◆『オタクの迷い道』#111 井上博明伝説(3)
| 「オネアミスの翼」「トップをねらえ!」 ガイナックスの作品は評価こそ高かったけど、赤字続きだった。赤字で作品を作るのはけっして美しい行為ではない。映画は芸術ではなく、下請け業者たちの家族の生活がかかっている「仕事」なのだ。 だから「哭きの竜」という麻雀劇画をアニメ化したときは、徹底的に予算もスケジュールも管理した。ヤクザの跡目争いの中、己の命を顧みず一瞬の勝負に生きる伝説の麻鬼・竜。ラッシュ(音のない未完成フィルム)もメチャクチャ、カッコいい。登場人物は顔のUPでセリフのみ、とかとにかく金はかからないけど見栄えのいいアニメを作ろうと必死だったのだ。 唯一こだわったのは声優さん、主役の竜は池田秀一さんにお願いした。「機動戦士ガンダム」でシャア少佐を演じた池田さんと同じ仕事が出来るなんて! が、アフレコ当日が近づくに連れて、絵が間に合わないことが確実になってきた。 池田さんに怒られる!シャアの声で! 僕は池田さんに会える嬉しさと憂鬱さにはさまれながらアオイスタジオに向かった。 「アオイスタジオ、汚いし小さいよ。でも小さいとか禁句だからね」 もうその頃の井上さんは、バカ社長の僕の操縦にだいぶ慣れてきた。いかにも吐きそうな失言暴言をあらかじめ止めることを忘れない。彼の忠告に従ったほうがいいことは知っていたけど、なんで「小さい」が禁句になるんだろう? タクシーが止まった。録音スタジオを捜したがわからない。井上さんは、目の前の階段をいきなりすたすた降りていく。田舎の文房具屋くらいしかないビルの地下へ降りる階段だ。 六畳ほどの地下室にはスタジオ機材が押し込められていた。真ん中がガラスで仕切られ、片方にぎっちり調整卓が入っている。ここに監督、音響監督、それに僕が入る。狭いなんてもんじゃない。人間テトリスだ。 ガラスの向こうは声優さんが入る録音室だ。三人も入ったら一杯、ちょっと豪華なトイレくらいのスペースだ。台本を持った声優さんたちがまるで満員電車のように立っていた。 あれ、池田さんは?池田さんがいない。遅刻かな?まさか、絵が入っていないから怒って帰ったのか? 音響監督に聞くと、部屋の片隅を指さした。いた!なんだ、座ってたのか。こんなにせまくても椅子がある‥‥違った。 池田さんは立っていた。 そうか、だからここでは「小さい」が禁句なんだ!あのハンサム声のイメージとのギャップに吹き出しそうになりながら、階段をダッシュで外へ飛び出す。 井上さんが 「池田さん、いた?」ときく。 「池田さん、落ちてた!」 一瞬、まわりを見渡した井上さんは、間髪を入れず「バカッ!」と小声で叱った。 でもその目は笑っていた。 いよいよ録音がはじまった。(続く!) (近況) |
| 麻雀アニメ『哭きの竜』は超ハードなヤクザ組織の抗争が舞台だ。しかし、そのアフレコ風景は僕を笑わせようとしているとしか思えなかった。プロデューサーが爆笑するわけにいかない。僕は必死で耐えた。 主役、竜のセリフはものすごく少なかった。それに対して、相手役のヤクザの親分・内海賢二さんのセリフは異様に多い上に力み方がすごい。舞台が雀荘だから、こんなセリフだけ聞くと、どうしてもおかしさがこみ上げてくる。 親分「竜よぉ、お前には神さまが憑いとる!その神さまをワシにくれぃぃ!」 場面変わって●●組本部。飛び込んでくる鉄砲玉。 「死ねやぁ!」「このくそガキぃぃ!」 また場面変わって、麻雀卓。 親分「どないや、竜!ワシには今、神さんが憑いとる。竜、お前の運がワシにはこの手に掴めるようじゃぁぁぁ!!」 そう、主役の竜は出ずっぱりでかっこいいけど、無口という設定だったのだ。セリフは「ポン」「カン」「チー」に、あとは「ロン」ぐらい。こんなにセリフが少なくて、池田秀一さんは怒らないだろうか。 (近況) |
