アメリカでは、日本の漫画が受けないという、結構売れてるんですけれども、アメリ カの出版業界の中では、売れないという定説がありまして。これは何かというと「北 斗の拳」「うる星やつら」というのは記録的敗北をしたんですね。集英社のすべてを かけてというか、まあ、小学館ビズという会社がやったんですけれども。
あの、集英社という会社が小学館系というのはご存知、、、大丈夫ですね。講談社が、音羽系で、小学館が、一ツ橋系と言われているんですけれども。小学館が、親会社で集英社が子 会社というわけではないですけども、小学館系の会社なんです。
これ両方とも小学館 ビズから出たんですけれども。「北斗の拳」というのをですね、日本のアニメがブー ムになっている、アメリカでもこれからいよいよ日本の漫画の時代だ!ということで 小学館ビズがものすごい宣伝費を投じて「北斗の拳」をアメリカに出版したんですけ れども、何か二千部とか三千部しか売れなかったんです。で「うる星やつら」という のは、先ほど言ったように、「きまぐれオレンジロード」とか「電影少女」とか受け てるから、受けるはずだと思ったらしいんですけれども、アメリカのいわゆるアメコ ミファンの間でしか宣伝されなくて、いっぺんに二十万部ぐらい刷ったのかな、これ もね五千部とか六千部とかしか売れなくて敗北しちゃって、今、日本の大手出版社と いうのはアメリカというのは、鬼門になっちゃってるんですね。ヨーロッパとか東南 アジアとかはそこそこ数が出るんでいいんだけれども、アメリカっていうのはね、ま あ、あんまりだめなんじゃないのかと言われている。ひとつはね、アメリカ人という のは、大衆文化に対して保守的なんですよね。
例えば、日本というのは翻訳天国でして、どんな国のものも、大体翻訳で読めるんですけれども、アメリカへ行くと、特に
大衆もの、大衆文化に関して、翻訳というのはほとんどないです。で、映画館行って
も、字幕なんてのはないですから。よその国の映画をするなんていうことが、まずア
メリカではほぼありえないですし、よその国の映画を無理矢理するときも、字幕では
なくて吹き替えになっちゃうんですね。だからレオンとかそういうフランス映画、あ
の、トンヌフの恋人とかを、まあ、あんまりしないですけれど、ハリウッドで上映す
る場合も、吹き替えにやっちゃうわけです。そういう風にしてアメリカ化しないと、
アメリカナイズしないと、割とね、受けないとは言わないですけれども、たいへん、
なかなか受け入れてくれない、結構保守的な面があります。
翻訳も、結構ね、アレルギーと言ってもいいです。その意味では、アメリカだけがと言うより、日本が特殊なんです。こんなに翻訳物が盛んな国というのが、世界中ちょっとめずらしいぐらいなんで。
でアメコミでそういうふうな失敗しちゃったと。もともと、アメコミというの は、一冊オールカラー、隅から隅まで全部カラーなんですよ。見たことある人多いで しょうけれど。32ページぐらいです。値段がそれで、32ページオールカラーで、 1ドル前後。ほぼ物価指数が、日本のまあ1.5倍ぐらい下いってるから、日本で言 うと70円ぐらいの感覚ですか。70円か80円ぐらいでオールカラーの32ページ の漫画が読めると。それが、毎月大体、マーベル、TCというメジャー系の出版社か ら、それぞれ100種類ずつ出ます。それぞれってことはないかな、両方合わせて百 何十種類か出て、それをコミックスタンドとか、あと、漫画の専門店とかで買うのが 一般的な、アメリカの漫画ファンの、漫画の消費の仕方ですね。普通の本屋さんで、 あんまり売ってないんですよ。
おまけに、製作システムも完全に分業化しています。一番最初にストーリーを書く、シナリオを書くライターですね。次にペンシラーと言 って、鉛筆で漫画の全体を描く人というのがあります。その次に、インカーというの が、それにペン入れをしていくわけですね。鉛筆で線を入れた後に、ペンできれいに クリーンナップしていくと。で、大体あちらでコミックブックアーティスト、漫画家 として尊敬されるのは、このペンシラーとインカーまでなんですね。ライターってい うのは、まあ脚本家ですし、そこから先は、単なる流れ作業の一貫として見られる。 コミックブックアーティストというのは、ペンシラー、まあ、ペンシラーと、この頃 マニアックな人は、インカーも自分でやるんですけれども、ペンシラーとインカーと いうのが漫画家というやつです。その次にカラーリストっていう、直接色を塗る場合 と、あとこの色に指定するという指定製版の場合とありますけれど、カラーリストと いう色を塗る人。最後にレタラーという、サウンドエフェクト、さっきのあの擬音み たいなものをかいたり、あと、吹き出しの中に、アメリカの漫画というのは、全部コ マの中の字が手書きですので、手でこう、ぐりぐりぐりぐりっと書く、という人がい ます。こういう風に、完全に分業していて、32ページカラーで、1ドルという形式 が出来ちゃってるわけですね。
で、これ、専門のコミックブックストアで、大体一種 類につき最低で五万部ぐらいから、大ヒットするスパイダーマンとかバットマンの新 作だったら、一気に100万部とか150万部、一週間で売り出しちゃうわけです。 これがアメリカの漫画文化ですね。
ところが、日本の漫画というのは、そのアメリカで発売する時に、やっぱり32ペー ジで売るわけですよ。だから、結構きつい商売ですよね。日本みたいに、200ペー ジか300ページの分厚い、少年ジャンプみたいなものを、日本でだいたい200円 で売ってますよね。つまり向こうの現地価格で言うと、ほぼ1ドル50セントぐらい の感覚で200ページっていうのが、日本人の漫画の値ごろ感なんですよ。この値段 があるから、日本では漫画はそんなに盛んなんですけど。ところが海外に持っていく とどうなるか、アメリカに持っていくとどうなるかと言うと、白黒で32ページで、 2ドルになっちゃいます。 比較しますね。
(板書)
| アメコミ | 32P | 全カラー | 1ドル |
| 翻訳の日本の漫画 | 32P | モノクロ | 2ドル |
| 少年ジャンプ(日本) | 300P | モノクロ | 1ドル50セント |
アメコミの場合、大体32P全カラーで1ドル。これが、翻訳の日本の漫画という場 合、同じ32Pでモノクロで2ドル。日本でやっている週間漫画の場合、300Pで 1ドル50セント。だからね、もう文化として全く違うんですね。
慶応大学の海法さんいらっしゃいますか?
