『東大オタク学講座』1997年9月26日版 ン1997.Toshio Okada
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第七講 オカルト各論

妄想戦士たちの栄光と影


皆神龍太郎氏と志水一夫氏は、オカルトやUFO、超能力といった境界科学の権威だ。単にくわしいのではない。そういった擬似科学を狂信的に信じてしまう人間の心理構造、頭から否定してしまう科学者の心理構造、それを売り物にしている業界の構造に関しても大変くわしい、大人な方々なのだ。

 このお二方は、TVのオカルトやUFOの特集にはほとんど出演されない。と言うのも、ああいった番組は「本当だろうか、ウソだろうか」というあいまいなところが魅力なのだ。それなのに、うかつにお二人を呼んだりすると、最初の五分で番組が終了してしまう。それでは討論番組という形式にしても、どんなゲストであれ思いきり論破し倒してしまう。これでは番組自体が成立しない。

 もしオカルト番組にこの二人が出演していたら、よっぽど信憑性の高い現象が起きたのだ、と覚悟していただいて差しつかえない。

 志水さんは、数年前に『大予言の嘘』『UFOの嘘』という本を出版した。海外文献や基礎資料を細かく検証し、その上で現役の研究家一人一人を比較検証し、いま流布している言説がいかに怪しいかを証明した名著だ。

 皆神さんは、先ごろ評判になった「宇宙人の解剖ビデオ」を、放映二ヵ月前にアメリカからわざわざ取り寄せ、三日間で五二ヵ所の間違いを見つけてしまうような人だ。解剖用ハサミの持ち方を始め、この五二ヵ所は、「と学会」できちんと発表された。

 UFOとかオカルトと言うと、日本人はすぐ、信じる、信じないの二者択一の考え方をしてしまう。が、もっと違う見方もあるのだ。それを楽しむためには、たくさんの知識や訓練が必要で、まさに大人のオタクにふさわしい趣味だと僕は思う。

 オカルトをどう楽しむか、UFOの特集をどう読み解くべきか。オカルト業界のインストラクターとして、お二人にお話をおうかがいするために、ゲストとして来ていただいた。

 

ランディーを倒せ!

岡田 志水さんがまだこられてないんですけど、とりあえず始めてしまいましょう。本日のゲストは皆神龍太郎さんです(会場拍手)。このあいだ講義で、ジェイムズ・ランディーについて触れたんですよ。「俺の前で本物の超能力を見せたら一万ドル払ってやる」と言ってたじいさん。

皆神 ランディーの賞金は、いまは日本円にして七〇〇〇万円まで跳ね上がってるそうですよ。目の前で超能力やって見せるだけで七〇〇〇万。いいですよねえ。誰かやってみません?(笑)ただ七〇〇〇万円といっても、ランディーがこれを全部支払うわけじゃないんです。この賞金のうち彼が自己出資しているのは一〇〇〇万円だけで、残りの六〇〇〇万円は、一般人が出資してるんです。

岡田 賭けに乗って六〇〇〇万円支払うって言った連中って、みんなランディーを支持してるんですか?

皆神 いや、これがまた面白い話で、ランディー支持派と反ランディー派の両方が、呉越同舟でこれに乗ってるんです。つまりランディー支持派の人たちは「この世に超能力なんてあるわけないだろう。だから俺はランディーに賭けるぜ」という感じなんだけど、反ランディー派の人たちは「あの野郎、超能力を否定しやがって。いつか本物の超能力者がランディーをへこますにちがいないから、そいつへのお祝い金として俺も一口払いたい」という動機みたいです。

(志水氏、ようやく登場)

岡田 お、ここでもう一人のゲスト、志水一夫先生の登場です(会場拍手)。

志水 どうも遅くなりまして。ニャントロ星人の勢い未だおとろえずのようです(笑)。で、なんの話になってるんですか?