| 20年近く前、東京の女子大生に真顔で「大阪の男の子って、みんな丁稚(でっち)か漫才師なんでしょ?」と聞かれたことがある。 そう、中央にとって地方とはそんなものだ。九州男児は男尊女卑、北国の女は色白、京都は古い街で、広島と大阪にはヤクザしかいない、と決めつけてるのだ。 たしかに大阪人にとってヤクザは日常的存在だ。実家の刺繍工場も、隣は某広域暴力団組長の自宅だった。卒業した中学校では毎年卒業式間際になると先生達が「今年こそ暴力団への就職人数をヒトケタ台に!」と会議を開いていた。 そんなスパルタンな中学生だった僕たちでも、近所の「喫茶キャスバ」には近寄らないようにしていた。ヤクザ御用達の店だ、いや経営者や従業員も全員ヤクザだ、と僕たちは噂しあった。 「組の若いもんが、昼間っから喫茶店でゴロゴロしている。よそに金を落とすくらいやったら、組で喫茶店を営業した方がええ。出入りの時の召集も楽や」 そんな推測がまことしやかに囁かれた。 「警察も手出しでけへんらしいで」 店の外壁には、ファンキーな黒人のイラスト。しかし当時の僕たちは「店の中にはこんなパンチパーマがゴロゴロおるんやど!」と脅しかけてると思っていた。 中からゴミ出しに出てきた従業員と目があったら、即逃げてフトンににもぐり込んでガタガタ震える。今にも玄関チャイムが鳴って、「キャスバからの使者(パンチパーマ)」が来るんじゃないかと怯えながら。 ある日ついに、友達の須藤が三ツ矢サイダーの空き瓶をキャスバの店の前においてきた。肝試しだったか、言い出してひっこみがつかなくなったか、とにかくみんな驚いたが、本人は一番恐かったようだ。 いつまでもお礼参りにおびえていた。一年以上キャスバの前を絶対に通ろうとしなかった。僕を含めた友達も、なぐさめるどころか巻き込まれる方を恐れていた。須藤と友達だと思われては困るので、キャスバの近所ではそいつとは話さないほどだった。 プロのヤクザが中坊相手に、得にもならないケンカを売るはずもない。が、その時は本気で恐かったのだ。 しかし時は流れて僕も今やオトナである。いつまでも恐がっている場合じゃない。ついに先日、キャスバを訪れてみた。 キャスバは今でも同じ場所にあった。あの頃、地獄への門だと信じていたセロファン張りガラスのドアを開け、中に入る。 ただの喫茶店だ。たしかに店員さんはコワモテな顔をしているが、冷コー(アイスコーヒー)にドラッグは入ってないようだ。 なんでオレたちはこんな店、あんなに怖かったんだろう? 冷コーをすすりながら、ふとあの時代の定番クイズ「キャスバに客が6人、指の数はあわせていくつ?」を思い出して、笑いを堪えるのに苦労した僕であった。 (近況) |
| なんで新しい性風俗って、必ず大阪から出るんだろうか。古くはノーパン喫茶、ホテトル。ノーパンしゃぶしゃぶだって大阪で発明されたという。 天満のノーパン喫茶「WIND」では、その名の通り店中の扇風機がお姉さんのスカートをひるがえしていた。「ミラー」は床が全部、鏡張り。ノーパン・ミニスカのウェイトレスをかがまなくても覗けるのだ。 ノーパンこたつ喫茶もあったよな。広い座敷の店内に掘りゴタツがあって、お姉さんが隣りにすわってくれるのだ。「お触り禁止」とか張り紙があったけど、コタツの中だからちょっとぐらいわからない。 天王寺のトップレス牛丼屋「乳ノ屋」はTVで紹介されて一躍有名になった。トップレスのウェイトレスが運ぶ牛丼が、五千円で食べ放題。