「はい」
ほぼこんなかんじですよね?
「ここ数年アメコミの値段があがってまして今1ドル50から2ドルぐらいです」
あそういうふうになってます? ああ、やはり先人には聞いておくべきだった。よかったよかった。慶応でしたよね?
「あ、一応」
あの慶応大学の海法さんとおっしゃって、今、書店なんかに売っているエックスメ
ンというアメコミの翻訳があるんですけれども、それの翻訳をされてるという、現役
の学生でありながら翻訳をしているんですけれども。きっともうすぐ現役の学生では
なくなるんですよね?(笑)卒業という手段を経ずして(笑)やなはなし(笑)
何で上がっちゃったんですか?
「あの紙の値段がむちゃくちゃ上がったんで、それに合わせて上げたというのが、公
式回答らしいです」
あのマーベルの新社長のなんかすっげー商売人いますよね?あいつのせいじゃないん
ですか?
「それもあるかもしれません」(笑)
今、日本の漫画、これちょっと古い資料を見たんでね、今、アップルシードとかそこ
ら辺のやつが、2.5ドルぐらいになってるんですよ。とにかくその、全然違います
よね。だから本来、日本で漫画がさかんというのは、このような、質と量でいうと、
量の文化ですね。分量の文化に支えられて、こんなものが毎週毎週大量に読めると。
ところが片一方、こちら側は、毎月毎月100点というと多く聞こえるんですけれど
も。32ページしかない短編漫画が、月に100種類しか出ないということですよね。
で、この形式で売られたら、日本の漫画だって、なかなか勝負できません。
例えば、えーとね、うーん、何がいいかなあ。「いいひと」という漫画があります。 (笑)「いいひと」が毎月32ページで、1冊200円とか250円で売られたら、 買うかというと、ちょっと買う人あんまりいないですよね。日本でもよっぽど「いい ひと」ファンでなければ、買わなくなっちゃいます。まだ「いいひと」はいいですよ。 そういうファンがついてるから。
これがね、何だろうな、こっから先、悪口になっち ゃいますよねー。あれだったらという風な具体的な例は、すべて悪口、、、まあ、 そこそこしかヒットしてないような、工業高校お〜あいっか〜バレーボールとか、ヤ ンマガでですね、あるのかないのかわかんないような連載ってありますよね。そうい う風なものだったら、こんな値段でやるはずないんですよ。だから、スペインで漫画 がなかなか根づきにくいとか、よその国で根づきにくいとか言うのは、実はこの値段 の問題というのがすごく大きいんです。
日本というのはこれを常識にしていて、コミ ックブックの場合も初版だいたい100万部とか50万部は単位にして考えてるから、 すごい印刷費やすいわけですよね。だから、その日本で150ページぐらいのコミッ クブックの単行本というのが、500円で売れると。それじゃあ、アメリカで5ドル で売ったら売れるんじゃないかというと、向こうの人間にしてみたら、オールカラー で、5ドルあれば5冊買えるんじゃないかとか、4冊買えるんじゃないか、という風 に考えちゃうわけですね。だから、日本の漫画なかなか伸びにくいという事情があり ます。
このやりかたで、小学館ビズが、これまでに「うる星やつら」と「北斗の拳」 以外で失敗したの何だっけ。何か渋い作品ばっかりだして失敗して。「覇王」何でこ んなの出すんだと。「コブラ」なんかね、わかりますね。アメリカで当たりそうな感 じがみんなするんですよ。もうひとつの3大失敗作と言われているのが「ナウシカ」。 この3つが、出版したけど、それぞれの思惑ほどは売れなかったと。「ナウシカ」は 最終的には豪華本が3000冊売れたんですよ。アメリカの漫画界で、豪華本、表紙 がハードカバーのものが、3000冊売れるというのは、ちょっとした事件で、結構 大ヒットとしていいんですけども、こんなものを日本で売ってた時には、日本だった ら1冊につき60万とか70万部売れてる漫画ですから、「アメリカで3000部売 れた」と言って、小学館ビズの担当役員が、徳間書店に報告したら、徳間 社長は、 「ばかか」と言ったそうですから。(笑)それぐらい意味がないんですよ。これが、 アメリカでなかなか漫画が伸びにくい現状であります。