JILリサーチ(日本労働研究機構) 1997冬号インタビュー
シオンリーワンが一番楽しいんですス
−−岡田さんは、今までに、ガレージキット (プラモデルの一種)、アニメ、ゲームと幅広く制作に携わり、昭和60年には、アニメ・ゲーム制作会社「ガイナックス」を設立。平成4年には同社を退社し、今では、東京大学でオタク文化論の講師をなさってますね。ご自分の多彩な経歴についてどう思われますか。
【岡田】「ガイナックス」が一番最初にやめたものではないんです。それまでに、大学をや め、ガレージキット作りをやめ、アニメ作りををやめ、ゲーム作りをやめ、そしてガイナックスもやめました。一番好きな時に始めて、一番飽きた時にやめることを信条にしているんで す。
それと、僕はオンリーワンが好きなんです よ。ナンバーワンではなく。オンリーワンが一番楽しいんです。ガレージキットをやっていた時も、よそがやり出したら、やる気がなくな る。
ガイナックスでアニメを作ったのも、『トップをねらえ』のようなマニア向けのアニメがなかったからです。『プリンセス・メーカー』のようなコンピュータゲームを作ったのも、それまでのゲームが、コンピュータマニア向けのもので、オタクのためのゲームがなかったからです。だから、オタク向けのゲームを作った。すると、みんな、オタク向けのゲームを作る。それじゃあ、ナンバーワンのための競争をするのは嫌だからやめる。
−−岡田さんがこれまで携わってきたプロデューサーという職業について教えてください。
【岡田】プロデューサーは、作品の完成のためには、嘘を言ってでも、作品が完成することだけに価値をおくのが仕事です。例えば、スポンサーは儲かることに価値を置きますから、スポンサーに対しては、「作品が完成すれば儲かります」と保証するんです。だけど、プロデューサーは儲かるなどと信じてはいないが、ここで「儲かる」と言えば、作品が完成する。
さらに、作品を作る過程で、制作スタッフがいろんなことを言ってきます。その誰に対しても誠意をもって答えます。ただ、全部本気では聞かない。なぜかというと、全ての人の要望に答えられる本質的な解決策がないからです。もし、絵を描く人とお金を出す人、音楽を作る人が本気で論争をすれば物別れしかない。そこ を、問題を解かりにくくして、ぼやかして、作品を作り上げることのみに価値を置く、これがプロデューサーの仕事だと思います。
−−クリエイティブな作品を作るには、クリエーターをどのように管理すればいいのでしょうか。
【岡田】アニメ制作には、漫画家の手塚治虫が設立した「虫プロ」と映画制作会社の「東映」という二つの対極的な「働き方」のタイプがあります。虫プロは、作品を完成させるためにスタッフが何日も徹夜をするんですよ。徹夜をして、納品日のギリギリまで作業をやる。他方、東映は9時5時の決められた就業時間内に働いてアニメーションをつくる。対照的なんです が、双方が主張しているのは、「おれたちのほうがクオリティーが高い」ということです。実は、その価値観に共鳴して、自分のやり方に自信があればどちらでもいける。だから、クリエイティブな作品を作るためには、異なった価値観に共鳴するグループを複数持っていると強いと思います。
そして、グループの中心にいる人物が、その管理方法もしくは運営方法を腹の底から信じていることが大事ですね。虫プロのような非管理型であれ東映のような管理型であれ、自分の中に動機や信念がある人物を中心に据える方式です。「キャラクター型の運営」と僕は言ってるんですが、どんな仕事をするかではなくて、誰をグループの中心に置いて、その人が一番動きやすいようなやり方で働いてもらう、ということです。
−−クリエーターの養成はどのようにすれば良いと考えていますか。
【岡田】どうやればみんなクリエーターになれるんでしょうかとか、もしくはどうやれば個性が持てるんでしょうかとか、よく聞かれます。それに関しては、「不幸な子供時代を送ることです」としか言いようがないですね。逆境がなければ個性は生まれません。不幸な子供時代を送らずに済んだのだったら、それはそれで幸せですよ。
そして、クリエーターを管理するということは、不幸な子供時代を送った人を管理するこ と、つまり、親になるということなんですよ。「おれはあいつらの親だ」という仕事の覚悟のある人だけがクリエーターを管理できます。だから、親になるつもりがないのなら、企業がクリエーターを管理するのはやめたほうがいいと言っています。