岡田 ランディーの賞金の話をちょっと。

志水 ああ、なるほど。

皆神 ランディーが自己出資金の一〇〇〇万円しか用意してなかった頃の話なんですけど、スプーン曲げで有名なエスパー清田君に、「超能力を証明できたら二〇〇〇万やる」と挑戦してたんですよ。清田君は快諾はしたらしいんだけど、ただしランディーと同じ部屋に入るのはイヤだという条件を出したそうです。それじゃ勝負にならないってのに(笑)。

岡田 コンセントレーションが乱れるってやつですね。

皆神 そうそう、ランディーがいると負のサイキックが働くらしいんですよ。

岡田 そんなこといってたら証明も研究もできませんよね。日本の超能力研究だといま、ソニーのエスパー研究所が評判になってますけど、そのあたりはどうなってるんでしょう。

皆神 エスパー研は私企業が運営してる民間組織なので何を研究しようが自由かもしれませんが、科学技術庁直轄の放射線医学総合研究所なんてとこも、国費を一億円近く使う超能力研究を去年から始めました。

岡田 一億ぅ ……アニメには一円もくれないのに(爆笑)。

皆神 五ヵ年計画で去年二三〇〇万円の予算が出てますから、最終的におそらく一億円は突破するでしょう。

岡田 なんの研究してるんですか?

皆神 人に気をぶつけてふっ飛ばすとかいった類の研究をやってます。実は先日私も実験に立ち会ってきまして。気功は大きく内気功と外気功の二種類に分かれるのですが、人を飛ばしたり、手を当てて病気を治したりと、気なるものを自分の外部に放射するのが外気功で、太極拳みたいに動作によって自分の体内に気を練り上げるのが内気功ですね。内気功は数千年以上も続いている確かに古いものでして、荘子にも外篇に「熊や鳥の真似をしたり、呼吸法などをやってもしょうもない」とか書いてあります。

岡田 気功ってその時代からバカ扱いだったんすか?

皆神 荘子って、健康法らしいですから。それで内気功はたしかに古いのですが、昨今流行の外気功となると、その歴史はひじょうに浅いんです。中国の文献に外気功が現れるのは一九七六年頃以降で、創始者も上海中医学院の気功医師・林厚省とはっきりしてます。

岡田 七六年というと、『宇宙戦艦ヤマト』が放映されてた頃ですね。

皆神 昭和に換算するとかじゃなくて、アニメの時代でいわないと年代がつかめないんですか(大笑)。

岡田 そうです。『メカゴジラの逆襲』で変な特撮作った頃だとか、そういう風に覚えてるんですよ(笑)。

志水 で、外気功には日本の靈術なんかもかなり流れ込んでいるようですね。向こうに行ってようやく外気功の人に会ったら、田中守平に習ったのだと言われた人が何人もいます。大正時代に大流行した「太靈道」という靈術の開祖。

岡田 内気功の方も、できる奴は文化大革命の頃にみんな殺されちゃって、昔そのままの形では残っていないなんて言われてますね。

皆神 どうでしょうね。太極拳の中には、これまでの流派を元に毛沢東が新しく創設したという流れもありますし。内気功というのは、いわば中国版のラジオ体操で、ラジオ体操をやって体に悪いわけがないのと同じように、内気功をやって、一部の病気がよくなっても何の不思議もないわけです。ただ外気功の場合は、現象が本人の体の中だけで閉じていなくて、人と人の間で気とかいう怪しげなモノが飛び交うと主張しているわけです。

岡田 気功について僕が知っていることといったら、テレビでやってたのとあとは『ドラゴンボール』のかめはめ波くらいですね(爆笑)。

皆神 話を戻しますけど、放医研で行われたその実験というのは、ひらがなの中から、「ろ」と「る」などよく似た文字を除いた二九文字のカードを利用して、それをテレパシーで送受信するという内容でした。二九枚のうちからランダムに一枚を選んで、予備実験二五回と本番を二〇回と、計四五回行った。ところが一枚も当たらなかったんですよ、これが。研究者たちは、これこそサイ・ミッシングだなんて言ってました(笑)。つまり普通だったら四五回もやれば一回くらいは当たるはずなんだけど、一回も当たらないのは、超能力が負の方向に働いたんじゃないかなんて。

岡田 その研究、国立の放射線医学総合研究所がやってるんですよね。そんな実験を国費使って(笑)。

皆神 そうです。放射線科学研究部の山本さんという方が中心になって行っている実験です。この方は大学に三つ行かれ、博士号も二つお持ちという立派な学者さんです。

岡田 名前は「ひでお」ですか?(笑)。

皆神 残念ながらちがいます(笑)。国際生命情報科学会という学会の理事長も務めていて、超能力業界内全体でみれば、ひじょうにマトモな方です。でもその学会の会長をしている、東京電機大学の町好雄教授となると、もうちょっとばかり逸脱されてますね。

