ANIMEamericaレポート
| オタク文化とは何か?日本が生み出した子供文化、その中でも「マンガ」「アニメ」「ゲーム」が世界を席巻している。オタク文化とはこれらの「出版」「映像」「デジタル」から派生する文化全てを包括した概念だ。 ニューヨークタイムズ紙(95年9月17日)によると、94年度に日本マンガは一千万ドル、アニメビデオだけでも五千万ドルの売り上げを達成した。本年度はその4〜5割り増しといわれ、すさまじい成長率が注目されている。今や、オタク文化は単なるブームを越え、富と成功への入口として若者たちの心を駆り立てているようだ。 今年の6月、アメリカの海軍のある基地でのこと。母親が息子に頼まれて基地内のPX(売店)で日本のアニメ雑誌を買った。母親が何気なく中を見ると、中身はセックスとバイオレンスだらけ。驚いた母親は、国防総省上層部とかけ合った。これにより世界中の全ての米軍基地から日本製アニメ・マンガ商品は撤去された。 しかし米軍内部のアニメファンの活動により、日本のアニメ関係の本やビデオはすべてアダルトコーナーに置かれることで復活した。今後、日本のアニメが流通すればするほど、その都度摩擦が増えていくだろう。 いったい今、アメリカのアニメブーム・オタクブームはどうなっているのだろう。最新の米国オタク事情を求めて、私は全米最大のアニメコンベンションの一つ・AnimeAmericaへと向かった。 今年で4回目を迎えるAnimeAmericaは、毎年7月にカリフォルニア・シリコンバレーど真ん中のRed LIon Innで開催される、「日本製オタク文化を楽しむコンベンション」だ。近くにはシリコングラフィックス、IBMやAPPLEの本社等が林立し、NASAモフェット研究所、ゼロックス・パロアルト研究所などまさに米国デジタル文化の中心地である。 主宰者のカイル・ジェームス氏(29)によると今年の参加者は千五百人強。それらデジタル企業のメンバーやスタンフォード、サンノゼ、バークレーなどの大学生が客筋だ。この大会では参加者は7月25日〜28日の四日間、日本のアニメ・マンガ漬けにされる。日本のアニメ上映会、討論会やセル画の塗り方教室、アニメのアフレコ体験会などのお楽しみプログラムが毎日準備され、ホテル内をセーラームーンやドラゴンボールのコスプレが練り歩き、ケーブルTVも24時間、日本アニメを放映している。このコンベンションを商談に使う業界関係者も多い。こんなコンベンションがアメリカ国内では毎月のように開催されているのだ。 どのコンベンションでも活気の中心は「ディーラーズ・ルーム」だ。これら現地のアニメショップ・オーナー達は、日本からアニメビデオやCD、マンガやアイドル雑誌やプラモデルまで仕入れて売っている。この数年で米国の大都市では当たり前の存在となり、今や地方都市でも、アニメショップのオープンが相次いでいる。しかも、どの店も調子がいい。その多くは自らが日本製アニメファンで、その可能性やビジネスチャンスを信じて成功した人達だ。 レベル・ウォーカー氏(34)もそんなマニアがプロになった一人。彼は2年前カリフォルニア州の片田舎・ランカスターにアニメショップをオープンした。彼自身はアメリカ空軍の軍曹で、普段は奥さんがお店を切り盛りしている。軍隊引退後の準備として始めたのだが、初年度から予想以上の大繁盛。セーラームーンのキャラクター・フィギュアが特によく売れると笑顔で語る彼は、日本の同人誌即売会にもしょっちゅう顔を出す、筋金入りのオタク。今でも年に2回は来日するという。さすが、商品を見る目は確かなようだ。 ダニー・フェルナンデス氏(29)は、今年、アニメプラスという店をニューヨーク近郊にオープンした。85年に米国でテレビ放映された「ロボテック(邦題「超時空要塞マクロス」)」の大ファンになったのがきっかけで、オタクの道に入る。アニメ系のイベント「アニメエキスポ」で、アマチュアとして出店し、大儲け。それまで眼鏡工場の工員だったのを辞めて、即お店を開店。