおじさん二人は今、心が震えてるんだよ(笑)。実はおしゃべりしたくないんだよ。ああ〜、カッコいい〜〜。

 

●『銀河旋風ブライガー』オープニング

ロト これもやっぱり一世を風靡したオープニングです。

岡田 これは金田作画の頂点。

ロト ええ、頂点ですね。これはもう、ロボットの構図、構成、そして音楽的にも最高なんです。タイトルの次の画面で、キャラクター四人が画面に飛び込んでくる登場シーンも、みんな格好が変(笑)。極端に丸い女のコのオシリが特徴的ですよね。

岡田 いわゆる「金田オシリ」。定規で描いたのかってヤツ。

ロト それから、これもスゴイんですよ。ハチ型ロボットの大群が出てくるシーンですが、その画面に切り替わった直後、一番手前のハチ型ロボットが下から上に移動しながら目をピカッと光らせる。このシーン、一瞬で終わるから、コマ送りしないと分からないんですよ。でも、ハチ型ロボットのフレーム・インがとても印象的になるんですね。しかもデフォルメしてるので空間の奥行きが見てる側にもよく分かる。金田さんの作画には、画面には見えていない部分でミサイルやロボットがこう動いているというのを計算して、それが次の画面の動きにつながるといった空間演出法がよくあるんです。これがまた、独特の効果をあげているんですね。

 

●『さらば宇宙戦艦ヤマト・愛の戦士たち』白色彗星帝国のシーン

ロト ここからしばらく劇場版が続きます。この頃の劇場版アニメは大作が多くて、金田さんがメカ作監としてよく出てくるようになるんです。

岡田 『ヤマト』では特撮のような作画をやってますね。

ロト この頃に生まれた方が、だいたい今のアニメーターなんでしょうか。アニメの作画の方法論が、このあたりで金田さんの影響もあって、だいぶ変わっていったんですよね。

岡田 その影響なのかな、今の若いアニメーターが背中の曲がった飛行機を描くというのは。

ロト そうですね。これ「猫背の飛行機」って呼ぶんです(笑)。止め絵だと変だけど、カメラアングルが回りこんで、動くと違和感がない。いやむしろ勢いが強調されてカッコいい。

岡田 この頃、映画館に行くとクライマックスは必ずこんな戦闘シーンのエフェクトオンパレードでしたよね。

ロト そうですねえ。金田さんがメカ作監とか、スペシャルアニメーターとか、そういう特別扱いのクレジットをされた時もありましたから。要するに特撮映画でいうところの特技監督みたいな扱いだったんですよね。

岡田 今のアニメにだいぶ近くなってますね。

ロト 透過光がバンバカはいるようになったのは、この映画が最初なんです。

岡田 うっ、ズォーダー大帝。こいつ好きー。眉毛と髪の毛の境目がない(笑)。俺、アメリカで見たんですよ、何人もこんなコスプレやってるやつ(笑)。ホントに眉毛と髪の毛つながってる奴いるんすよ。

ロト じゃ、肌も緑色に塗ってるんですか。

岡田 もちろん。気合入ってますよ(笑)。

 

●『銀河鉄道999』劇場版

岡田 このあたりになってくると、迫力ある戦闘シーンという以外に、何の動きを表現してるのかが、よく分かんなくなってきてますね(笑)。

ロト たとえば、敵と味方がほぼ同時にミサイルを発射して、味方のはハズれたのに、敵ミサイルが自分たちに当たってしまい、壁に激突して戦闘員が吹っ飛んだなんてシーンがあるんですが、それら一連の動きが一瞬で終わるから、三回見ないとまったく分からない。

岡田 やっぱり。俺、『009』から『ブライガー』ぐらいが限度ですよ。

ロト この作品は音楽の使い方も評判になったんですよ。それまでのアニメだと、派手な戦闘シーンでは勇ましい音楽がかかっていたけど、この作品は戦闘シーンのBGMがきわめて情緒的で、それがまた日本のアニメらしさを出していたんです。アングルも、カメラが地面の下からなめるようにして、凝っています。手の込んだエフェクトシーンは、作画監督も直さないんですよ。金田さん的な構図がどんなに変だったとしても、絶対に直さない。もしかすると面倒だったのかもしれませんが(笑)。それから星一個ぶっ壊すという作画を、これだけ丹念にやったのは、他にはないんです。実写の『スター・ウォーズ』でさえ、デススターの爆発シーンは、「ボンッ!」だけで終わりましたからね。

 

●『ヤマトよ永遠に』劇場版

ロト この戦闘シーンは、例の猫背の(笑)戦闘機が金田さん特有のアクションで乱舞する気持ちイイ名場面です。

岡田 これ、『スター・ウォーズ』の影響、まるまる入ってますね。

ロト 溝があったら、ともかく入らなければいけないって感じでした(笑)。 

岡田 あ、本当だ。に入った(笑)。これもやっぱり中心部へ行って突破するんすか?