岡田 ああもう、完全にあちらの世界に。

皆神 でも町先生、ものすごく善人な方ですよ。たとえば、気功の実験で、封筒に入れた紙片の内容を気で読み取るといった実験をしているのに、封筒のすり替えなどに対して、なにもガードを施してないんですよ。普通は疑いますよね。このままだと、中身をこっそり読まれてしまうんじゃないかとか。でも町先生は、相手がインチキをするかもしれないなどという、失礼なことは全然考慮にいれていないみたいでした。本当にイカサマが行われるかどうかは別にして、考えうるイカサマに対するガードがない実験など、国際的レベルから見れば、超心理学実験とは絶対に認められないでしょうね。

岡田 疑うことを知らない善人って、一度信じてしまうとすごいですよねえ。

皆神 馬鹿か利口かといった問題ではなくて、その人の根が、疑うことを知らないお人好しなのか、人を簡単に信じないやな奴なのかってなことじゃないでしょうか。その点、岡田さんは絶対に引っかからないでしょう。人が悪いから(笑)。真理を純粋に探求してるお人好しな学者さんだとガードがゆるいから、簡単に騙されます。僕は基本的に、善人は超常現象の研究には向いていないと思ってます。

岡田 皆神さんは科学か擬似科学か分からないような、いわゆるボーダーサイエンスに対して、理性の光を当てようというようなことをなさってるんですよね。

皆神 理性の光といっていいのかな。単に人が悪いだけなのかもしれません(笑)。

岡田 それは趣味でなさってるんですか?

皆神 そうですね……本業ではありません。というより、これは本業にしちゃいけないことじゃないかと思ってるんです。なぜかというと、一度食うために始めてしまうと、何が真実なのかということより、金儲けの方につい引かれかねませんから。一般の人たちを喜ばせたりマスコミ受けを狙うと、市場があるのは圧倒的に肯定派のほうで、懐疑派では食えないです。本業にしようと思ったら安易な肯定派に転ぶしかない。

岡田 僕もそれ同じですよ。「いま、アメリカではオタクが大流行」なんて口では言ってるけど、腹の中では「こりゃあ嘘だよなあ」と(笑)。でもメディアの表に立ったら、そう言い切らないと引っ込みつかないんですよね。メディアでなにかを主張するのって結局、自分とはちがうキャラクターを作り上げて、肯定派の演技をするという部分がありますから。

皆神 そうそう。そんな場所に私みたいなのが出ていっても、食えるほどのキャラクターが保てませんよ。

岡田 テレビ番組でオカルトとかこの手の話題を扱うときって、大体肯定派と否定派に分けてのディスカッションみたいになってて、懐疑派というスタンスは出てきませんからね。皆神さんのスタンスは懐疑派でしょう。

皆神 そう、食えない懐疑派です。

岡田 なにか不思議な事件があったとき、肯定派をまず連れてきて、否定派が意見をぶつけるという。それで両論対立させといて、最後の締めは「世の中には不思議なことがいっぱいあるんですねえ。それではお時間がきましたので今日はここまで。最後にビートたけしさん、一言どうぞ」とか、オカルト番組ってどうしてもそういう構成になってしまう(笑)。

志水 ああいうのって、ずいぶんと失礼な話ですよね。内容はともかくとしても、その分野に何年もたずさわってきた人たちを相手にして、その問題にはまったくの素人のタレントさんが、まるでオーディションの審査員みたいなことを言うじゃないですか。あんた、何様だって。

皆神 アメリカのランディーも、本業はマジシャンなんです。日本で奇術師というと寄席の前座芸人くらいの軽い認識かもしれませんが、海の向こうではエンターテイナーとして、社会的に高いステータスとみなされているようです。

志水 『刑事コロンボ』でマジシャンが犯人だった話がありましたよね。ということはエリートですよ。コロンボで犯人役に選ばれるのは医者とか芸術家とか社会的に地位の高い職業ばかりですから。私の叔父がアマチュア・マジシャンなんですが、彼によるとアメリカでは、一流のマジシャンは大学教授なみのステイタスがあるんだそうです。