最初は赤字覚悟だったが、たった半年間で6〜7万ドル売り上げ、自分の収入も工員だった頃の3倍になった。もうすぐクリスマスなので、今年後半は20万ドルの売り上げも夢じゃないと顔を輝かす。なんといっても売れるのはアニメのCD。サントラ盤や、声優のイメージCDなどが中心とのこと。台湾製の無版権商品なので仕入値も安い。1枚10ドルで飛ぶように売れている。 いずれの場合も、好きだから商品の選択が的確で、だからよく売れる、売れるから楽しくてもっと好きになる、という良い循環ができているようだ。しかしサンノゼの老舗アニメショップ「二鶴(NIKAKU)」のアキオ・サワダ氏(35)はこう語る。 「今の若い奴等は、とにかく好きというだけでアニメショップを始める。しかも自分が食ってければいいという考えでダンピングしてくるから適わない。商売を知らないんですよ。おかげで市場は大荒れです」 また海賊商品の横行も問題だ。日本では二千円以上するアニメ音楽CD。それを仕入れて売っても、アメリカのファンの「1枚十ドル程度が値ごろ」という価格差がジャマをする。そこで国際著作権条約に加入していない台湾のメーカーが日本のCDの海賊版を作る。それを米国の業者が仕入れて1枚十ドル程度で売りさばく。ファンたちも「海賊版だ」と判っていても、その安さについ手を出してしまう。これは「高すぎる日本のCD」が原因だ、とディーラーたちは指摘した。 アニメショップ景気はしばらく続きそうだが、あと数年で確実に飽和状態がやってくる。そのときいかにして生き残るかが、今幸せの絶頂にいるオタクたちに用意された課題だろう。 日本のオタク文化がかくも強力であるのは、「マンガ」という強力なルーツを持っているからだ。三百ページ以上もあるマンガ雑誌が毎週何十種類と本屋に並び、二百円前後という安価で買える。専門店で二十ページ前後のコミックスを1冊1ドルで買わなければいけない米国とは雲泥の差である。日本はマンガ王国であり、誰もが小学生の時にマンガを模写した経験を持つ、という世界に希有な国なのだ。 「なぜ、日本ではこんなにマンガ産業が発達したのか?」 この質問を評論家のフレッド・ショット氏(46)にぶつけてみる。彼は最近『ドリームランド・ジャパン』というマンガ文化評論集を発表したところだ。この本の中でショット氏は日米双方のマンガと国民性に関して興味深い分析を発表し、注目を集めている。 「その問いは『なぜ米国では、こんなにマンガが盛んじゃないのか?』という疑問と対を成している」ショット氏は日米双方の特殊性という観点から、この問題を捉えていた。 「今の日本人はマンガしか読まないとよく批判される。が、アメリカ人だって活字の本なんか読まなくなっている。おまけにマンガも読まない。日本人の方がマンガの文字を読むだけずっとましだ。アメリカの教育学者がインターネットに注目するのも『テレビ番組やゲームと同じブラウン管に映っている文字なら、フツーのアメリカの子供も読む気になるかもしれない』という考えからだ」 ショット氏の研究は日本マンガのルーツにまで及んでいる。 「この前来日したときに江戸博物館で黄表紙本を見た。日本人は大昔から大人がマンガを読んでいたんだ。表現したいことを文字と絵の両方で表す、ということを日本人は昔からやってきている。マンガは本質的に日本人の心にフィットするんじゃないのだろうか」 ショット氏は、これに比べて貧弱な米国コミック状況を以下のように説明してくれた。実は、アメリカでも第二次世界大戦後、いろんなジャンル、いろんな層に向けたコミックスがいっぱい描かれていたのだ。少女向け恋愛ものもあれば、社会風刺もの、犯罪実録ものもあった。まるで、今の日本のマンガ状況と同じだったのだ。 ところがそのころ、少年の非行化が社会の大問題になった。非行といっても、バイクを乗り回したりナイフを振り回したり、今考えればかわいいものだ。原因も単純だ。ひとつは戦争から戻って暇をもてあます10代の若者が大量に街にあふれたこと。