しかし男とはバカなもんで「五千円分、食べる!」とムキになり、生オッパイ観賞も忘れて、牛丼を三杯も食べるヤツが続出した。しかも、お腹がいっぱいになると、つい店を出てしまうのだ。 もちろん、そういう先端文化は、キタだのミナミだのと呼ばれる繁華街から始まる。僕が生まれ育った住吉区は、そんな新しい文化とは無縁の、眠ったような町だった。 が、そんな僕の町にも、ついにノーパン喫茶ができた。南海高野線沢之町駅近くに開店したその店の名はEmilma。細いピンクのネオン管が「sexy& cafe」とおしゃれな飾り文字を描いていた。 Emilmaとはどういう意味だろうか。近所の中学生は「ギリシャ語で裸という意味や」「いやイタリヤ語でお尻やで」と議論した。本屋に行って各国の辞書をひいても、どうしても意味が分からなかった。 が、「セクシー&カフェ」、あまりにもおしゃれすぎる。近所にスーパーも無いような寂れた駅前だ。まさか、ノーパン喫茶ができたとは誰も思わなかったのだろう。 客足が芳しくないのに業を煮やした店長はある日、いきなり解決策に出た。おしゃれな横文字の看板は取り外され、縦型の看板になった。「ノーパン・コーヒー 七百円! エミルマ」。 エミルマという店名の隣には、手書きの貼り紙で、「さかさに読んでね」。 そう、エミルマはギリシャ語でもイタリア語でもない。いかにも大阪のおっさんが喜びそうなダジャレだったのだ。 エミルマは、その後少しは繁盛した。お掃除タイムというのもできたらしい。20分に一度、ノーパン・ミニスカの女の子が必要もないのに床を雑巾掛けするのだ。 しかし「ノーパン・コーヒー 七百円!」。安すぎる。当時の相場二千円を価格破壊だ。 「ノーパン・コーヒー 七百円!」 あえて口に出して言ってみた。誰だって生まれ故郷には甘酸っぱい想いがあるだろう。でも、僕の故郷は「ノーパン・コーヒー 七百円!」なのだ。このアンビバレントな想い、少しは判っていただけるだろうか。 (近況) |
| NHK・BSマンガ夜話。毎回一つのマンガをとことん語るトーク番組だ。もちろんギャグマンガも取り上げるが、ここで問題が生じることもある。お上品なNHKが、下品なギャグをオンエアできるのか? 『がきデカ』の回も、ちょっと問題になった。ギャグが下ネタに集中している。こまわり君が股間を手ぬぐいで拭くと真っ黒に汚れる。この「真っ黒な汚れ」、なまじ絵が劇画調でうまいから、インクの香り以外の、素敵なサムシングが漂ってくる。 しかし、この下品さは「少年誌でここまで描く!」という「権威への反抗」「表現への挑戦」のための下品なのだ。単なる下品ではない。オンエア問題なし! 『ナニワ金融道』だって絵は下品だ。いや絵だけではない。セリフもお話も、全て下品だ。しかしそれも「人間の本質は極限であらわれる」という作者の主張のためであり、あえて露悪的に、えげつなく描いているだけだ。いわば「人の世の本質は下品にあり!」という作者の主張を表現するための下品である。虐げられたプロレタリアートの下品。もちろん放映はOKである。 しかしなぁ、先日オンエアされた『嗚呼、花の応援団』は違うんだよ。 作者はただ単に、本当に下品好きなのだ。 「人間みんな、ウンコチンコマ○コが好きやねん!」という信念のもと、大阪特有のコテコテなサービス精神で、誌面一杯にウンコチンコマ○コがあふれているのだ。 僕だって下品マンガは嫌いではない。目を背ける女子には「見ろよ!」と背徳の喜びを伝授するにやぶさかではないのだ。 しかしここまで「下品大盛りツユだく」では、さすがの僕でさえ「いえ、僕はパリのエスプリが効いたユーモアが好きで」とか口走ってしまう。 