日本に恋する米国のオタク(95/10/2号)
| 「どうして僕は日本に生まれなかったんだ。アメリカ人なんてカッコワルい。日本人になりたい」 両親が白人優生主義団体に入ってる、という高校生は呟いた。米国のそのイベントでは似たような言葉を何度も聞かされた。 「OTAKON」は今年9月2日から4日間、米国ペンシルバニア州ステートカレッジで開かれた日本のアニメやマンガファン達の国際会議である。正式名称は「オタク世代のためのコンベンション」、オタクとは、日本語のあの「おたく」である。 その奇妙な名前のコンベンションから特別ゲストとして招待したい、という電子メールが届いたのは8月の初旬だった。招待状には私が現在、大学で講師をしているとことのほか、大阪の大学を3日で退学し、劇場映画「オネアミスの翼」やNHKテレビ「不思議の海のナディア」等、オタク系のアニメやゲームを作ってきたことまで、私のプロフィールを詳細に調べあげた形跡があった。オタクの調査力、おそるべし。 出席したいと返事すると、半日後にはインターネット上のOTAKON・ホームページに「オタキングきたる!」とデカデカと私の名前が載っていた。オタキングとはおたくキング、つまりオタクの王様のことだ。もともと私は業界やマニアの間でそう呼ばれていた。50%の尊敬と、50%の揶揄も含まれている。 「オタク」という言葉にはいつもこういったマイナスイメージがつきまとっていた。 そういった日本の常識が米国では通用しない。現地について私はそのことを実感した。彼らの日本への憧れ、オタクであることの誇りは真剣そのものなのだ。 コンベンション会場にはいると、いきなり受付で「うる星やつら」のヒロイン、ラムちゃんの等身大の看板に出迎えられた。 会場の展示や催しは、この秋全米で相次いでテレビ放映される「セーラームーン」「ドラゴンボール」から、日本でも相当なオタクしか知らないようなマイナービデオまで、日本アニメ一色だった。 期間中、二十四時間ぶっ通しでアニメビデオの上映会があり、シンポジウムや分科会、イベント、サイン会に即売会も開かれていた。 日本アニメを理解する真面目な分科会として「カタカナ・ワークショップ」も開かれた。会場では数十人の米国人たちが「アーイーウー」と声を揃えていた。壇上の講師が日本語のひらがな、カタカナの違いについて説明する。二時間の講義の結果、その日読めるようになったのは「チョ・ウ・ジ・ク・ウ・ヨ・ウ・サ・イ マ・ク・ロ・ス」オタクにはカルトな人気を誇るアニメ映画のタイトルだ。 「カタカナはとてもクールでカッコいい」とロング・ビーチから参加したカール・ホーンさん(25)はいう。彼はボロボロの日本語の辞書を見せてくれた。「カタカナは読める。次は漢字に挑戦だ」 日本から輸入されるマンガやアニメ雑誌はビニール袋にはいったままで販売されている。表紙の文字と絵だけで高価な日本の本を選ばなくてはならない。だから必死で日本語を覚えるのだという。 だがそれだけではない。たとえば「セーラームーン」の一人、セーラーマーズは麻布十番の火川神社の神主の娘、という設定である。ゆえにジンジャ、カンヌシ、シントーも米国オタクたちにとって必須知識となるわけだ。 こうして彼らの興味はアニメを越えてバックにある日本文化へと広がっている。「日本の伝説・民話」という分科会も盛況だった。 ローレンス・サベージさんは電子メールで十カ国、二百人を結ぶアニメファンクラブ「アニメ・ハッシン!」を主宰している。ハッシンは、宇宙戦艦ヤマトに出てくる「ヤマト、発進」からとった。彼女のオタク歴は十年。 「オフィスに『らんま1/2』とか『気まぐれオレンジロード』のポスターをペタペタ貼っておくの。来た人は最初は『なに、コレ』。そんな人に”洗脳用ビデオ”のアニメを渡す。するとみんなハマっちゃって、また一人オタクの仲間入り、というわけ」 米国に日本のアニメを紹介した草分けの一人、スタジオプロテウス社長のトーレン・スミス氏(34)は、日本のアニメやマンガを見る米国人はこの五年間で百倍に増えたと語る。 理由はCATVのSF専門局「Sci-Fiチャンネル」で二週間に一度、日本アニメ特集を組むようになり、作品に触れるチャンスが出来たこと。日本アニメ専門のコーナーがあるレンタルビデオ店が増えたのも大きい。 さらにアニメの魅力を伝えたのがCATVでノーカット放映された「オネアミスの翼」「超時空要塞マクロス」といった最新のアニメ群。 