TV bros『オタクの迷い道』連載第六十二回〜第七十回
ン1995-1998.Toshio OKADA all right reserved.
目次へ連載一覧に戻る


◆『オタクの迷い道』#62 さぁ君も、モノレール前で僕と握手!

 オタク趣味にも、差別がある。
 ロボットとかヤオイ、声優なんていうのは、オタクの中でもメジャーだ。語り合える仲間も多く、話題も豊富。
 それに比べて、ロケットファンの僕は、話す相手がめったにいない。たまに「僕もロケットが好き!」という人と巡り会っても、そいつは、ただの宇宙開発マニアだったりする。スペースシャトルなんていう、芋虫みたいにブサイクな乗り物を、ロケットと呼んだりして、僕を怒らせる奴もいる。
 僕が好きなのは、えも言われぬ流線型の曲線美を持ち、金属の光沢が眩しいあのロケットだ。銀翼がすらりと伸びて、船尾から炎を噴き上げる、あのロケット、50年代の、正しいロケットなのだ。
 30年代のロケットは、先端が丸すぎる。60年代のロケットになると、多段式になってしまう。これではダメだ!(なにが?)
「岡田さん、そりゃマイナーですよ」
 このように差別される僕も、他のオタクの分野には、何の躊躇もなく差別するぞ。たとえば僕は、トランスフォーマーも、ビーストウォーズも、勇者シリーズも全部ひっくるめて「唇のあるロボット」と呼んでいる。声優ファンはみんな、「へきへき〜、萌え萌え〜」とか「ハヤシバラ・メグ〜ミ」だと決めつけている。他人を責める資格などない。
 ロケット以上に、僕が語り合える仲間がいないのがモノレールだ。ビル街の谷間を、優雅な曲線を描きながら、音もなく走り抜けるモノレール。このモノレールの良さがわかるヤツが、なぜいない!?
 君たち、知ってるか? モノレールには、レールにまたがる股座式と、レールにぶら下がる懸垂式と2種類あるんだぞ。世界最初のモノレールは、1824年にスコットランドで作られて、木のレールの上を、馬に引かれて走ってたんだぞ。世界最初の商業モノレールは、1955年、ロスのディズニーランドに登場したALWEG式で、今のは、4代目なんだぞ。
 こんなことを、熱く語り合う仲間が一人もいないなんて、なんてことだろう。僕は今まで、自分もモノレールが好きだという人に、実際に会ったことが一度もなかった。
 困ったときにはインターネット。世界に枠を広げれば、僕と同じモノレール好きが見つかるに違いない。そこで見つけたのが、世界モノレール協会だった。
 「やった!同志が見つかった!」と喜んだのも束の間、この協会は会員がたった5人だということが判明した。しかも会員のほとんどは、ディニーランドファンで、ついでにモノレールも好きというやつなのだ。
 ディズニーランドとの二股なんて許せない!モノレールに二股なし!一本のレールの上を進んでこそ、モノレールなのだ。
 僕は、そこへの加盟を男らしくキッパリ断って、今日も会社に来るお客さんや編集者に、モノレールの素晴らしさを熱く説いている。が、真・国際モノレール協会(会長ぼく)は、今のところ会員0名である

(近況)
おかだとしお 僕のホームページ、全面リニューアルしました(http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/index.html)。ロケットやモノレールとか満載!もうメチャクチャかっこいいから是非とも身にきてね。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#63 六本木なんか、怖くない