−−プログラマー35歳定年説というのがありますが、デザイナーを対象にアンケート調査を実施した結果でも、デザイナーは、30代半ばで生産性が横ばいになるんですね。そうすると、年功的な賃金システムを導入している企業では、生産性に対する賃金管理上の問題が生じます。クリエーターを抱える企業はどのように対処すればいいのでしょうか。
【岡田】クリエーターは雇わなければいいんです。基本的に雇わずに外注することです。これが鉄則ですね。社内にクリエーターを抱えるということは、工場でいうところの生産設備を社内に作るのと同じ意味なんです。しかし、不況がくれば生産を調整しなければならないし、工場の設備が次第に老朽化するのと同じで、クリエーターの能力も加齢とともに横ばいになる。それを避けるためには、自社では直接生産をしないで、外注することです。その上でクリエーターに自由競争させるということしか僕には思いつかないですね。
−−岡田さんは、「オタク文化論」のように、評論活動もなさっています。岡田さんにとって、評論活動とはどのようなものですか。
【岡田】みんなが何となく考えていて言葉にならない事を言葉にしているようなものです。いわば、思考の代行みたいなものですよ。みんな、ものを考えているんですが、考え方がわからないし、面倒くさい、疲れるという人のために、代わりにものを考える。すると「それですよ、それが言いたかったんです」ということになって、「はい、それではお金をください」となる(笑)。これはわりと飽きないですね。
−−岡田さんは、プロデューサーであると同時に起業家でもあると思うのですが、起業家精神はもとからあったのですか。
【岡田】僕は、わずかな努力で最大のものが得るのが好きなんです。それを起業家精神と呼ぶのかどうか。そうじゃないですよ、それはむしろ「商売人」ですよね。僕は「起業家」と言われると違うとい言うけれども、「岡田さん、商売人ですね」と言われれば、「そのとおりで す」と言います。払う労力、かける時間と得られる成果の差がおもしろいわけです。
商売人に必要な能力は、たとえ商品の質が低くても売ることができるということです。考えすぎる人は、クオリティーを上げることにこだわりすぎるんです。そうではなくて、低いところから始める。取り敢えず、自分の身の回りにいるできそうな人間を集めて、商品を完成させて、質が低くても売る。次回でクオリティーを挽回すればいいんですから。
−−今後の仕事として何を考えていますか。
【岡田】この間まではおもちゃ屋をやりたいと考えていました。古いおもちゃを集めて高円寺で店を開いて、そこの店主をやっているのもいいかなとか、古本屋もおもしろいなと。まあ、先のことは見当がつかない。自分の中でほんとうに好きだったら始めちゃうとは思うんですけれども。
−−最後に、今、取り組みつつあるものがあれば教えてください。
【岡田】モノレール。
−−モノレール?
【岡田】今、モノレールが好きで好きで。結論が早くでるとつまらないので、数が集まってから考えるようにしているんですが、何で僕はモノレールが好きなのか、基本的に何がおもしろいか、今はわからない。そこで、自分探しができるんですよ。「何で自分はこんなものが好きなんだろう?」と考えていって、その中でパターンをつかむ。なるほど、現在の社会において自分というのはこういうことを感じて、実はここに危機感を持って、ここがおもしろいと思っているんだなと認識する。それを再構築して、また本にするわけです。今はオタク的なセンスを持ちながら別のものをジワジワ見ていて、それがおもしろいと思っています。
僕は自分が好きになったことが仕事のネタになる人間ですから、モノレールもネタになると思っているんです。ネタにならないものって、僕はあまり好きじゃないんですよ。趣味の中でも、後で必ず人に説明できて本になったり、商品になったりするんです。
シ「今、取り組んでいるテーマは」という問いに、生き生きとした表情で「モノレール」と答えが返ってくる。型にはまらない、そんな印象が強烈に残る。ス
(取材 立道信吾 )
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