ロト いや、単純にドームが閉じられちゃったんで、に入りましょうという展開でした。これ、敵の司令官が一人も映らなくて、ひたすら作画の迫力だけで見せちゃってるんですよ。

岡田 ホントだ。戦闘機の動きに合わせて、地面に映った戦闘機の影もちゃんと動いてますねえ。偉いなあ。アニメーター、大変だなあ。

 

●『さよなら銀河鉄道999・アンドロメダ終着駅』

ロト この映画で金田さんの作画が評判になったところは、今までとちょっとちがうんです。一作目で死んだ機械化惑星の魂だけが生き残っているという設定なんですが、その怨念を、金田エフェクトで表現するとこうなる。

岡田 金田さんっぽいですねえ、煙のニョニョっていう伸び方は。

ロト こういう魂とか情念みたいなのは、表現が難しくて、みんなここ見て「すごい!」とひっくり返ったんです(笑)。この頃、金田さんは、こうやって映画で新しい手法を開発すると、すぐテレビにパクられちゃうって、悩んでたみたいなんですよ。この吹き上げるようなエフェクトも半年後ぐらいにはyぢ『ミンキーモモ』や『ゴッドマーズ』で、真似されちゃうんです。

岡田 俺も『ゴッドマーズ』は、金田さんかと思ったぐらいですもんね。

ロト そうなんです。やっぱ本人としてはツライと思いますよね。

 

●『風の谷のナウシカ』の飛行戦闘シーン

ロト 金田さんは『ナウシカ』も手がけてます。ここから宮崎アニメのスタッフになったんですよ。

岡田 このとき金田さんは、宮崎さんから「邪道な作画ばっかすんな」って言われたんでしょう?

ロト ええっ、知らないですよ、それ。

岡田 俺、アニメーターから聞きました。「ちゃんとやればできるんだ」って言われたって(笑)。でもそうなると、金田さんらしくなくなっちゃいますしねえ。

ロト そうですね。全体の映画の中での単なる一パートみたいな感じになっちゃいましたね。宮崎アニメでは「ああ、金田さんだ」という感じはあまりしませんね。

 

■第三世代・アクション派アニメーター

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〈VTR字幕〉ここからは、金田作画の影響を受けたアニメーターの仕事ぶりが登場する。

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●『ゴールドライタン』(作画/なかむらたかし) 

ロト なかむらさんは『ヤマトよ永遠に』で金田さんと机を並べてたらしいんですよ。『ヤマトよ永遠に』で岩をぶち破って出てくるヤマトのシーンも、なかむらさんの作画なんですよ。

岡田 テレビアニメの『ゴールドライタン』でもそんな作画をしたんですか。

ロト なかむらさんが描くと、劇場版並みの作画になって、みんな驚いたものです。『ゴールドライタン』は、なかむらたかしさんの担当回を中心にしたLDがありますので、興味があれば見てください。なかむらさんはその後yぢ『AKIRA』の作画監督をやって、大友さんのほうに行っちゃうんです。最初はテレビでこういう大胆なエフェクトを見せてくれたんですけど、もったいないですねえ。

 

●『うる星やつら・オンリーユー』(作画/山下将仁)

ロト 山下さんは、金田さんをもっと凶悪にしたような感じの表現の持ち主です(笑)。八三年頃になると『うる星やつら』みたいなラブコメっぽい作品にも、こんな戦闘シーンが入ってくるんですね。パースの取り方が金田さんとそっくりなんだけど、もっとスピード感を膨らませたような感じ。

岡田 でも、ラムちゃんが飛べるのに、飛行機に乗って空中戦する設定が変(笑)。まあ、この時代は、みんな空中戦してましたからねえ。

ロト 『うる星やつら』自体が、こういう何でもありの作品っていうことで、実力のあるアニメーターたちがどんどん集まってきて、それでまたステージアップしたっていう作品なんですよね。

 

●『超時空要塞マクロス』テレビ版オープニング(作画/板野一郎)

ロト 板野さんです。このへんからもう完全にちがうタイプの人が出てくるんですね。

岡田 糸引くミサイルなんですよね、本当は。

ロト まるで納豆のような(笑)。ミサイルの動きなんかは独特で「板野サーカス」と呼ばれました。このオープニングは、戦闘機を映すカメラアングルが回り込んだり、ロボットが敵の攻撃をかわしつつ走りながら銃を撃ったり、要塞のビーム発射シーンの演出が細かい。戦艦の爆発で構造材まで描いてあったりして、理詰めで細かいんですよ。