 15年ほど前の話だ。大阪から月に一回、上京していた僕に、ホビージャパン編集部の松ちゃんが誘いをかけた。「六本木にカフェバー『ゴジラ』というのができたらしいで。行ってみいへんか?」
『六本木』!自分の人生で六本木なんていうトレンドな所に行くことになろうとは!
 僕が六本木に関して知ってるのは野獣会ぐらいだ。野獣会、それは加賀まりこや大原麗子が所属していた遊びの会だ。「野獣」なんていう凄い名前である。麻薬やレイプ、殺人は毎日。人肉だって週に一回は喰っている奴等の集まりに違いない。六本木とは、そんなグループがうろつく街なんだ。僕の想像する「六本木」は、生まれてもいない戦後闇市と、行ったこともないニューヨークスラム街の合体イメージだった。
 その「六本木」の、しかも「カフェバー」に行くのだ。頼みの綱は「ゴジラ」という、僕らにとってはフレンドリーな名前だけである。
 初めての六本木には別に酸性雨も降っていなかったし、どぎついネオンだけが輝いているわけでもなかった。ごく普通の繁華街だ。しかし店の場所がわからない。
 と、いきなり松ちゃんが鞄からポパイを出し、道ばたにしゃがみこんで読み始めた。もう僕は他人のフリだ。トレンドとは縁遠い僕も、六本木の路上で、ポパイの地図を見るのがいかに恥ずかしいことかくらいは、わかっている。が、背に腹はかえられない。
 ようやく「ゴジラ」を見つけた。なんの変哲もないマンションの地下への入口に、小さい時で「GODZILLA」と英語で書いてある。「これがホイチョイの見栄講座に載っていた、見つけにくいカフェバーの看板か!」と感動。いよいよトレンド最先端な場所に来たんだという気分が盛り上がる。
 一瞬で店内を想像する。マホガニーのフローリングに真鍮の手すり。ガレのランプに淡く浮かび上がる店内には、最先端の男女が、ヤクを決めて、ディープキス。もちろんランバダのステップを踏みながら、だ。
 店の棚には、ゴジラの人形やおもちゃが飾ってある。が、ここにいるカッコイイ人たちには、それが何なのかわからない。そこへ、僕たち三人がさっそうと入って行き、「おっ、マルサンの電動ゴジラじゃないか」「オーロラ社のプラモデル、リンドバーグの再販物か。夜行塗料入りとは渋いね」と、濃い会話を展開。すると、店のマスターも、やっとわかる人が来たとばかりに、ウィンクを投げる。当然、麻薬とディープキスで最先端のお客たちも、僕たちを尊敬の眼差しで見つめる。
 「いやぁ、それ程でもぉ」と、すでに照れ笑いを浮かべながら店の扉を開けると、店内は既に流行三周遅れのモノトーン。まるで公民館のトイレみたいに殺風景だ。店内には「六本木のカフェバーは怖いけど、『ゴジラ』だったら…」といかにも考えてそうな、丸顔の男ばかりだった。中の一人がテーブルに広げているのは、松ちゃんの鞄に隠したさっきの「ポパイ」だった。

(近況)
おかだとしお 今回の話、実は続きがあるんだけど、これ以上は恥ずかしくて書けない。「認めたくないものだな。自分の若さゆえの過ちとは」とシャア少佐も言ってるしな。とほほ。


目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#64 騙されること、それは通の楽しみ

「流行に飛びつくほど、オレは軽薄じゃないぞ」なんて性格の為に、さんざん苦労してきた。子供の頃はプラモブーム、日本中の子供たちがサンダーバード秘密基地を欲しがった時代だ。僕だって欲しかった。誰かがプレゼントしてくれたら、嬉しくて抱いて寝ただろう。でも欲しいとは言えない。

「最近のチビっ子は軽薄だと、星一徹も言っている。僕はそんなガキとは違うんだ」

 確かに違う。ナマイキなガキである。

 オモチャ屋の入口あたりのアトムや鉄人、ウルトラマンなんていう軽薄なキャラクターものプラモの前は、あえて無視して通り過ぎる。と言って、零戦や戦艦大和といったトラディショナルなスケールものを作れるほど大人じゃない。そんな僕がたどり着いたのは、オリジナルSFプラモだった。

 スケールもののプラモとは、いかに実物に近づけて作るかが勝負だ。キャラクターものプラモも、TVや映画に出てくるキャラとそっくりに作るかがポイントになる。

 が、オルジナルSFプラモは違う。箱絵とキャッチコピーが全てだ。「自動浮沈装置」とか「ミサイル連動発射可能!」「トリック・ゼンマイでぐんぐん走る」とハッタリだけで勝負しているのだ。

 箱絵も大人っぽい。スケールモデルみたいなリアルな画風で、万能潜水艦や空飛ぶ車といったSFメカが描かれていた。が、外見に惚れるのは危険だ。特にオリジナルSFプラモの場合、必ず、箱を開けた途端に思わず「ウソつけ!」と叫びたくなるほどの落差がある。いかに、ブッサイクなメカをかっこよくデフォルメするか、返品されないギリギリのラインを心得ることが、メーカーの腕の見せ所だったのだろう。