皆神 ランディーの場合、彼自身がマジシャン、つまり人を騙すエンターテイメントのプロだというプライドがあるから、彼からすれば逆に、超能力に名を借りて人を騙すような「インチキ」が許せないんだと思います。彼からすれば、ユリ・ゲラーなどは、トリックで人を楽しませるのではなく、騙して商売にしている人物というわけなのでしょうね。

岡田 このあいだユリ・ゲラーのホームページ見たらすごかったですよ。あの人いま、企業相手にビジネスコンサルティングみたいな商売してますよね。

皆神 そうそう。マップダウジングで金鉱掘りなどをやってました。そのとき貯めたお金でイギリスに日本庭園付きの大邸宅まで建ててます。

岡田 マップダウジングというのは、地図の上で振り子みたいなのを揺らして当てるっていうあれですか。

皆神 そうです。金鉱や石油採掘など、ダウジングについ頼りたくなる企業は結構多いらしくて、日本の企業も何件か依頼したようです。それでユリ・ゲラーは億単位の金を儲けたそうな。彼はバカでかいキャデラックを持ってて、その車体いっぱいに五〇〇〇本の曲がったスプーンが飾られてるんです(大爆笑)。しかもその車でイスラエルとか中東を旅して平和を祈りたいというのだから、なんというか……。

岡田 みんなイスラエルに行きますね。ラエリアン・ムーブメントとか。

皆神 ランディーが言ってました。「たしかにあんなトンデモない車で戦争地帯に飛び込めば、誰もが驚いて銃を落としちまうことだろう」(笑)。

 

 

オカルト世界、その曼陀羅ポジショニングマップ

岡田 ところで、志水先生は肩書きでいうとなんになるんでしょうか。

志水 昔は科学解説家を名乗ってたんですが、肩書きに噛みついてくる人がいるもので、現在は主に作家を名乗ってます。

岡田 オカルトの分野におけるスタンスは。

志水 ほとんど否定派という奴です。否定派じゃないんですよ。ほとんど女は女じゃないでしょう。それと同じ。

岡田 「信じたいのにどうして信じさせてくれないんだ」という熱い情熱があるんですね。

志水 そうですね。実を言うと、自分の立場と逆の主張を調べていれば、きっと何かが見つかるはずだという思惑があるんです。私も最初はオカルトを信じてたんですよ。だからUFO否定派の本はほとんど持ってます。

岡田 ああ、否定派の意見に反論しようと。

志水 ええ。ある事件に対して否定派がなにか書くとしますよね。その否定的な意見に対して「そこ、まちがってるぞ」と反論したくて。以前そういった本を書いたことがあるんですよ。否定派への反論をメインにした本を(荒井欣一&志水一夫『UFOと異星人の謎』池田書店)。

岡田 オカルトの中での受け持ち領域というのはどのへんなんですか。偽書偽史関係とかもなさってますよね。

志水 そのときどきで自分の興味をそそられるものを研究するという感じですね。UFOの方は最近ちょっとお留守なんで、皆神さんにお任せしっ放しになってます。

岡田 すると最近UFO関係でエキサイティングなことってないんですか。

志水 うーん、UFO関係では最近また、MJ−12に関して新しい情報が出てきたんですけど、すぐにニセモノと分かるようなものでしたから。

岡田 真贋の判断基準というか、どうやってニセモノであると見破るんでしょう。あの手の情報って大体、なにかしらの証拠と一緒に出てくるじゃないですか。サインがどうとか書類のナンバーがどうとか。この前話題になった宇宙人の解剖フィルムもそうでしたよね。コダック社の技術部長が撮影された年を鑑定したと言って、その後なんにも情報が出なくなった。そうやって一つ一つ検証していって「これはニセモノだ」と否定するんでしょうか。

皆神 向こうのビリーバーな人って、本当だという証拠がある、ということを強く主張するんですよ。向こうの連中は、とにかく証拠がないと絶対信じない。たとえばMJ−12みたいな政府の公式文書を出すとか宇宙人解剖フィルムを出すとか、つねに証拠、ファクトでせまってくるわけ。「俺は見た・俺は聞いた」だけじゃ相手にされない。あるという証拠と、そうではないという証拠の実証能力同士のぶつかり合いになるわけです。