見たこともない映像表現。美しい絵。複雑なストーリー。手の込んだ演出。そしてキャラクターの明確な個性。チープだと思われていたアニメが、大人の鑑賞に堪える芸術にまで高まっていた。 それが新しもの好きの米国人には、超カッコイイものに写った。そして、日本アニメの中にある人、モノ、街が、彼らの新しい日本像となった。 そこにはありきたりの東洋エキゾチズムはないかわりに、サイバーでテクノでポップなジャパニーズ・カルチャーが広がっているのだ。 それにしてもなぜアメリカで、オタクがこんなにも受けるのか。深夜のホテルの自室で考えてみた。これは百五十年ぶりに、日本文化がクリエイターの名前とともに海外で評価された、興味深い現象と言えないだろうか。 日本文化といえば、かつてはニンジャ、サムライ、ゼン、ゲイシャ。だが肝心の人物名は伝わらなかった。しかし浮世絵は別だった。歌麿、広重、北斎、写楽といった制作者の名前とともに作風の個性も記憶され、当時のヨーロッパの先端アーティストに絶大な影響を与えた。 同じくタカハシルミコ、ミヤザキハヤオの名前は米国のオタクなら誰でも知っている。おもしろいのは浮世絵もアニメも、女子供の低級芸術、と見られていたこと。世界に通用する日本文化は、なぜか周辺部から出てくるように。 自分の街、デトロイトを「モータウン!!」と何よりも誇りに思っているビル・ウォルドさん(40)も「日本に行きたい」と語る。 日本へ行ってアニメやマンガを買いたいのは勿論だが、そのほかにもアニメに出てきた街並みへ実際に行ってみたい、という。 「『セーラームーン』の舞台である麻布十番や『メガゾーン23』で主人公たちがバイクで走った渋谷から吉祥寺までを自分でも歩いて廻りたい。セーラー服や詰め襟を着て通学する日本の中学生や高校生たちを見てみたい」 米国のオタクたちにとって、アニメで知った日本は第二の故郷だと言える。 ウォルドさんは今年9月下旬、念願のアニメコンベンションを地元デトロイトの美術館で開催する。私の作品「オネアミスの翼」の上映展だ。前売り券はすでに三千人分売れたという。「モータウン・デトロイト」では日本憎しの風がやはりまだ強く、会場設定には大変な苦労をして説得した。だからウォルドさんは胸を張って自分のことを「オタクだ」という。 そんな彼を見ていると、かつて「自由の国」「科学の国」「民主主義の国」アメリカ合衆国に憧れた自分の姿を思い出した。 気がつくと私は、嬉々として「オタキング 岡田斗司夫」とサインをしていた。 |
| 僕は4月から東京大学で「おたく文化論」というゼミを開講する。東大もサバけた場所になったもんだ。 そこで試しにインターネット最大の検索エンジン『LYCOS』で「OTAKU」をキーワードに全世界のホームページを検索してみると、二百三十件ヒットした。 日本では差別語っぽい「オタク」だが、海外ではそうでない。日本アニメのファンたちは、むしろ誇らしげに自らを「オタク」と称している。この現象は昨年のAERA44号でも報告した通りだ。実際にそれらのホームページにジャンプすると米国以外でもオタク系ホームページが多いことに驚かされる。 フランス、イタリア、ドイツ、英国、フィンランド、オランダ、オーストラリア、台湾、フィリピン、メキシコ。 オタクはもはや、全世界の共通語になっている。その多くが自慢げにカタカナで「オタク、アニメ、マンガ」と謳っている。ヘンタイ、エッチ(H)、カイジュウ、オンナノコといった、意外な日本語がカタカナでポンポン出てくる。オタク文化だけではなく、日本語も「COOL=かっこいいもの」として扱われているのだ。 ハーバードやMITなど米国の名門大学サークルが作ったホームページでも日本のアニメ雑誌を注意深く読んでいなけれなわからないような情報が満載だ。椎名へきるがどうしただとか、声優の動静研究も熱心だ。なにせ最近ようやく収まったインターネット論争とは「アニメを字幕で見るべきか、吹き替えで見るか」なのだ。それほど日本の声優にもファンが多い。 海外の著名人にオタクが多いことはよく知られている。 マイケル・ジャクソンのオタクぶりは業界ではつとに有名だ。彼が89年に来日したときは、東京・原宿のキディランドを一日借り切って買い物した。そこで彼が買いあさったのがトラックやパトカーなどの乗り物がロボットに変身するオモチャ、『トランスフォーマー』。 