 パッケージには、スポーツカーみたいな平らなボディの上に、透明ドーム型キャノピーのスーパーカーが描かれている。座席は革張りのシート、パイロットは複雑なレバーやハンドル握って操縦だ。空を飛ぶボディからは、大型主翼と尾翼が、シャキーンと張り出しているのだ。しかし実際に箱をあけると、あるのはふつうの自動車のパーツ。翼はどこだ?あ、よく見ると、車体の横にかすかな突起が。これが主翼らしい。透明ドームは、ただのプラ板。複雑なレバー類は、もちろんない。宇宙パイロットは、上半身だけ。いや運が悪ければ、頭だけしかない。それをシートに張り付けるのだ。

 これを詐欺だ、と怒るのは野暮というもの。キャバクラの女の子は、気のあるフリは見せても絶対にヤラせない。それを承知で、気持ちよく騙されてあげるのが遊び人だろう。プラモだって同じ。メーカーの騙しにのって、うまく夢を見させてもらいましょうか、というのが、正しい楽しみ方だと思う。

 まぁ、8才にしてそんな人生の裏側を何度も見た僕は、パッケージを見ると、中身はこれに比べてどれくらい落ちるかを、心の中で予想する、という楽しみ方まで開発した。そしてへそまがりだった僕のへそは、ますます曲がっていったのだった。

(近況)
おかだとしお どうしてもゴジラを初日に見たくなったので、この原稿仕上げた瞬間からグァムに行ってくる。でも零泊3日の強行スケジュールだ。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#65 フィギュア王編集長の憂鬱

 僕はモノマガジンという雑誌で『オタクの歩き方』という連載をしている。他人の金で世界各地のオタクショップを巡るという、幸せ(僕にとっては)な企画だ。このラッキーな企画の担当編集は額田さんという怪獣オタク。フィギュア王という雑誌を創刊させ、編集長になったような男だから、彼も当然コレクターだ。カメラマンも兼ねる彼は、僕と一緒に世界中を廻っている。「なんてラッキーなヤツなんだ!」と、傍目には見えるだろう。が、世の中、そうは問屋が卸さないというのが、今回のお話。ででんでんでん。

 僕が額田さんと知り合った頃、彼はコレクターではなかった。新雑誌の創刊編集長で、私生活でも赤ちゃんが産まれたばかり。そんな余裕はどこにもなかったのだ。

 ところが僕と一緒にショップを廻り出してから、コレクション熱が再燃した。何しろ、仕事で月何回も宝の山に出かけるのだ。あとは財布からお金を出すだけなのだ。

 額田さんは取材の時も予備取材の時も、いつも紙袋いっぱいの宝物をかかえて帰る。その表情は、なぜか暗い。「嫁にばれたら絶対、殺されます」「いま僕、夫婦の危機なんです」等、泣きそうな声で僕に訴える。

 彼の奥さんは、ごく普通の専業主婦だ。亭主がゴミ同然の古オモチャばかり山ほど買ってくれば、当然いい顔はしない。

「なんで自分のオモチャばかり買うの?!」「あなたばかり海外旅行に行って」と、きわめて当たり前の不満を抱く。これでも額田さんがマイホームパパで、日曜には子供を公園に連れていき、早く帰った日は子供をお風呂に入れるといったサービスをしたのなら、奥さんももう少し我慢してくれたかもしれない。が、忙しい上に「自称・無頼派」な額田さんは、自分の子供のおむつを替えたことすら、ない男だ。奥さんの怒りメーターは、日に日に高まっていった。

 しかし額田さんは奥さんを甘く見ていた。「少しくらい増えたって、わからないさ。どうせ山ほどあるんだから」 が、どういうわけだか、奥さんにはわかるのだ。よほど、オモチャを憎んでいるのだろう。少しでもオモチャを持って帰ると、奥さんの怒りが爆発する。さすがの額田さんも、家にオモチャを持って帰れなくなってしまった。

「じゃあ今、オモチャはどうしてるんですか?」と訊くと「仕方なく、車のトランクに、隠してるんですよ」と言う。エロ本をベッドの下に隠す中学生レベルである。あんな暑くなるところに、ソフビの人形なんて入れたら溶けて崩れてしまう。が、額田さんとしても背に腹は変えられないのだ。