岡田 すると、たとえば宇宙人解剖のフィルムなんかでも、フィルムというブツに対してちゃんと分析が行われるわけですよね。たしかフィルム鑑定ではまちがいなく一九四七年のものであると出たそうですけど。

皆神 実は、コダック社は、異星人が写っているフィルムの本体部分の鑑定なんてやってないんです。コダック製のフィルムは、そのリーダー部分に三角や四角などの年代によってちがうマークが入れられていて、このマークは二〇年のローテーションで毎年変わるんです。コダック社は送られてきたそのリーダー部分だけを見て「二七年か四七年か六七年に作ったフィルムらしい」と回答したにすぎない。だからフィルム本体の鑑定は行われていないんです。大体宇宙人の写っていない部分のフィルムを鑑定したってなんの意味もありません。コダック社の中には「無料で鑑定するから宇宙人の写ってるコマを渡してほしい」とまで言ってる人がいるのですが、フィルムの持ち主は「貴重なフィルムだから貸し出せない」と断ったそうです(笑)。

岡田 うまく言い逃れましたね(笑)。

皆神 解剖フィルムには、それだけで一冊の本が書けるくらい大量のミスやらまちがいがあって、あれの信憑性は皆無です。私の知る限り、UFO研究家の中にさえあのフィルムを本物と論じてる人はごく少数派です。

岡田 日本にもいないんですか?

皆神 というより、あのフィルムに関して行われた調査や論争の過程をちゃんとフォローしているUFO研究家が、日本にはほとんどいない。フィルムを日本に持ってきた皆さんも「慎重な調査の結果、ニセモノであるという確証は見つけられなかった」といった程度のことしか言ってませんから。僕に言わせれば、見つからなかったんじゃなくて、単に見つけたくないだけじゃないかと(笑)。

志水 まあ、それ以前に、あんなものを頭から信じ込んでいる人をUFO研究家と呼べるか、という問題もありますけど(笑)。

岡田 ポジショニング的にみてほんとにイっちゃってる人というのはどんな人がいますか?

皆神 イっちゃってるという表現が適切かどうか問題はありますが、関英男先生なんて、オカルト座標で見たら「トンデモ」軸の一番端に位置してますね。自分の主張を客観的に振り返れないというのは、トンデモさんの大きな特徴なんですが、関先生にはその傾向がかなりあります。

岡田 あの……関英男先生といっても、たぶん誰も知りませんよ。

皆神 「ひでおの法則」のお一人です(笑)。

岡田 的を射た説明なんですけど(笑)。講義に出てる人のためにちょっと補足しときましょうか。「と学会」の提唱する「ひでおの法則」というのがありまして、これは「ひでおという名前の工学博士は危ない方向に進む人がひじょうに多い」というイヤ〜な法則です(笑)。

皆神 関英男先生以外では内田秀男博士とか糸川英夫博士とか。最近では、オウムの村井秀夫さんが入りましたね(会場爆笑)。

岡田 関さんは本来、通信関係の学者さんでしたっけ?

皆神 そうです。その分野では一流です。

志水 関先生がいなかったらあの分野の発展は一〇年遅れてたと言われてるくらいです。それが七〇年代初頭になってあっちの世界へ。

岡田 通信関係からそっちの世界へ移って、いったいどんなこと言ってるんですか。

皆神 中性子がゆがむとガンになって、陽子がゆがむとエイズになるとか(笑)。こういった病気は、神様が「あなたの生き方はまちがっている」と教えてくれている、ありがたいメッセージなのだそうです。つまり関先生によれば、病気になるのは、その人の心がけが悪いからというのです。ならば血友病でエイズに感染してしまった人なども、心がねじ曲がっているからエイズになったのだと、本気で信じているのでしょうか。「あなたは、エイズ患者に面と向かっても、そう言えるのですか」と関先生に一度聞いてみたいのですが、患者に面と向かっても平気でそう言ってしまいそうな恐さが、関先生には感じられますね。

