『人生の取り扱い説明書』連載第四十九回〜第五十三回
ン1997-1998.Toshio OKADA
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49回目 僕が取り説を思いついた訳(1)

 この連載は間もなく終了する。僕の中で「書くべきことはもう、全部書いたかな」という感触があるからだ。
 そこでこれから少しの間、今までとは文体を変えて「自分自身のこと」を書いてみようと思う。たぶんこれは、この連載で最も問い合わせの多かった「なぜ、この分類法を思いついたんですか?」という質問に対する答になるだろう。
 この連載でも度々書いているが、僕は王様タイプだ。人から嫌われるのを、何よりも気に病む。
 お世辞にさほど弱くないのは、どうせ口先だけだろうと疑っているからだ。これは、タイプの問題ではなく、性根の問題だろうね。
 王様タイプだから、何か頼まれると「NO」と言いにくい。特に、面と向かって断ったり、値切ったりということは至難の業だ。と言うのも、目の前の人間が、露骨に不快な表情をするのが、一番辛いからだ。
 ご存知かも知れないけど、こんな僕がこの間まで、アニメやゲームのプロデューサーをやっていた。それも会社の社長だ。エヴァンゲリオンでメガヒットを飛ばして有名になったガイナックス、という会社を僕は作り、92年の夏頃まで経営者だったのだ。
 あの頃は本当、色々と胃の痛むことが多かった。社内のスタッフに対しては、クリエイターを大切にするいいプロデューサーだったと思う。クリエイター達のやりたいことをどんどん組み入れて、お膳立てしてやることに、一生懸命だった。自分が作りたい作品があっても、それには大してこだわらない。それよりも彼らの喜びが、そのまま自分の喜びに感じられたからだ。創造の喜びに燃える顔に囲まれて、しかも彼らのヤル気が自分の力によるものだと感じられる時、王様タイプは一番幸せを感じられる。
 ところが、社外との折衝に関しては、そうはいかなかった。スポンサーや広告代理店、放送局などという「業界」的な交渉の場。あるいはメーカーや下請け会社、印刷所や現像所など、職人的な現場という、色々な会社と交渉する必要があった。
 どの会社が相手であろうと、やっぱり僕は、相手に喜ばれるような仕事をしたいと思った。だから同じような態度でついつい接してしまう。つまり常に相手を喜ばせよう、としてしまうわけ。しかし、相手の機嫌を取ることは、ただただ、自分の会社に経済的な損を強いる結果となる。当たり前だけど「自分の得は、相手の損」「自分の損は相手の得」という構造になっているからだ。
 相手とガンガンぶつかって、こちらの主張を通すべきだと思われるシチュエーションでも、面倒くさい気分になって、つい妥協したりしてしまう。
 おまけに社内のクリエイター同士でも対立はある。「僕の作品を優先に!」とみんながみんな、口をそろえるからだ。これにも、やはり粘り強い話し合いしか解決の糸口はない。
 この人のいいようにしてあげると、こっちの人が怒り出す。毎日が、モグラ叩きのように過ぎていった。

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50回目 僕が取り説を思いついた訳(2)

 王様タイプの僕はつい、周りの顔色に振り回されがちだった、という話の続き。
 「どうして僕には、プロデューサーや経営者として必要不可欠な、ハングリー精神がないんだろう」と悩んだこともあった。
 もちろん、妥協せずにがんばったこともある。でもそれで自分の会社の利益が上がったり、権利が増えたりしても、大して嬉しくない。あの嫌な思いをした分を取り返せるほどの幸せは、やってこない。だからついつい、逃げ腰になる。
 ところが自分自身では、そんな逃げ腰な自分が、イヤでしょうがない。
 いわゆる、タフなネゴシエイターとして、ガンガン大活躍。ビジネスの現場でサクセスロードを驀進し、ジャパニーズドリームをゲット!っていうカンジ? そんなエクゼクティブな生き方をしたいことは事実なのだ。ところがそういうチャンスや成功を、自分自身で逃がしている。
 だから、会社も作品的な評価は高かったのに、大して儲からなかった。社会的な成功を得た他の会社には、いつも劣等感を持っていた。
 でも、今となってはよくわかるなぁ。これは、王様タイプが抱く、典型的な軍人タイプへのあこがれや劣等感なのだ。僕は、自分が王様タイプなのをいやがって、何とか軍人タイプのような人間になりたいと考えていただけなのだ。
 でもどんなに努力しようとも、性根は王様タイプのまま変わらない。いくら軍人タイプのマネをしてみても、うまくいかない。軍人タイプのように、腹の底から「勝ちたい」「負けたくない」という欲求がわいてこないのだから、当たり前。
 それでも、やりたくもないし、うまくいかないことを、無理矢理がんばる。とても辛い。成功しても実はたいして嬉しいわけではない。「そんな自分になりたい」だけであって「そんなことをしたい」わけじゃないから。まぁ、こんな辛いことはそう長く続けられるものではない。ところが、長続きできないことで、また自己嫌悪になる。これはツラい。そこで、またがんばる。またツラい…。
 これでは、神経性胃炎への道、まっしぐらだ。
 こうして、僕は自分自身の多大な時間を犠牲にして発見したのが「効率よく幸せになる方法」だった。
 僕が幸せになるためには、まず、軍人タイプのように「強い自分」「勝つ自分」という幻をあきらめる必要があった。
 そして、自分が王様タイプだと認め、王様タイプの自分にOKを出すことこそが、効率よく幸せになることだと、ようやく納得した。
 そうして周りを見回すと、僕と同じような人が、山ほどいた。僕の憧れ、軍人タイプなのに、学者っぽい分析に憧れている人。冷静な学者のくせに、荒ぶる魂の職人に憧れる人。技に生きる職人なのに、派手な王様に惹かれる人。みんな、違うタイプの欲望を欲しがり、自分から不幸せを引き寄せている人ばかりだ。
 そこで書き始めたのが、この「岡田式 人生の取扱説明書」だ。
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51回目 僕が取り説を思いついた訳(3)