 

●『超時空要塞マクロス』テレビ版二七話(作画/板野一郎)

ロト これはもう事実上の最終回。副題『愛は流れる』ですね。戦闘シーンのミサイルも糸引きまくり。戦闘シーンだけど、バックでミンメイが歌っている。この歌、敵にも聞こえているんですよね。歌を歌うと敵がみんなびっくりするっていう。

岡田 敵が歌聞くと悩んじゃうんですよ。ふざけた話だけど、いいなあ。でも、作る立場になったら、こういうシーンはですよねえ。動画枚数が多くて、カット袋の厚みも五センチぐらいありそうで。

ロト セル塗ってる人もイヤになりますよ。いくら塗っても終わんない(笑)。

 

●『超時空要塞マクロス』テレビ版(作画/庵野秀明)

ロト 『エヴァンゲリオン』の総監督がアニメーター時代の作品です。緻密な作画をする人ですよね。庵野さんは動画から始めた人じゃないから、動画の流れ作業を考えずに、こだわりの描き込みをするんですよね。

岡田 これ、このシーン! モンスターが一歩歩くだけのシーンの作画に、三ヵ月かかった(笑)。「よっこらしょ」って(笑)、このカットで、三ヵ月。

ロト でも、モンスターの重量感がすごく伝わりますよ。敵の攻撃で建物や高速道路が風圧で破壊されていくシーンも、一片一片がとにかく細かくて、しかも全部ちがった動きをする。庵野さんが描くエフェクトシーンは、緻密の極みですよね。

 

●『風の谷のナウシカ』(作画/庵野秀明)

ロト 復活した巨神兵が最後の火を吐いて、そのあとドロドロに溶けていくシーン。これを庵野さんが描いたというのは、もう有名な話ですね。

岡田 これは宮崎さんが見て、巨神兵の前にいる人物、クシャナを直したくて直したくてしょうがなかったというシーン。だからヘタでしょ、人物が(笑)。でも、巨神兵が火を吐くシーン、すげえなあ、これ。

ロト 公開当時は劇場ではここが一番面白かったと評判でしたね。

岡田 庵野君も一時代を完全に作ってますねえ。

 

●『王立宇宙軍・オネアミスの翼』(作画/庵野秀明)

ロト これは岡田さんのプロデュース作品(笑)。

岡田 あっああぁー! このへんはもう、悪い思い出しかないですよ。「ここはジブリに作画の外注だして、一カットいくら取られたところだ」とか「ここ、撮影四回繰りかえした」とか、そのテのツラい思い出しかないですよ。全部請求書に見える。あ、今のシーン、一発でうまくいって嬉しかった。あ、このシーン、背景が回転しなかったんだ。ああもう全編、愚痴の嵐!(笑)

ロト いえいえ、この作品のレベルは、他とはまったくちがいますよ。この曳光弾とかの引き方とか。

岡田 これは、完全に実写映像をサンプリングして、ミサイル撃ったら、必ず重力どおりに落ちるっていうふうにやってましたからね。あ、今の恥ずかしっ。今のはね、息を吸うシーンで白い煙が出てるんですよ。普通は息を吐いた時に出るもんでしょ(笑)。

ロト まちがえたんですか。

岡田 そうそう。作画の人間が、「えっ、息って吸うときに白くありませんでした?」って。一瞬考えてから、「あ、あああっーっ!」って(笑)。三日後にはもう試写だったんですよ。ああ、ここも、よくこんな大変なシーンを人間が描くよなあ(笑)。庵野、絶対変だよ(笑)。これ全部やってんの。

ロト 撃墜された戦闘機がくるくる回って落ちるシーンですね。で、水面で一回リバウンドして、また回りながら壊れてしまう。重力とかスピードとか、もう、すべて計算され尽くされた作画です。

岡田 これ二十二回リテイクのところだ(笑)。ラストのほうのロケット打ち上げシーンも、これも失敗なんすよ。透過光の消え方が気にくわないんすよ。本当はロケットの光が雲の上に行った瞬間に、下が真っ暗にならなきゃいけないんすけど、急にポンと上に現れちゃうんですよ。何回撮影やってもだめだったですよねえ。

ロト やっぱり人間の手作業によってできるものには、限界があるってことですか?