岡田 「テレパシーは一瞬で伝わるから一〇〇〇光年の距離も無意味だ」なんて唱えたのも関さんでしたっけ。

皆神 そうそう。光速の何億倍だかで伝わるそうです。

岡田 工学博士って油断できませんねえ(大笑)。

皆神 電波による望遠鏡はもう古くて、これからは念波で見るのだそうです(笑)。念波天文学によれば星座は八八個ではなく、本当はもっと多いそうなんです。でも星座なんてもんは人間が星を勝手につないで作っただけのもんでしょう。本当はいくつあるかなんてことを云々してもしょうがない。いったい誰が決めるんだって。

岡田 念波天文学。「光学観測では一億光年離れた星の光を受けてもそこに一億年分のタイムラグが生じるけど、念波だったら現在のその星の姿が一瞬にして届くからタイムラグのない観測が可能だ」というやつでしたよね。関さんも「太陽の表面温度は二六度だ」と主張してるうちの一人でしたよね。他にもいろんな人がこれ言ってますけど、なにか理由があるんですか。基本的にかれらの論拠というのは、「高い山に登れば登るほど気温が下がる。太陽に近づいた分だけ涼しくなるんだから太陽は絶対に冷たいはずだ」という(笑)。

皆神 大槻教授の本にもちがう文脈なんですが、困ったことに、同じようなことが書いてあります。

志水 「太陽が冷たい」という学説には伝統があるんですよ。「同じ理論を唱えた人が過去これだけいた」っていうのを読んだことがあります。

皆神 証拠は何もないけど、伝統はあるんです。伝統ある地球空洞説と一緒で、暗黒太陽説も古くから言われてます。「黒点の表面は冷たくて、実は周囲を取り巻くコロナが熱いだけなんだ」とか。地球空洞説の方は、ハレー彗星の発見者のハレーが唱えてました。彼によると、地球の内部はがらんどうで、三重の入れ子構造になってるそうな。

岡田 地球空洞説には共通のお約束があるでしょう。とりあえず南極と北極には大穴が開いてるの(会場爆笑)。

皆神 いろんな説がありますよね。ナチスドイツの説だと、実はこの世界は空洞の内側に存在しているのだけど、光の屈折によって球の外側にいるんだと錯覚しているのだとか。

岡田 ナチスってそれを確かめるために駆逐艦派遣して、潜望鏡での観測実験をやったんでしょう? 空洞の内面にいるなら潜望鏡からはせりあがる海が見えるはずだって。でも見えないから、これは光の屈折現象だと。

皆神 こういう説を聞くと、人間の妄想というものはつくづくすごいと感心します。ナチスはこの理論にしたがって、V2ミサイルを真上に打ち上げればアメリカに届くとか、本気で考えてたともいいますから。

志水 ほんとにそうなら最短距離ですけど。

岡田 よく架空戦記もので、ナチスドイツが負けなかったらなんて設定のがありますけど、負けてなくても実はそんなことやってただけなんですね(笑)。ところで、日本には地球空洞説の提唱者っていないんですか。僕、一人だけしか知らないんで興味あるんですよ。あすかあきおって人が唱えてるんです。この人が一昨年出した『UFOの大真実』という本に書いてあったんですけどね、B−29が北極点に向かっていったら地中を通って向こうの世界に出てしまった。その世界には葉巻型UFOや恐竜がいて、トルーマンが「あのUFOを撃ち落とせ!」とか、すげえこと書いてありました。いつ見てきたんだよって(笑)。この話はエリア51のラザー博士が教えてくれたそうです。あのなんでも教えてくれるラザー博士。

皆神 あすかあきおさんは、「太古、月の中には熱水が入っていて、開いた穴から地球に水が噴射され、それの水がノアの洪水の元となった」と言っています。月の水が引力で地上に落下するなら、その前に月そのものが落下しちゃうだろうって言いたくなるけど(笑)。物理がまったく分かってないんじゃないですか。さらにあの人、「裏地球」の存在も唱えてるんですよ。昔からよく、「太陽の向こう側には地球と対をなす隠れた惑星がある」とか言われてきた、あの裏地球。「地球は楕円軌道を描いてるから、もしそんな惑星があるならケプラーの法則によって、そのうち地球から見える位置に顔を出すだろう。顔を出さないのは存在しないからだ」という反論があるんですけど、あすかあきおさんが言うには「楕円軌道は実は二つあって、それぞれ太陽を焦点にして、互いにうまく隠れるように周回してるから裏地球は見えない」のだそうです(大爆笑)。たとえそうでも、裏地球は、物理的にはすぐ顔を出しちゃうはずなんです。太陽系には木星や金星など他の惑星があるので、それらの重力の効果が摂動となって効いてきて、裏地球の軌道は、すぐにずれてしまいます。太陽の後ろに隠れ続けるなんてことは、物理的にありえません。