それほど下品なのだ。絵柄自体が、汚い。ヘタというレベルを越えている。下品エキスをインクにして描いたような絵だ。 セリフもキャラクターも背景も、「このシーンが」とTVでアップにするのは不可能な画面が頻繁に登場する。というより、全てのページになんらかの問題がある。 中でも一番すごいのは、主人公・青田赤道を恋い慕う超ブサイクな少女・みすずちゃんである。 身長3メートル、体重三百キロ超。このマンガ史上最凶のキャラクターは、セリフの語尾に必ず「チ×ポ、キ×タマ、オ×コ」のどれかをつけるのだ。 もちろん、何の説明も意味性もない。ギャグですらない。 シリアスな場面でも「なんでうちのこと、好きになってくれへんのチ○ポ」と嘆く。父親が慰めて、そっと二メートルはある肩を抱くと、「尽くしても尽くしても、なんで振り向いてくれへんのキン○マ〜!」とか泣き叫ぶのだ。 こんなものを天下のNHKが放映していいのだろうか? 案の定、生放送本番の直前、突然プロデューサーから発表があった。(続く) (近況) |
| NHK・BS2の名物番組『BSマンガ夜話』の生本番30分前、楽屋に緊張が走った。今夜の作品は『嗚呼、花の応援団』。どのページをめくってもウンコ、チンコ、マ○コがあふれる素晴らしいマンガだ。 こんなマンガをNHKが紹介していいのか? 「NHKではなく、私個人の見解ですが」 担当プロデューサー氏は今夜の注意点、と前置きして話し始めた。 「この作品を取り上げるからにはそれなりの覚悟をしました。作品を紹介する流れ上、不自然でなければ生本番中にチンポ、キンタマは致し方なし、とします」 「お〜〜!」 思わず、感動の声があがる。僕と同様、他の出演者達も大丈夫か、と心配していたのだろう。NHKで本番中にチンポ、キンタマと言ってもOK!これほど男心をくすぐるシチュエーションがあっただろうか? 「よかった〜。みすずちゃん、OKなんだぁ」夏目房之介が喜ぶ。 そう、問題はマンガに登場する史上最凶のキャラクター・みすずちゃんだ。 彼女はセリフの語尾に必ず「チンポ、キンタマ、オメコ」をつける。しかも主人公・青田赤道に惚れてシリーズ後半ではストーリーそのものを引っ張る重要なキャラなのだ。 彼女を語らずして『嗚呼、花の応援団』は語れない。大月隆寛は「じゃあ、オメコはどうなんだ?」と訊いた。 「そう、オメコだよ!」と、いしかわじゅん。「オメコがダメなら意味ないよな!」 不自然なほどムキになって主張する。ダンディなふりして決めるところは決めるヤツだぜ、いしかわ! 「みなさんのおっしゃりたいことはわかります。しかし!オメコに関しては、今回は御容赦願いたい」 聞くが早いか全員が立ち上がって叫んだ。 「いくらチンポ、キンタマがOKでもオメコがダメならしょうがないよ!」 「セリフが紹介できない!」「オメコはこの作品そのものに関わるセリフだよ!」 このままでは日本の放送文化の火が絶えるが如き大激論だ。あぁみんな本当に、本当にマンガを愛しているんだなぁ。 それなら僕も、と尻馬にのってオメコオメコと連発する。こんなにオメコと連呼したのは、中学二年の秋からこっち初めてだ。 しかし、さすがはプロデューサー、全員を一瞬で黙らせた。 「皆さんのお気持ちはわかります。しかし!ここでオメコと言ったばっかりに、シリーズを重ねてきたBSマンガ夜話が放映打ち切りになってもいいんですか?」 みんなもつきものが落ちたように納得してしまった。たしかに『嗚呼、花の応援団』で、それもオメコが原因で番組打ち切りはイヤだ。イヤすぎる。 「オメコに関しては、お目こぼしください…」 思わずつぶやいた僕を思いっきり無視して、リハーサルは始まるのだった。 (近況) |