岡田 いや、ネガ編集に限界があって、ネガ担当の人がリテイクの二十何本のフィルム見ていて、「もう勘弁してください」って。「今日は家に帰りたいんです」(笑)。

 

●『戦え イクサー1』(作画/大張正巳)

ロト この中では大張さんが多分、今一番有名なアニメーターなんでしょうね。

岡田 大張さんは、今世界で一番有名なアニメーターです。アメリカで大活躍ですもん。すごい人気なんですよ。

ロト この作品は特撮映画の世界を意識してますね。戦っているときのアクションとか、表面処理のしかた、パースの取り方など、みんな特撮的ですよ。

岡田 怪獣映画ですからね、これ。

ロト 裸の女の子がロボットに乗ってドツキ合うっていうのも、妙な作品ですね。

岡田 この頃からだよなあ、俺、外でアニメファンですって言えなくなったの(笑)。ロボットに乗り込んだ裸の女の子が体中にコードつけて、敵と戦いながら「あぁん」とか「地球を守るのっ!」だとか言う(笑)。

ロト それでも作画のほうはどんどん進化していっていますから困る(笑)。 

 

●『冥王計画ゼオライマー』(作画/菊池道隆)

ロト この作品は、照明効果を考えた作画をしているのが特徴です。実景に近いようなライティングの作品なんですね。実際に、伊豆半島をロケハンして、夜の海から見た町を再現していたりと、背景の建物なんかもひじょうにリアル。ロボットが出てくるシーンも、実写カメラが撮った映像のようなアングルで、ひじょうに実在感のある効果を生み出しています。最近ではテレビアニメの映像も、このクオリティの水準に近づいてますね。

 

オタクの老後は孫に見せられるか

岡田 いやいや、貴重なテープをありがとうございました。ところでロト家には、いつでもこういうテープが作れるぐらい、ビデオが揃ってるんですか?

ロト 何本かはレンタルしましたけど。

岡田 ビデオはどれくらいあるんすか?

ロト 今手元にあるのは二〇〇本ぐらいかな。で、LDが一〇〇枚弱ぐらいじゃないかな。

岡田 何でそんなに……普通みんな引き返すチャンスあるじゃないすか(笑)。俺の考えなんすけどね、オタクの限界離床点っていうのがありますよねえ。大体、一二歳から一五歳までの間というのが、男の人生でもっともアホウな期間なんですよ。人生で恥ずかしいことは大体ここで全部やってますね。深夜にポエム書くとか(笑)。取り返しのつかないコトは大体一二前後でやりますよ。そして普通の人は、一二〜一五歳あたりでドロップアウトしますよね。で、そのままイッた人も、大学入ってやめるとか、都会へ出てきたのをチャンスに自分の過去を消し去ってLDは二度と見ないと封印する。それ以上キてる人は、どうも引き返しつかないみたいなんですよ。つまり就職しちゃって、給料がはいって、で、まだ結婚もする前ですよね。これは男の人生の場合。女の人生の場合はもっと取り返しがつかない(笑)。大体一五歳あたりで取り返しがつかない世界へ行ってます。でも、ロトさんの場合は、やめるチャンス、どっかありました?

ロト やめるチャンスはありましたよ。やっぱり就職したタイミングですかね。私は、大学は留年して六年間かけて卒業したんで。そのとき、雑誌とかレコードの編集とか構成関係の仕事はやめましたよ。

岡田 雑誌とかレコードって言ってますけど、それは普通の雑誌や普通のレコードじゃないですよね?

ロト もちろん『ガンダム』とか(笑)。

岡田 俺自身の経験でいうと、三〇歳を超えてからみんな本格的な「オタク道」に入りますよね、なぜか。

ロト そうでもないですよ。

岡田 あ、そうですか? このへんであきらめちゃうのかなあ、みんな。

ロト いや、私はそれから先は濃くなったっていう気持ちが全然ないから。今のビデオも八七年ぐらいで終わっちゃうでしょ。それから先は薄いんですよ。八七年にアメリカで七ヵ月ぐらい暮らしていたこともあって、それで断層もあるんです。

岡田 アメリカで七ヵ月暮らすと冷えちゃいます?

ロト 冷えるというか、少し物の見方が変わったかな。環境が変わって暮らすと、中に埋没するより、自分自身を外から見るようになりがちじゃないですか。でも、そういう中にあっても、やっぱりレンタルビデオ屋に行くと「あ、ここに『ゲッターロボG』がある」とかやりましたけど(笑)。あまり変わってないか(笑)。

岡田 あっちではそういうの普通なんですか?