志水 手治虫先生のまんがにもありましたね。『ロック冒険記』の冒頭で、太陽の陰からだんだん裏地球が現れてきて大パニックになるというのがありました。アメリカでは戦前からあるアイデアなんですけど、だんだんズレて見えてくるというのが、さすがは手先生(笑)。

皆神 結局、超常現象の正体のチェックを行うには、学校で習うマトモな勉強だけをしててもダメなんですよ。こんな物理学の知識や手塚治虫のアニメの知識など、ひじょうに雑多な知識が必要とされるわけです。オタクと同じく、あらゆる知識が求められるわけです。そういう意味で、超常現象の真相探究というのは、現代に残された最後の「総合科学」じゃないかと思います。つまり、超常現象はどこから襲ってくるか分からないんですよ(会場大爆笑)。

岡田 怖いですよねえ。家に帰ったら母親がペットボトルに水詰めて待ち構えてるかもしれないし(笑)。

皆神 そういうことじゃなくて(笑)。タネがどこにあるか分からないんですよ。マジックなのかもしれないし、ただの巧いレトリックだけなのかもしれない。あらゆる知識を総動員しないと手におえない。これに一人で立ち向かうのは大変です。大体、超常現象のまちがいのチェックができるくらい優秀な人だったら最初からオカルトなんてものを相手にしませんから。もっと役に立つことに自分の知能を費やしますものね。

岡田 オカルト暴きをやっても科学者としては色モノ扱いですからね。

皆神 そうそう。やればやるほどバカにされてしまう。

岡田 大槻さんみたいに、一度教授クラスの地位を手に入れてからなら大丈夫なんですかね。

皆神 大槻さんは、プラズマプラズマってそれ専門で(笑)。

岡田 あの人の「プラズマ」って、あれは芸風じゃないんですか?

皆神 芸風というより、他にほとんど技と知識がないんじゃないかと。海外で「誤認」として解決済みのUFO事件を持ち出して、わざわざプラズマで説明してますから。「なんでもプラズマ」というのは米国のUFO懐疑派がすでに三〇年前に試みてまして、ずっと昔に放棄した論法なんですよ。

岡田 否定派の最右翼ということになるのかな。大槻さんみたいに、関さんの対極に位置してる人って他にいますか。

皆神 日本には否定派とか懐疑派とかほとんどいませんから。いま東大に爆弾落とされて私と志水さんが死んだとしたら、日本の懐疑派の論客はほとんど全滅かもしれない。

 

 

妄想戦士対科学者

岡田 しかしこうして見ると、学歴とかはほとんど関係ないみたいですよね。学歴でいったらトップは関さんなんだけれども、学歴にかかわらず、向こうにイっちゃうときはイってしまうものなんだというか。

志水 ずっと向こうの世界にいても、ある日やはり「これはおかしいぞ」と気づくものなんですよ、普通は。そのときこっちに戻ってこないで、そのまま貫き通したとしても、よく話してみるとやっぱり自分で気づいてるみたいなんです。ただそれを口に出すとヤバいから言わないだけで。それである日突然、NASAの写真の番号を隠し始めるとかするんです(笑)。

皆神 トンデモかトンデモでないかというのを見分ける簡単な基準の一つは、その人が少なくても一つ、どれか疑っている現象があるかどうかということです。超常現象がすべて本物であるわけはありませんから。その人に「事実を振り返る冷静さ」が少しでも備わっているかどうかが判別の分かれ目だと思います。

志水 もっとも、確信犯的な人の中には、意識してそれをやっているとしか思えない人もいるし、それを信じ込んでいる人でも結果的にそうなる場合がある。「アダムスキーはウソだけど、ウチの先生はホント」みたいな(笑)。

岡田 逆に、懐疑派である皆神さんにとっての「これは信じてる」というものはありますか?