| つい先日、ラルク・アン・シエル・ファンクラブの会報から取材を受けた。メンバーの一人がかつてゼネプロの常連客だった、という不思議な縁である。 ゼネプロ、正式には「SF専門店ゼネラルプロダクツ」。18年前、僕が20代半ばを全力投入した大阪のお店である。商品はすべてオリジナル。Tシャツやトートバッグ、シガーケース、メモ帳など様々な商品を自分たちで企画デザインして、販売した。 ロボットや美少女のイラスト入りの商品。明らかに子供向けではない、でも大人向けとも言えない。当時のオタクたちにはたまらない魅力に光り輝いていたのだ。 専門誌に広告を出したので、修学旅行のシーズンには日本中からオタク学生たちが押しかけてくれた。夏休み冬休みには、遠くからはるばる来てくれた客で、狭い店内はごったがえし、道に溢れだした客に驚いた近所の人たちが見物に来るほどだった。 地方から来る客は、小気味いい買いっぷりを見せてくれる。狭い店内を一周するだけで両手一杯の商品をかかえてしまう。一旦レジに預けて、もう一周。わずか数分でレジに大量に商品を積み上げ、財布から一万円札を束で出す。商品を買ってくれたお客なのに、なぜか気弱にありがとうございます、とぺこりとおじぎをして帰っていく。 逆なのが毎日来る客だ。毎日来るから買わない。毎日来るのは、友達を作りたいから長居する。店員にも馴れ馴れしく話しかける。特撮番組の主題歌を歌う。正直、あまり嬉しくない客だ。 そんなオタクたちにまじって、ある日、すごいオタクがやってきたのだった。 忘れもしない、梅雨の小雨がぱらつく日。バイトの石田君から、電話が入った。 「いま桃谷の駅です!すっごいヤツがいます!ミンキーモモです!」 「なんや、ミンキーモモのコスプレか?」 くだらん。女装でウケをとるような低次元のコスプレか。恐ろしいことにそんな程度の客はもう見慣れてしまった。 「そんなもんとちゃいます。もっとすごいんです!テレビ、テレビなんです!」 「なんやて?」 「あんなん、口では説明できません」 レジに立つ武田さんの「ひと目で『変や』とわかる奴やったら、そら絶対にうちの客や。待ってたら来るで」という制止を振り切って、僕は傘を差して駅へと走った。 そんなヘンな男なら、まわりに人だかりができているに違いない。まず不自然な人だかりを捜せ!駅で石田くんとおちあうと、桃谷駅商店街を探しまわった。平日の商店街は近所のおばさんや小さい子供がチラホラするだけで、平和そのものだ。 諦めて店に帰ると、そこには不自然な人だかり。その向こうから大音量の「ラブラブミンキーモモ‥」というエンディング曲。 お客さんたちが一斉に僕を振り返った。 中央に立っているのは右肩に12インチのテレビ(画面にはミンキーモモ)をかついだ男だった。 (近況) |
| この男ををなんと説明すればいいのか?左肩に12インチテレビ、画面には魔女っ子アニメ・ミンキーモモ、テレビから伸びたコードは、右肩から下げた巨大なカバンへ繋がっている。その中には据え置き式ビデオデッキと充電器が入っているのだろう。 全部で20キロ近い重量だ。それを担いで駅からここまでやってきた。携帯用ビデオなど存在しない時代、ビデオを持ち歩くというのは大変な労力を必要とした。しかも発見者の証言によれば、あの平和な桃谷駅前商店街を、ミンキーモモ主題歌をエンドレスで流しながら歩いてきたのだ。 そこまでして、なぜにミンキーモモ? 他のお客さんは、ミンキーモモ男を見ないように一斉に壁の商品を眺め、背中を震わせている。笑いをこらえているのだろう。 