 さて、僕が不幸だった頃の話はもう充分。かつての僕のような不幸な努力は、どのタイプにも見られることです。
 まず、僕と同じ王様タイプ。劣等感はいつも軍人タイプに関してむけられます。自分はどうして軍人タイプにように、正面から他人と交渉できないのか。顔色ばかり気にするのか。そんな自分がイヤで、なんとかしたいと考えてしまいます。
 これに対して、軍人タイプの場合は「ブランドや権威にばかりふりまわされ、本当の幸せがわからない」とか「他人と自分を比べてばかりいる」という風に自己批判しがちです。
 そして「そんなことにふりまわされず、もっと自分らしく生きたい」「レールに乗るのではなく、自分の人生を自分で築きたい」と考えます。これは、軍人タイプの優位にあたる学者タイプへの憧れが反映されているのです。
 が、これも無駄な努力。いくら「自分らしく」と思っても、気になるのはその社会的評価です。社会的評価を優先してしまう軍人タイプには、勝ち負けや権威といった既成の価値観を一旦無視して、新たな価値観を組み立てることなど、最初から無理なのです。
 自分らしく生きている人を見て真似てみても仕方ありません。そんなことより、軍人タイプの欲求「勝ちたい!」に忠実に生きれば、効率よく幸せがやってくるはずです。学者タイプの場合「理屈ばかりで、感情がない」「口先ばかりで、行動がともなわない」という批判に弱いですね。つい「もっと自分なりの信念や目標を持って、生きていくべきではないか」とか「燃えるような恋をしたい」とか似合わぬことを考えます。ドキュメント番組で「○○一筋ウン十年」なんていう人を見ると、つい憧れてしまいます。
 そんな自分になれたらどんなにいいだろうか。これは、学者タイプの優位にあたる職人タイプへの憧れです。でも、同じことをやり続けようとしても、どうしても興味が続きません。一筋ウン十年には一番向いていないタイプなのです。
 しかし、そんな自分をダメなヤツと感じ、どうして自分には、本当に打ち込めるものがみつからないのだろうか、などと自己嫌悪に陥ったりします。
 職人タイプの場合は「他人に対する思いやりや心遣いにかける」といった批判に弱いです。
 自分のことを、気配りもできないダメなヤツと考えたりします。いつも明るく、みんなをひっぱっていく人間を見ると劣等感を感じてしまいます。自分もそんな人間になりたいと、無理に明るく振る舞ってみたりもします。
 もちろん、常に「好かれたい!」と考えて行動している王様タイプに勝てるわけはありません。職人タイプにとって、周りを明るくしたり、楽しませる人間になるのは、「できるようになりたいこと」の一つに過ぎないからです。
 このように、各タイプには各タイプなりの本来の姿と、ついついあこがれてしまう姿があります。しかし効率の良い幸せとは、本来の姿を自分で認めて、それを認めてやることなのです。

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52回目 血液型や占いとの違い

 この連載をはじめてから早くも一年がたちました。最初の頃は、知らない人にこの連載の説明をすると「ああ、血液型判断や星座占いみたいなもんですか」と言われたりしました。そんな時いつも「全然ちがうんだけど…」と思いながらも、どう説明したらよいものやら、いつも困ってしまいました。

 血液型や星座占いは、自分がどのタイプかが、簡単にわかります。あとは自分のところを読むだけです。読みながら、当たってる、当たってないを楽しめばいいのです。

 が、このトリセツの4タイプは、自分のタイプを正確に見分けるのがまず、とても難しい。自分のことほど、冷静には判断しにくいものだからです。逆に言えば、自分がどのタイプか、ちゃんと見分けられるようになれれば大丈夫。そういう意味では、このトリセツは、占いほど手軽ではありません。そのかわり、一旦使えるようになった暁には、とても役に立ってくれるものだと、自負しています。

 占いとは「楽しむ」ものだ、と書きました。僕は、占いはそうやって楽しむ以外、何の役にも立たないと考えています。せいぜい「今週のあなたの運勢は、絶好調」なんていうのを読んで、気分が良くなる程度ではないかと思うのです。