 それでも額田さんの快進撃は続く。年末のボーナスも、ほとんどオモチャに使い果たした。「奥さんには小遣い程度しか渡さなかった」という証言もある。正月前にはついに、あふれるオモチャで車のトランクのフタが閉まらなくなってしまった。

 そしていよいよ、あの破滅の日がやってきたのだ。

(続く)

(近況)
おかだとしお 7月7日放映の『開運!なんでも鑑定団』に出演する。以前から探して貰っていたモノレールのプラモが見つかったらしいのだ。これで僕も額田さんと同じ運命だな。とほほ。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#66 嗚呼、コレクター無惨!

 さて、奥さんに隠れて怪獣玩具を買いあさる額田さん、しかしついにその隠し場所「車のトランク」のフタさえ閉まらなくなってしまった。

「もう、ダメです〜。」と悲痛な声を聞いても、まぁコレクターの愚痴程度に聞き流していた僕であるが、さすがに次の話を聞いたときには「あ、もうダメだ」と思った。

「どうも最近、ウチの嫁、パートを始めたらしいです」

 ここで独身の読者にレクチャーだ。みのもんたも「おもいっきりテレビ」で言っている。「奥さんが亭主に相談なく、パートを始める」というのは、夫婦仲としては非常に深刻な状況なのだ。ガンで言えば、末期ガン。完全に亭主を見放したからこそ、自分自身で生計を立てる。この決意こそ、離婚へのカウントダウンであると言える。

「家のローンも滞っているんです。督促状、見せましょうか。めったに見れるもんじゃないですよ。ははは」と、力無く笑う。

 ボーナスすら渡してもらえず、家のローンも払えない。乳飲み子をかかえて黙ってパートを始めた奥さんの、ふつふつと煮えたぎっているであろう胸中を考えると、背筋が寒くなった。

 本人の弁によると、これでもセーブしているらしい。額田さんが集めているのは、怪獣のソフビと「アルプスの少女ハイジ」グッズのみ。怪獣のソフビもブースカを中心に「帰ってきたウルトラマン」までと守備範囲を決めている。「帰りマン」以降、エースやタロウ他無限に続くシリーズには、絶対に手を出さない。

 ハイジの系列シリーズ、カルピス名作劇場でも、フランダースの犬とかラスカル、ペリーヌ物語などは絶対に買わない。これを買い出すと無限の地獄が待っていることは、額田さんも知っているのだ。だからどんなに安くても、どんなに保存状態が良くても、手を出さないようにしているらしい。

 ところが先日、僕はとりかえしのつかないことをしてしまった。額田さんと一緒に小岩に取材(と称した買い物)に行った時、「フランダースの犬カルタ」を見つけてしまったのだ。値段をみると安い。僕はつい気軽に「800円ですよ。このカルタ」と誘惑してしまった。

 彼も何も考えずに「あっ、本当だ!」と、他のおもちゃと一緒につい買ってしまった。その後、ミスタードーナツで互いの戦果を披露しながら、額田さんはしみじみカルタを見つめた。

「フランダースも集めるしかないか」

 いくら800円で安くても油断してはいけない。あとで、何十万円、何百万円の出費を生み出す起爆剤になってしまうことは判りきっているのだ。僕の不用意な一言「安いですよ」で、額田さんは、ますます修羅の道を歩み始めてしまった。

 ローンの督促状も来た。妻は黙ってパートを始めた。車のトランクも閉まらない。もう引き返す路なんて、どこにもないのだ。

 とりあえず、がんばれ、額田さん!

(近況)
おかだとしお 7月1日に最新刊『世紀の大怪獣オカダ』がイーストプレスより発売。表紙がすごくバカなので、書店で確かめてくれ。7日放映の『開運!なんでも鑑定団』にも出演するぞ。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#67 今年の夏は、いつもより熱いぜ

 日本最大の同人誌即売会・コミックマーケット、通称コミケは次回、8月14〜16日に開かれる。今回、僕ははじめて個人誌を発行することになった。今まで僕が作っていたのはいわゆるコピー誌。ぎりぎりまで何もしないで、2週間前になってあわてて仲間に原稿を割り振って、自分でも適当に書いて、コピーしてホッチキスで綴じる。典型的なコミケ一年生本だ。