ミンキーモモ男は店の真ん中に立ち、時々回転する。みんなは笑うのをこらえる為にも、ヘンなやつとかかわりにならない為にも、背中を向けるしかない。その結果、彼を中心にした背中向けの人垣ができていた。 僕が帰って来た時、彼らは僕の反応を知りたくて、一斉にこちらを振り返った。 僕だって視線のやり場に困る。もしミンキーモモ男と目があったら?とにかく彼の視線から逃れたくて思わず店内を見渡した。 この異常事態にもめげず武田さんが山ほどの商品を前に、懸命にレジを打っている。レジ前にいるのはこんな時にすら買ってくれる、ありがたい客だ。 この心温まる光景に油断した。ついミンキーモモ男と視線が合ってしまったのだ。 「ミンキーモモです」と彼。 「‥はい」と僕。 「ご挨拶」とミンキーモモ男はテレビを担いだまま、ゆっくりと僕におじぎをした。 画面のミンキーモモも一緒におじぎをする。 あまりのショックに店の外に走り出て、ついに吹き出してしまった。 ウヒャヒャヒャヒャ!! すると僕につられてか、次々と客が飛び出してきて笑い出した。イヤな客も、良い客も次々と走り出て、狂ったように笑い出す。 ブヒョヒョヒョヒョ!! 店中を覗くと、そこにはミンキーモモ男とレジ係の武田さんだけが残されていた。 相手がいなくなったミンキーモモ男は、まっすぐ武田さんを向いて、テレビを見せつけている。武田さんは、顔をまっかにしてレジを見つめ、笑いをこらえている。ここで笑ったらダメだ。そんなコミュニケーションが成立したが最後、きっと彼は「ご挨拶」以上のナニかをやるに違いない。 無言の対決。だけど肩のTVからは「ラブラブミンキーモモ〜♪」という気楽な歌。 なんらかのリアクションを期待するミンキーモモ男。ひたすらレジを見つめながら笑いをこらえる武田さん。この無言の対決はそのまま1時間近くも続いた。 しかし僕たちは知らなかった。このミンキーモモ男より数倍スゴい、超迷惑オタクが僕たちの店に迫っていたことを。 (この続きは、またいつか) (近況) |
| 前回、上の近況欄で告知したトークイベント、「日本のセバスチャンたち」は大成功だった。新宿歌舞伎町というぶっそうな会場にも関わらず集まってくれたブロス読者たち一五〇名を相手に4時間しゃべりっぱなし。あ〜、楽しかった。 どんな内容だったか、ダイジェストでお届けしよう。 ●セバスチャンに「林原めぐみが結婚して、おまえ、悲しくないの?」と聞いたら「メグ〜ミの幸せはボクの幸せ」 ●え〜、会場に神無月マキナさんはいらっしゃいませんか?(場内爆笑)あ、大丈夫ですね?」 ●北原さんに「何でこんなおもしろい話を『なんでも鑑定団』でしないんですか」と聞くと「おいおい、オレはさわやかな北原だぜ」。カッコいい! ●合コンの時、トランスフォーマーの変形超合金を持ってくるんだ。ポンと渡して「これ、変形させて」と命令。女のコは汗ダラダラ流しながら一生懸命変形させるんだ。でも、できないんだよ。何せ難易度5だからさ、絶対できない。「いや〜ん、できな〜い。」と甘えたら、「できるまでやれ!」(場内拍手)もう鬼コーチ! ●僕たちの合コン部は体育会系なんだ。体育会系だから、すぐ合宿するんだ。対外試合(合コン)もするんだ。試合の後は徹夜で反省会するんだ。でもね、体育会系だから女子とつき合うのは禁止なんだ。 ●思わずおすぎさんの口説き文句、メモったら、「あんた、なにをメモしているのよっ!」(爆笑・拍手) ●(ナレーション)「UFO党の政見放送です。お話は、UFO党党首森脇とくおさん。サイコセラピスト吉田千史さんです。 ●『逆襲のシャア』のときに富野監督、庵野の原稿をビリビリッと破いて、「庵野なんか大嫌い! 