もう一つは、工業社界の発達で生活が急激に豊かになり、働かなくてもいい10代の若者が大量に街にあふれたこと。暇で元気いっぱいの若者達が、するべきこともなく野放しでは、ろくなことをやるはずもない。 が、PTAや教会では、これはきっと最近はやっている良くないコミックスの影響に違いないと決めつけた。上院でも、「マンガの影響について」の公聴会が開かれ、子供たちのコミックスを教会で燃やしたり、米国内が大パニックになった。 その結果、米国のコミックスはものすごく厳しい自主規制コードを作り上げた。まず、警察は絶対悪く描かない。教会へ行かないようなヒーローはダメ。教師を馬鹿にするようなヒーローもダメ。離婚や離婚家庭を肯定的に描かない。もちろん、セックスもバイオレンスも、そういう感覚を刺激する表現は禁止。 その結果、ストーリーは単純な勧善懲悪のスーパーヒーローもののみが残った。悪い奴をパンチでやっつけるだけ。主人公の性格を描こうとすると、人種問題だの家庭環境だのタブーが多すぎるので、性格設定を奥深くすることもできない。結局、なんの悩みも欠点もしがらみも魅力もないスーパーヒーローだけが出てくることになってしまったのだ。もちろん、コミックスは極端につまらなくなり、結果的に小さな子供しか読まなくなってしまった。この大規制を「トータルデザスター(総破壊)」と呼ぶ。このトータルデザスターのあと、アメリカのコミックス界は長い暗黒時代を迎えたのだ。 この暗黒時代を破ったのが80年代後半の、日本マンガブーム。フルカラーしか売れない、というコミックス業界の常識に反してモノトーンの日本マンガが売れに売れた。日本のマンガには、アメコミではもう見られない「セックスとバイオレンス」がふんだんに入っている。しかしそれは決してあからさまな形ではなく、登場人物の心理描写であったり、暗喩的表現であったりする。そんなマンガ群は米国人にとって相当、新鮮に受けとめられた。 この日本マンガブームの仕掛人、と言われているのがトーレン・スミス氏(36)だ。日本の出版社がどこも米国でマンガを出版しよう、と考えなかった時代に単身来日し、「風の谷のナウシカ」「うる星やつら」等のマンガ出版のために尽力した。そのような彼の努力によって米国の出版社も日本マンガの実力を認めたのだ。 米国市場における日本マンガの最新事情を直接聞こうと、スミス氏のサンフランシスコの自宅を訪ねた。 「マンガ」を英語にした男。それがトーレン・スミス氏の呼び名だ。スミス氏は現在、日本マンガの翻訳出版エージェンシー「スタジオ・プロテウスを経営している。 この5年間、米国のコミック業界は逆風の連続だった。92年に投機目的でコミックスを買い占めるブームが起きた。一時的に市場は過熱したが、94年にこの「コミックス・バブル」は崩壊する。ほとんど同時にアメリカ出版産業全体を襲った用紙代の高騰は、出版経費を倍近く押し上げた。これらが原因で、現在米国のコミック市場は5年前と比べて半分以下になったといわれている。 しかしその逆風の中で、日本マンガだけは売り上げを5倍近くに上げてきた。毎年新規参入する出版社は後を絶たず、スタジオ・プロテウスだけでも、この5年間の成長率は300%。 「日本のアニメのヒットがマンガ普及の後押しをしてくれている。その実績を業界大手の取次も認めざるを得なくなって、マンガの流通がやりやすくなったのも原因だね」 この業界では伝説的な人物となっているスミス氏には、取材中もひっきりなしに出版社やクリエイターから進路相談の電話が入る。 スミス氏に、これからのマンガ市場について聞いてみる。 「十年前は、米国で日本のマンガを売るなんて不可能、と言われたよ。アメリカ人は大衆文化に関しては恐ろしく保守的だ。アメリカ製以外のモノを受け入れさせるのは、大変難しい」 「最初、日本の出版社は米国でマンガを出す、ということに夢を持ちすぎた。人口は2倍でも、マンガ人口は日本が遥かに多いのだ。もっとゆっくりと市場を育ててゆかなければ」 現在のスミス氏の課題は、出版取次ルートの安定だ。