彼のオタクぶりは買い物だけではおさまらず、ついに初の主演映画『ムーンウォーカー』では彼自身がロボットになってしまう。そのラスト、マイケルそっくりのロボットが宇宙船に変形して宇宙の彼方へと飛んでいくシーンは、彼のおたく魂の結晶だ。 ミュージシャンのマシュー・スイートは、高橋留美子の『うる星やつら』のヒロイン、ラムちゃんの大ファンだ。二の腕の「ラムちゃん入れ墨」に呆れる音楽ファンも多い。 本場・日本ではオタクを自称する著名人はまだ少数派だ。だが私がみるところ、あの皇太子兄弟もかなりのオタクのようだ。 皇太子が生まれて初めてもらったお小遣いで買ったのは「怪獣図鑑」だった。花束をプレゼントした歌手柏原芳恵は典型的なアイドル系のルックスである。 秋篠宮は黄色のフォルクスワーゲンに乗っているところがそれっぽい。 紀宮は学習院中学・高校でアニメ研究会に所属し、宮崎駿氏のアニメがお気に入りだという。愛読書はアニメディアとアニメージュ。ディープだ。 ではオタクの本場・日本のインターネットはどうだろうか。 柳瀬直裕さん(22)は千葉大学の大学院生。アルバイトでインターネットのホームページを作っている。 「企業からの注文がほとんどです。その大半が単なる会社案内掲示かネット上での通信販売が目的ですね。個人のページでも自己紹介っぽい家族の写真やペットの写真が載っているものばかりです」 これはコンピューターをちょっと触れるサブカルチャー系の人達が自分で作っている場合に多い。「ボクたち、情報の海の中を泳ぐイルカみたいなもんだよ」なーんていう彼らの作るページは、グラフィックはきれいだけど中身がない。はやっていると聞けばクラブにも行くが、自分から発信する手持ちのネタを持っていないからだ。だから他のサイトにやたらとリンクを張って、「ほら、ボクってこんなに友達多いんだ」と精一杯の自己主張をすることになる。 このように日本のインターネットの現状は、利用者の多くは仕事用専門の「オジサン系」と、流行に敏感な若者たちの「勘違いデジタル系」とに二極分解している。かけ離れているような二つだが、その奥にはいくつかの共通価値観がある。 「世界に情報を発信だ!」という気負い。 「やっぱり英語が世界の共通語だよね」という思いこみ。 「インターネットやってるボクらって進んでる〜」という優越感。 しかしせっかく「インターネットで」「英語で」「世界に」情報発信しているのに、他の国の人達が喜んで読んでくれそうな情報はあまりない。もちろん、学術・研究関係は別だが、一般ユーザーは他の人達が見たがるものを提供できていないのだ。 これではとても「世界に情報発信」とは言えないだろう。オタク文化で世界をリードしている筈の日本だが、インターネット上ではお寒い限りなのだ。 今、僕は「国際おたく大学」を四月開設に向けてインターネット上で準備している。「おたく文化の教養化」と「日本語教育」が二大目的だ。東大の「おたくゼミ」もそこで公開しようと思う。 大学と言ってもネット上のものだから参加は自由。そこで日本のアニメやマンガ、ゲームについて最新の情報を得ることが出来る。そして一生懸命見ている内に、自然と日本語が勉強できる仕組みを作っている。 海外のオタクたちのために漢字の上にはルビをふる。ひらがな、カタカナだったら読める、という外国人は案外多いからだ。 日本語を読まないと判らない情報がいくつも入っている。簡単なオタククイズ(昇級試験、というわけだ)に日本語で答えるとさらに面白い情報のある上級クラスに上がることが出来る。 英語の対訳も載せるが、それは参加者自身にボランティアとして翻訳して貰う。この大学は教える方も教わる方も、世界中から集まった完全なボランティアの人達だけで運営されることになる。 海の向こうの同胞たちは必死で勉強してくれることだろう。なにしろかっこいい日本語が一杯のホームページだ。知りたいアニメやマンガの貴重な情報が満載のホームページなのだ。 僕はカタカナワークショップで「ア、イ、ウ」と何度も何度も繰り返していた彼らをよく憶えている。あの熱意があれば大丈夫だ。 現在たしかにインターネットは英語が分からなければ始まらない。これからも英語が第一言語であることも変わらないだろう。 しかし第二言語は日本語にしたい。それでこそ、真の文化発信と言えるのではないか。 「5年以内に世界中のコンピューターのOS基本文字コード内に2〜3万語の漢字を入れる」 とりあえずの目標は、ここだ。 |