死ねばいいのよっ!」(爆笑・拍手) ‥というわけで、今年もコミケの夏が来ました。すいません、ここまでの原稿は今年の同人誌の宣伝であります。今回のコミケで頒布する同人誌『超おたく!』は、このトークライブでの4時間の記録をほぼノーカットで収録。おまけに単行本化されていない原稿類もまとめて、なんと一二〇ページのボリュームであります。お値段、ちょっと高くて一五〇〇円の予定です。すいません。 コミケは三日目の8月13日(日)、東館H46-bの場所で、サークル名は「ロケット野郎」です。会場は気が狂ったみたいに混んでいて、地平線まで机が並んでるから、かならずこの「東H46-b」を地図で調べてね。トイレ時以外はちゃんと僕が売り子しています。 コミケに来れない人は、僕のホームページで通販もすると思うのでよろしく。ああ、今回は本当にページの私物化であったな。すまん。 (近況) |
| オタク同志のカップルって、いいと思うんだけどな。 趣味が一緒だから、という単純な理由だけではない。むしろ「オタク男は美少女ゲーム一直線」「オタク女は、やおい一直線」など、どこにも接点がない場合も多い。 それでも、趣味を人生の中心に置くという考え方は共通だ。普通人からはゴミにしか見えない本やビデオ、グッズの山も、本人にとってはいかに大切か理解し合える。年に何回かの貴重なイベントの準備の為に、デートをドタキャンされてもあきらめがつく。クリスマスには、仲良くコスプレするのも‥‥僕はイヤだけど、好きな人はどうぞ。 なのに僕のまわりには彼女、彼氏のいないオタクたちがあふれている。 なぜ? たまに彼女や彼氏のいるオタクたちは「いやぁ、相手はオタクじゃないです。フツーの人ですよ」とやたらフツーを強調する。 それどころか、相手のいない奴等まで、「彼氏彼女にするなら、フツーの人がいい」と言う。 なんかムカムカしてくる。そうか。つまりオタクはフツー以下なんだな?だったらそんなオタク、さっさとやめちまえ! それもできないって言うんなら、目の前であぶれてしまった者どうし、サッサとくっついちまえ。よし!おれがくっつけてやる!相手がいないオタク男女、いまから合同お見合いだぁ! それを聞くと「でへへ。急に言われても」と、いかにも嬉しそうなオタク男たち。 眉をつりあげて、「岡田さん、無茶言わないで下さい!」と怒るオタク女たち。 「どうせ冷蔵庫の残り物同志なんだから、さっさと炒飯にでも雑炊にでもなってしまうのが一番。高望みばっかりして、恋人を作らないからダメなんだよ。 まず肝心なのは、どんな奴とでもつき合い始めること。付き合ってイヤだったら別れりゃいいんだよ。いろんな相手とつき合っているうちに、自然といろんな技もおぼえる。もっといい相手を狙えるようになるよ。最初っから高めを狙っても、ムリムリ」 僕の一言ひとことに素直にうなづくオタク男たち。反対に、一所懸命説得すれば説得するほど、怒るオタク女たち。 「岡田さんは、女心がちっともわかってない」「そこまでして彼氏なんか欲しくない」 あああ、そんなにアカラサマにいやがるから見ろ、さっきまで嬉しそうだったオタク男たち、すっかり縮こまったじゃないか! 「もういいですよ。そんなこと言われるくらいだったら、池袋のオタク向け風俗店『聖コスプレ学園』がありますから!」 結局、ぶっちぎれたオタク男たちのワケのわからんタンカで、交渉は決裂だ。 「手近なオタク女でもいいから彼女にしたいオタク男」と「具体的な男と縁遠くてもいいから、理想の恋愛を望むオタク女」。 ああ、やっぱり今年のクリスマスも、互いに寂しく過ごすんだろうか? (近況) |