皆神 個人的にはちがうと思っていますが、欧米の懐疑派が完全に否定し切れてはいないものが、三つほどまだありますね。それを説明する前に、ちょっとオカルトのポジショニングについてお話をさせてください。オカルトに対するスタンスを考える際には、肯定か否定かという軸だけでなくて、もう一つ、客観的なデータにどれだけ重きを置いているかという「証拠能力」という軸を設けるべきだと思うんです。信じてるとか、信じてないといった信条レベルの争いではなくて、自分の主張を支える客観的なデータをどれだけ持っているかということです。「信条」と「証拠能力」という二つの軸で分けると、関英男先生は「信じているけど証拠はない」というポジションで、片や大槻教授は「信じてないけど、具体的証拠もほとんどない」というポジションでしょう。懐疑派は、「信じていないし、まちがっていると示せる具体的データや証拠がある」というポジションだということができます。

 ここで問題となるのは、最後の四分類の「肯定派でかつ証拠能力がある」人々というカテゴリーでしょう。日本にはあまりいないんですけど、真っ当な超心理学者などはここに位置します。かれらは厳密な実験によってサイキックの存在を実証しようとしている人々です。先ほど否定し切れていないといった三つの現象のうちの二つは、この超心理学の研究分野にあります。PK(サイコキネシスの略。念力)の実験とガンツフェルト実験と呼ばれているもので、この二つについては、本当にごくわずかなんですが、統計的には無視できないような結果を導き出しています。超常現象懐疑派の総本山ともいえる、サイコップという組織が米国にあるのですが、そこの超心理学委員会委員長のレイ・ハイマンなども、超心理学者の出してきた研究結果について強い否定はしていません。実在する現象なのかどうか、今後の追試データを見てからコメントすると慎重に構えてます。相手のデータを見るまえから「あるわけないから、あるわけない」と結果を決めつけてしまう日本の学者にありがちな否定的態度は、海の向こうじゃ、もう時代遅れです。

志水 そのPKって、ミクロPKですよね。

皆神 そう、ミクロの方です。PKにはマクロとミクロがあるんです。スプーン曲げなどのように目に見えるレベルで働くのがマクロPKで、電子レベルで働く念力がミクロPK。

岡田 無視できない有意なデータというのは、どんなものがあるんですか。

皆神 たとえば、ダイオードにホワイトノイズを発生させ、その際ノイズがプラスとマイナスに傾く確率を、五分五分に調整しておくのです。で、「プラスよ出ろ!」とPKをかけてやると、二五〇〇分の一くらいの小さな確率で結果がプラスに傾くというのです。数千回程度の実験だったら「そんなの誤差の範囲じゃないか」で終わりなんですけど、何億回も繰り返すと統計上のデータとしても意味が生じてくるわけです。スプーン曲げとくらべたら絵として面白くないし地味だから、テレビとかでもほとんど注目されてないですけど、肯定派の中にはそういうことを地道にやってる人たちがいるわけです。

岡田 コンピュータのメモリに干渉するというのもミクロPKですか。

皆神 そうですね、ミクロです。

岡田 すると、僕が重要な原稿を書いてると必ずマックがフリーズしてしまうというのも……。

皆神 それはやはり、仕事したくないという潜在意識がミクロPKを引き起こしてる(爆笑)。

岡田 もう一つのガンツフェルト実験というのはどんなものなんでしょう。

皆神 現在ではオート・ガンツフェルトと呼ばれてます。ビデオを使うんですよ。三六〇本ほどのビデオ画像が自動的にランダムに映し出され、二人の被験者間でその情報をテレパシーで送受信するんです。受信者側はサイキックが発動しやすいように五感を断した状態で待機し、送信者から送られて来るビデオ映像の中身を当てるという実験です。テープの内容はアニメとかチータが走ってるところとか怪獣映画とか、印象的なものが多いようですね。

岡田 それも有意な数字をはじき出してるんですか?

皆神 ミクロPKもガンツフェルトもデータで見る限り、完全に否定はできないという状態です。ただし、絶対まちがってほしくないのは、だからといってこれらの現象が実在していると証明されたわけではけっしてない、ということです。

岡田 その二つ以外のオカルトは、ほとんどボロ負けなんでしょうか。

皆神 客観的な証拠が提示できるようなものについては、ほとんどボロ負け状態ですね。この手のものは、今では「おまえの統計の取り方は数学的に適切ではない」といった、学術レベルでの議論になってます。

 


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