ロト 何度かパソコン通信に書いたんですけど、俗によく「アメリカでは大人の趣味として、ディズニーなどを見てもいい」とか言ってるじゃないですか。あれは真っ赤なウソです。私がアメリカでレンタルビデオ屋に行くでしょ。「こんなところに『ドンデラマンチャ』の輸出版がある」って見てると、横から向こうの主婦に「そこはカートゥーンですよ」と注意されたことが何度も。「大きなお世話だ」って(笑)。

岡田 八七年ぐらいでは、日本のアニメなどを借りてると、隣の奥様が「まあ、それは子供向けですのよ」「カートゥーンですのよ」と言ってくるわけですね。けしからんっスね(笑)。七ヵ月間はどちらに?

ロト アリゾナ州フェニックスです。

岡田 それはもう何と言われてもしょうがないような場所ですね。

ロト 原子アリが出たり、タイムトンネルがあったりして(笑)。

岡田 SF映画でおなじみのロケーション。何でそんなところ行ったんですか?

ロト まあ仕事ですから。

岡田 じゃ、大学生のあたりが一番熱心だったんすか? 人生で。

ロト ちょうどここにいらっしゃる方々ぐらいの時じゃないですかねえ。本業が忙しくなると時間のウエイトが下がっちゃうんで、相対的に薄くなっちゃうんですよ。

岡田 人生七〇年と考えれば、今が折り返し点ですね。何歳頃まで自分でビデオ編集してると思います?

ロト これは今回のために特別に作ったんですが、結局、友達といろいろ話してて、楽しいと思える人たちっていうのは、こうやって通じた趣味の延長線上にある人がメインですから。そういう意味ではずっと続いていくんじゃないでしょうか。

岡田 俺もなんか六〇歳になってもまだダビングしてるような気がする。六〇超えてもトランスフォーマー見てる俺がいるような(笑)。でも、オタク世代って、ここまで行った人まだいないんですよね。俺、結構長持ちするという意味で、この趣味って効率いいと思うんですよ。

ロト 年々ソフトウェアが蓄積していくでしょ。貯まったら流れを追うとか少し並べ方を変えてみるとか、見方を変えれば、もう一回ソフトを有効活用できる。そういう面は確実にありますね。

岡田 僕も二〇歳ぐらいまでは集めるばっかりでした。とにかく見るとかばっかりで。自分なりに並べて見たり、歴史を考えて見たりするのはやっぱり三〇超えてから。で、四〇超えると教育の方に行くといいますよ。今まで俺が貯えてきた「オタクな考え方」を後進の者に教えたくてたまらないという、はた迷惑なベクトルが発生する。いま三七ですけど、そろそろこれが始まりつつあって、かれらを見てると口から説教が出そうになるのをいつもいつも我慢して我慢して、「いかん、おまえらこれを見ろ」とか言いそうになってしまって(笑)。まだ我慢してるけど、来年とか再来年になったら、たぶん言い出すんじゃないかなあ。いや、興味あるんですよ。オタクの人たちの行く末っていうのが。孫には、まさか見せられないでしょう(笑)。「おじいちゃんが昔見たやつだよ」って。孫にクラリスのコスプレさせたら、すっげえ問題あるでしょう(笑)。いま、友達同士で誕生日にイベントスペースなんかを借り切ってやるコスプレ大会とか、コスプレのお茶会とか、そんな恐ろしいものがあるんですよ(笑)。親子連れで、親子二代のコスプレ。

ロト ありますね。後楽園遊園地の戦隊ショーに行くと、親子セットでちゃんとコスプレしてる人が三、四組はいらっしゃる。

岡田 ガイナックスの忘年会も全員コスプレしないと入れないんですよ(笑)。で、毎年毎年、年齢の上がっていく中心メンバーが親子連れでコスプレをやる。なかなかいいですよ。うちの嫁さんが前に娘とやったのは、ヨッシーとマリオ。でも、生涯続けられる楽しみ。

ロト 結局は、趣味に対する自分の接し方とスタンスが、その歳その歳でつながりがあればずっと続くという、それだけの話だと思うんですよね。

岡田 でも、前の世代の人たちの「囲碁」「将棋」「へらぶな釣り」とは、やっぱりちがいますよね。だって、「俺の趣味は囲碁です」とか「へらぶな釣りです」っていうのは、トシの人が言っても平気でしょ? でも、オタク趣味は言えません(笑)。

ロト 「ご趣味は?」と聞かれるのはつらい……。「映画鑑賞で」とか「音楽鑑賞です」とか言ってしまったり。

岡田 「どんな音楽ですか?」って聞かれると「最後にリフレインがあって必殺技があるやつ」とかね(笑)。

ロト 「渡辺宙明の曲です」なんて言っても、誰も分かんない(笑)。

 


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