 これではいけない。どうせ作るなら、オフセット印刷のちゃんとした本が作りたい。印刷屋さんで刷って製本してもらう本。黒帯の同人誌、初段の同人誌を作ってみたい。

 しかし問題点が二つある。一つは「個人誌=すべての原稿を自分一人が書く」という本であること。もう一つは生まれて始めて経験するオフセット印刷だ。オフセットの場合、最低2ヶ月前までに印刷所に予約を入れておかなければならない。本のサイズ、ページ数、紙質、表紙はカラーか?といったことをきちんと決めてからでないとできない。コミケで本を出したい意欲は満点だけど、どんな本を出していいのか判らない僕は呆然としてしまった。

 こういう場合は、まず取材である。今までにコミケで買った同人誌を出す。僕の好きな本は、だいたいB5版、60〜80ページぐらいのボリュームだ。値段は500円〜700円くらい。

 サイズはこんなもんとして何部刷る? 僕の好きなロケットとかモノレールのおもちゃの本って、何部ぐらい売れるんだろう?僕の理性は百五十部という。でも、僕の魂は千部売れるという。いや正確には、千部売れる、売れるはずだ、売らなきゃいけない!と三段活用でせまってくる。

 僕はつい、魂の熱い営業に負けてしまった。刷り部数は千部に決定した。千部刷ると決めた途端、今度はそんなに大量に一人で売ることができるだろうか、と悩み始める。僕は今まで最高で五百部売った経験がある。4人がかりで3時間もかかった。この割合だと僕一人で千部売るには、24時間かかることになる。そりゃ無理だ。

 そこで僕は閃いた。「そうだ! 定価を千円にすればいいんだ!」なんと、グッドアイデア、これならおつりも要らない。

 千円もらって本を渡す、千円もらって本を渡す、千円もらって本を渡す。僕はためしに15分ほどこの「素振り」を繰り返した。おお、このリズムでいけるぞ!!

 舞い上がった僕は、まわりのみんなに訊きこみを始めた。こういう調査を決して怠らないのが、僕の成功の秘訣なのだ。

「B5版80ページで千円ってどう?」

 すると誰もが「そりゃぁ高いですよ」と答える。やっぱり、高いのか…。このままでは「岡田斗司夫はコミケで暴利を貪っている」と陰口をたたかれてしまう。暴利を貪るのは大好きだけど、それがバレて陰口をたたかれるのは大嫌いだ。そんな噂をきいたら、その日はショックで眠れないに違いない。どうする?(続く)

(近況)
おかだとしお この原稿を書いている時点で、マジで同人誌作りで死にそう。たった一人で80ページなんて自殺行為である。なんでこんなこと、やろうなんて思ったのか?もう自分が憎い。


目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#68 同人誌・天国と地獄

 オタク最大の祭典、コミックマーケットの当日が近づいてきた。僕が出店するのは3日目の8月16日(日)、この日までに僕は千円で売る同人誌を千部、完成させなければならない。

 なぜ、そこまでしてコミケで?とか、なぜ千円?とか、なぜ千部?とか、理性のツッコミはすっかり聞こえない。それより問題はどんな本を作るか、だ。

 経験者の話によると「80ページもあれば、千円で売っても怒られない」らしい。だが素人の僕には、肝心の作り方がわかない。プロの編集に相談すると「まずは台割りを作るんですよ」と教えてくれた。

 台割りというのは、それぞれのページに何を書き、どんな写真を載せるのかを一枚の紙に書き出した表のことだ。雑誌の目次をもっとくわしくしたカンジである。

 さっそく僕は、手近にあったコピーミス紙の裏に、台割りをグリグリと書いていく。

 「やっぱりロケットのプラモが好きだから、これを中心にっと。どうせなら、アポロ以前の空想デザイン、月着陸前後の現実化っぽいデザイン、それらがアレンジされて模型化された時のデザイン、この3つを並べて、比較しながら解説するのはどうだ?う〜ん、すごい。そんな本、世界中で誰も書いたことないぞ。あぁ、なんてかっこいい本なんだ!」