 例えば「9月生まれの乙女座は、繊細だ」と星座占いには書いてあります。が、9月生まれだというだけで、何千万人、地球中だと何億人もの人間をひとまとめに、繊細だとか決めつけるのは、いくらなんでも無理があります。

 このトリセツでは、そういった個人個人の性格を決めつけたりは決してしません。どのタイプにも繊細な人はいるし、どのタイプにも神経の太い人はいます。

 王様タイプで繊細な人は、他人に気を使わせまいとして、わざと傍若無人にふるまったりする時があります。でも心の中では、他人のちょっとした言動に、とても傷ついていたりします。

 学者タイプで繊細な人は、正確さを気にする余り、ズケズケと他人の嫌がることを言ってしまったりします。でも、どちらも周りからは繊細な人とは思われていないでしょう。個人個人の性格によって、4タイプの欲求は全く出方が違うのです。

 その人が暗いか、明るいか。自己主張が強いか、うちにこもりやすいか。プライドが高いか、謙虚な人か。こういった性格の違いは、全てのタイプに見られます。そして、タイプごとに、その出方が違ってくるのです。

 では、4つのタイプなんてあっても意味が無いじゃないかと考えられるかもしれません。が、決してそんなことはありません。様々なキャラクターによって、様々な言動が生み出されます。それをよく見ると、それぞれの言動のエネルギーになっている欲求が推測できます。もちろん、一つ二つの言動を見ただけではわかりません。が、色々な言動を思い出してみれば、必ず各タイプどれかの、典型的な行動や言葉が見つかるはずです。それを見つけた後で、もう一度全ての行動を点検しましょう。今までわからなかったその人の心のメカニズムが、本人以上にはっきりと理解できてくる筈です。

 こうなればしめたもの、トリセツはあなたの一生の道具として役に立つことでしょう。

 

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53回目 最終回

 様々な反響を頂いたこの「岡田式・人生のとりせつ」、最終回はそんな中から特に面白かったお便りを紹介します。

「いまボクは面白いのでいろいろな人に4パターンを説明してます。しかし、興味を示す人はごく一部で、大抵の人はオレってどれかナ〜レベルで終わるんですね。で、興味を示す人は、明らかに学者。これって発見でした」

 このように発見が直接喜びにつながるのが学者タイプです。しかし中にはこんなに喜んじゃう人もいました。

「私の20数年生きてきて読んだ文章の中で、最も価値のあるものです。あらゆる恐怖心が吹き飛びました。(中略)生来の控え目な性分と、躁状態による強い衝動とがが激しい葛藤を生みました。これを乗り切れなかったら、精神が破綻していたのではないかと本気で思います。学者タイプの人間にとっては、幸福への鍵であるとともに、狂気へ誘う罠であるように思えます。岡田さんの著作は世の著作の中でも最も価値のあるものと思っております」

 このお便りからもお判りの通り、学者タイプにとっては「わかる」ことの快感は麻薬にも勝るわけですね。ここまで喜ばれると、作家冥利に尽きますが、さすがに心配になりました。でも大丈夫、今頃は、頭で判っただけでは解決できない問題もあるんだということを、身を持って経験して、落ちつかれていることと思います。僕自身もこの連載を始めてから、友人を3人ほど失いました。とほほ。

「【取り説】のバックナンバーをプリントアウトして、読みました。私はもしかしたら【王様】タイプ?(中略)うちのカミさんがそのプリントアウトを見て、いきなりげらげらと笑い出しました。「ジョギング始めるときだって、リーボックが欲しいだもん」「結局、人の話聞いてないもんね」「王様タイプよ」

 トリセツの主旨を一瞬で理解し、笑いながらあなたを「王様タイプ」と決めつけた奥様は学者タイプ。実は早とちりが多いのも学者タイプですが、今回は正解でしたね。

「トリセツを読んだら、笑えるくらい典型的な軍人でした。「勝ちたい」「上下関係が大切」「正々堂々としたい」…。ただ、そういう面をモロに露出すると、今の日本では嫌われますから。とりあえず、王様のふりをしながら、時に素を出し、生活してます。」

 この方のように、トリセツで一番救われるのは軍人タイプのようです。映画やマンガの登場人物で、悪役はなぜか必ず軍人タイプ。作家やマンガ家に職人タイプや王様タイプが多いため、そういう作品群に洗脳されて「常に自分の欲求をいけないものと感じてしまう」人はあんがい多いのです。そんな無意味な罪悪感はさっさと捨て去ってしまいましょう。

 他にも、面白いお便りが山ほどあります。それは又、この連載を単行本化する時に紹介しましょう。今からでも遅くありません。下記のe-mailまたは普通郵便で編集部宛に、この連載の感想・自分が発見した法則・「岡田は間違っている!」という反論等も送って下さい。

 この連載を全部読んでいない、またはもう一度通しで読みたい方のために、僕のホームページでは連載原稿の全文を公開しています。一緒に悩み、考え、楽しみましょう。

 それでは、また単行本でお会いしましょう。

 


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