日本マンガはインディペンデント系のコミック専門流通会社キャピタル社によって、その50%近くが流通されていた。しかしこの7月、最大手ダイヤモンド社が、キャピタル社を買収したのだ。これにより、ダイヤモンド社は事実上のコミック流通寡占企業になった。 この買収劇で、日本マンガなどのインディペンデント系コミックにどのような影響が出るのか、誰も分かりはしない。コミック界の巨人・マーベル社はいち早く自前の流通会社を買収したが、このところのコミック不振でマーベル自身の身売り話も囁かれている。相手はあのメディア王ルパート・マードック氏だ。 米国マンガ出版大手のダークホース社も、自社流通を考えつつあるという。同様の考え方をする出版社も増えるだろう。その中から、他の出版社のマンガも取り扱う出版兼流通会社が現れるかもしれないし、別の流通が手を出してくるかもしれない。今、米国マンガ業界は、アメコミ業界から独立して下克上の戦国時代を迎えた。この2年間は目が離せないだろう。 新しいアメリカン(オタク)・ドリームは、アニメショップやマンガ出版だけではない。セントラル・パーク・メディア社は日本製ビデオアニメを米国で翻訳・配給する会社だ。営業取締役マイク・パスクージ氏は「この6年間で我が社の年間売り上げは70万ドルから1000万ドルへと成長した」と胸を張る。パスクージ氏が共同経営者とたった二人で始めた会社も、今や常勤50人以上を抱える大所帯だ。 「セーラームーンやドラゴンボールの成功で、ますます仕事がやりやすくなった。今やアニメはマニアだけのモノではない。アメリカの一般大衆に受け入れられているのだ」 全米最大のアニメコンベンション「アニメEXPO」、その主宰団体であるS.P.J.A.代表のマイク・タツカワ氏(27)も米国アニメ市場の成長を語ってくれた。 「ロサンゼルスのアナハイムで開催しているアニメEXPOは今年で5回目、動員は三千人を越えた。しかも年々、参加者の層が広がっている。日本の高度なアニメを知ってしまった今、アメリカ人はもはや、ディズニーでは満足できない。日本アニメの持つ新しいセクシャルな表現やアクションは誰にも真似が出来ない」 バンダイ・アメリカその他の米国メディア産業から、タツカワ氏へ「アメリカで日本アニメを作れないか?」というオファーが相次いでいるという。アメリカで日本アニメを、とはおかしな言葉だが「ディズニー風のいわゆるアニメーションではなく、もっとシャープでかっこいい日本風のアニメを」という要求は我々日本人の想像以上に多いのだ。 「この5年以内に、どこかが確実に日本風アニメを作り出すだろう」とタツカワ氏は語る。それが始まったとき、現在の比ではない「オタクブーム」がアメリカを、世界を席巻するだろう。 しかしその時、そんなオタク文化の中心は果たしてまだ日本であるという保証はどこにもない。 国家を挙げてコンテンツ産業の育成に乗り出した韓国は、「マンガとアニメ」をターゲットに入れたようだ。昨年、少年ジャンプの翻訳出版を始めたタイでは、その記者会見に通産大臣自らが出席した。アジア諸国はかつての「日本の電気、自動車産業に追いつけ」という目標を、修正しつつあるのだ。 フランスやスペインでは「日本製アニメはデジタルで人の心を奪う」という批判の嵐が吹いている。文化先進国であった筈のヨーロッパの地位を、日本の子供文化に奪われようとしている。そんな焦りが彼らに「日本アニメはデジタルだ」という根拠のない噂を信じさせているのだ。イタリアではもう10年以上も前から「イタリア人監督による日本アニメ」の製作が進んでいる。 このような状況の中でも、日本の政治家・官僚で「オタク文化」の重要性に気付いている人間は全くいない。かつて日本人は浮世絵を愛しながらもそれを文化として評価できなかった。その結果、それら文化資産は大量に海外に流出してしまった。いま再び、日本は過去に学ばないまま同じ過ちを繰り返そうとしているのかも知れない。 |