 アイディアは次々と沸いて、僕はすっかりごきげん。作業はどんどん進み、「今度のコミケは僕が主役だ!」という気分だ。

 その日の夜は、ちょうどBSマンガ夜話の出演があったのだが、頭は自分の同人誌のことでいっぱい。控え室でサンプラザ中野氏や大仁田厚氏にまで、自分の作る予定の同人誌の話をしまくった。いま考えてみれば、ずいぶん迷惑なヤツだ。

 夜遅くベッドに入ってからも、「その日、出版の歴史が変わる!」なんて宣伝文句が頭の中を駆けめぐって、興奮状態。なかなか寝付けなくて困った。

「おお、こんな素晴らしい本が千円なんて安すぎる!」「ありがとう、そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。あ、こっちには外人のお客さんが」「オカダさん、スバラシイ!トレビア〜ン」

 もう見る夢まで同人誌ネタだ。何から何まで、僕にはバラ色に見えていた。

 しかし、である。僕は最も重要なことを見逃していた。僕が作るのは個人誌、すなわち一人ですべての原稿を書くという本だ。怠けものの僕に、そんな大量な原稿が書けるはずがない。おまけに印刷所からは「7月24日にすべての原稿を入れないと、刷ってあげないよ」と言われてしまった。

 ぶっちゃけた話、いまこの原稿を書いてるのは7月15日だ。これでもブロスの〆切を2日も過ぎて「もう限界です」と泣きつかれたので渋々書いている。

 今回の話にはオチもなにもない。とにかく僕には、いま目の前の80ページを埋めるしかないのだ。あれ?なんで僕は千円の本を千部も売らなくちゃいけないんだろう?

(近況)
おかだとしお とにかくひたすら原稿を書いている日々だ。8月16日、有明の東京ビッグサイトの東館、イ01aで会おう。きっと僕はそこで「80ページで千円」の同人誌を売ってる。筈である。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#69 プラモと泳ぐ夏

 オタクに対する言われなき差別は、相変わらず続いている。ロリコンの落語家、立川談之助師匠も言っていた。同じ性的変態なのに、なぜ「ゲイを認めよう!」というパレードはあって、ロリコンにはないんだ、と。ロリコンだって、一人で写真集を見ているだけで誰にも迷惑をかけていない人がほとんどだ。でも「ゲイにはアーティストが多い」「ゲイってオシャレ」と言われることはあっても、ロリコンはこっ恥ずかしいだけなのである。談之介師匠、ファイト!

 先日もある女の子が「南の島でイルカと一緒に泳ぎたい」とか言うので、僕はどうせならプラモデルといっしょに泳ぎたいと答えた。そしたら、あからさまに侮蔑の目を向けられてしまった。

「え〜っ? 透き通るような水の中を、珊瑚礁を見下ろして泳ぐんですよ。プラモなんてそんなの、お風呂で遊んだら?」

 風呂は狭いんだよ、風呂は!

 単なるゴム動力のボートですら、パワーが半分以上余ってしまう。電動自動浮沈装置付き潜水艦なんて、人けのない銭湯でも浮上&潜水を3セットが限度だ。

 それに比べて、海はすばらしい。どこまでも続く大海原で、プラモといっしょに泳いだり潜ったりしながら、上から、横から、下からと、様々なアングルのプラモを楽しめるんだ。きらめく太陽の日差しが海面を通して、水中のプラモに降り注ぐ。ああ、なんてアーウィン・アレンな光景!

 マニアックな陶酔にふける僕に彼女は反論する。

「イルカと泳ぐっていうのは、イルカと抱き合ったり、コミュニケーションを交わしながら泳ぐってことなんですよ。息の続く限り泳いで、疲れたら一緒に休んだり、お魚をあげたりもできるし。イルカとのコミュニケーションは癒しにもなるんです。プラモデルなんかじゃダメですよ」

 ふん、僕はあんな魚かサメかわからんやつと泳ぐのなんか、まっぴらだ。どうしてもと言われたら、イマイの「わんぱくフリッパー」と泳ぐね。内蔵のゴム動力で尾びれを動かして泳ぐプラモデルだ。僕にはその方が、よっぽどストレス解消になる。

 でもどうせなら、シービュー号やスティングレイ、サブマリン707あたりと泳ぎたい。どこまでも続く水平線。珊瑚礁が見えかくれする浅瀬が理想的だろう。そういうところで、かわりばんこに浮き沈みするシービューやスティングレイを眺めながら、力の続く限り泳いでいこう。そして彼らが泳ぎ疲れたら、防水ポシェットから替えの電池(もちろん環境にやさしくないアルカリ)を出して、優しく交換してあげたい。

 空気室に浸水したプラモが沈むときは、スキューバで一緒に潜ってあげたい。ゆっくりと回転するスクリューを後ろから眺めながら、真っ白な海底の砂浜に着底する時、きっと僕の心は癒されているに違いない。

 憧れの夏は、南の島でプラモと泳ぐ夏なのだ。ああ、日本航空がタイアップしないかなぁ。  

(近況)
おかだとしお ガシャポンのHGシリーズにハマってしまった。小銭があると子供を押しのけてガチャガチャやっている日々だ。誰かカネゴン(初版)とダダとバルゴン、譲ってください。

目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る




◆『オタクの迷い道』#70 日本のオモチャ業界は狙われている?

 安斎レオさんは大阪在住のライターだ。スタートレックやオモチャに関しては文句なしにトップクラス。面倒見もよく、頼れるアニキ的存在なのだ。そんな安斎さんの唯一の欠点、それは「妄言癖」である。

 安斎さんと10分以上話していると、必ずユダヤな話になってしまう。安斎ワールドでは、国際的なユダヤ人陰謀グループが世界征服を着々と進めており、その最後のポイントが日本だということになっているらしい。

 もちろんこんな話は「明確な悪」が見えにくい現在社会の不安が生み出した、単なる妄想だ。大の大人が真剣になって語る「口裂け女」みたいなヨタだと思って間違いない。ちょっと紹介してみよう。

 国際ユダヤ陰謀グループが、とうとう最後のターゲット・日本への侵略を開始した。最近、急激に日本へ進出してきた海外の大手おもちゃ量販店「トイ○○ス」こそ、日本侵略の先兵なのだ。(ショッカーが手始めに幼稚園バスを狙うノリである)。

「岡田さん!トイ○○スが日本に最初に進出したときの目標店舗数は13店です。13はユダヤでは特別の数なんですよ。やはり、ユダヤの陰謀ですよ!」

「・・・・(遠い目)」

「トイ○○スは、現在日本で66店の展開計画を持っています。知ってますか?666はユダヤでは獣の数字、邪悪なナンバーなんです!」

 獣の数字は僕もオーメンで知ってるけど、ヒトケタたりないぞ。

「世界中の黒幕政治家や武器商人が結託して、日本のオモチャ業界を支配し、やがては日本を支配しようとしているんです!ああ、なんて恐ろしいんでしょう!」

 真剣な安齋さんの妄言に、大爆笑だ。

 そんな安斎(妄言)さんが、先日『TVチャンピオン』の『ヒーロー選手権』に出場した。日本全国からおもちゃやヒーローに詳しい人達が続々と集まった予選で、安斎さんはダントツのトップ。2位を大きく引き離し、ほとんど満点の成績だった。スタッフも「これは安斎さんが優勝するに違いない」と確信し、本戦の前から安斎さんの子供の頃の再現フィルムを作りだした。

 勝利を確信した安斎さんも大阪で待っている奥さんに電話、ヨド物置を注文させた。賞金50万円分で買いまくるおもちゃを入れるためなのだ。さすが、準備周到である。

 ところが、一回戦でまさかの敗退。大番狂わせだった。仮面ライダーの怪人「ドクダリア」を、よりによってポケモンのラフレシアと間違えるという大失態である。

 そんな情けない姿の放映直後から、安斎さんが連載している雑誌には「ふだん偉そうなことを書いている割には、オモチャのことを何も知らない」「あんなダメダメなヤツに連載はさせるな」という厳しい電話や投書が相次いだ。

 かわいそうな安斎さん。きっとこれも、禁断の真実を知っている安齋さんを陥れようとする、ユダヤの陰謀なんですよね?

(近況)
おかだとしお 安斎(妄言)レオさんの文章は、オモチャ雑誌・フィギュア王やSFX雑誌・ヘッド・プラスで読めるぞ。さあみんな、安斎(妄言)さんにどんどん、ファンレターを送ろう!


次項へ目次へ連載一覧に戻るインデックスページに戻る