翻訳出版のプロセス(アメリカ)


では、日本の漫画をアメリカで出す時の、翻訳出版のプロセスというのを説明します。 本当にあれですね、こういう風な仕事をやらない限り、割としょうがない知識かもわ かんないですけど、プレプロダクション、ポストプロダクション、プロダクション、 つまり作業、制作作業の前と後、3つの行程にわかれます。
プレプロダクション
プレプロダクションは、まず漫画を探す。アメリカで売れそうな漫画を探す、だいたい日本に来て、まんがの 森に行くんですよ。まんがの森とまんだらけに行って探す。(笑)ほんとですよ本当 に行くんですよ。まあ高岡とかいろんなとこ行って探すわけですね。

その漫画を、航 空便でアメリカ側の出版社に見せるわけです。大体航空便にするときもありますけど、 3ヶ月に1回ぐらい、大量に漫画を買い込んで、アメリカ側の出版社に、ダークホー スとかイプリクスという会社が日本の漫画を出しているんで、そこへ持って行って、 「どうですか」という風な形で、口八丁手八丁で売り込むわけですね。「すごく売れ ますよ」「園田健一という漫画家は日本でも人気が爆発していて」とか「真鍋譲二と いう人は、日本ではマニアはみんな神様のように」とかですね、大嘘をかますわけで すね。(笑)

それで、プロポーザルの制作。プロポーザルというのは契約書の元にな る申込書みたいなものです。日本の出版社とアメリカの出版社と、あとアメリカのデ ィストリビューターと(本の配給をしているところ)3社に対するプロポーザルをと いうのを作ると。で、日本に対して何部最低保証します、で、何円何月何日にお支払 いします。出版社に対しては、翻訳作業何月何日までに完了して入庫いたします とかです。ディストリビューター、配給社に関しては、何万冊の本何千冊の本という のを、何月何日までに納品して、その時にはこれぐらいの広告というのをあらかじめ しますという風なものを書く、これがプロポーザルという。プロポーザルというのを 作る。

で契約。ほぼ、こんなの書いていいのかな、実売数X定価の6〜8%ですね。 日本だったら、漫画の出版というのは10%でほぼ決まっているんですけども。アメ リカの場合は、それよりやや少なくなっていまして、これが通例の数字です。6〜8 %で、作家の力が強くなってくると、アメコミなんかでもマーベルなんかの一流作家 クラスになると、これが逆に上がっていって10とか14ぐらいになるという話も聞 いたんですが、今はまだそんなにいいのかな。

これ恐ろしいのは、実売です。日本は 実売じゃないです、日本は刷部数です。ビーバップハイスクールだったら、ビーバッ プハイスクールの一番最初に刷った数が、170万部なのかな。176万部か。ドラ ゴンボールが233万部、という部数分を払ってくれるんですが、アメリカでは刷っ た後、実際に売れた数しか払ってくれないんですね。つまり売れなくて、メーカーに 戻ってきた数というのは払ってくれないわけです。そのために、発売してから6ヶ月 後ぐらいに、どれぐらい売れたかという報告書を出して、その売れた数、何千何百何 十何冊というきれいな数を出して、それ掛ける、定価2ドルの6〜8%日本側に支払 う。大体ほぼ、その、アウトランダーズっていう真鍋譲二の漫画が、アメリカで結構 大ヒットしたんですよ。その大ヒットした時に、月あたり真鍋くんに入ってきたお金 が50万円程度っていうからね。やっぱり、アメリカの漫画ではそんなにね、日本の 漫画でまだ儲かるところまで行ってないですね。

プロダクション
次、プロダクションです。プロダクションは、まず一番最初にやるのは、原画の紙焼 き入手です。原画というのは、漫画の原稿ですね。漫画原稿というのは、スクリーン トーンが貼ってあって、上にホワイトが塗ってあったり、鉛筆で修正してあったり、 大変扱いにくいんですね。垂直にして運んだら、スクリーントーンがパラパラはがれ たり、ホワイトが、どんどんどんどん色落ちしたりする、すごい危険なものなんです。 それを写真製版しまして、原寸大でプリントすると。これを紙焼きといいます。紙焼 きを入手するところから、プロダクションは始まります。

次にこれを左右反転。アメリカの漫画は、当然のことながら左開きです。日本の漫画 っていうのは、これ攻殻機動隊ですが、日本の漫画はこういう風に、開きますよね。 こちら側が表紙で、バラバラバラと。これが、恐ろしいことにアメリカ版の攻殻機動 隊です。こう開きますね。こういう風になっています。後でちょっと拡大して見せま す。で、反転っていうのはどういうふうな意味かと言いますと、これ一辺にするとわ かりますけど、表紙が反転しています。わかりますか。こっち日本版、こっちアメリ カ版、左右逆ですよね。で、表紙だったら、本当は関係ないですけど、全体のトーン を統一するために、もう表紙まで反転してるんですけど。日本の漫画と読む進行方向 が逆なので、絵を全部、裏返さなきゃいけません。この結果ですね、自分のデッサン に自信がない作家はね、絶対アメリカで出版しないです。これに関して大笑いして、 「あっはは。僕の漫画はアメリカで出してもいいよ」と言ったのは、デッサンに自信 のある大友克洋でですね、未だにアメリカで1冊も本を出していないのが、あ〜なん かあれですね。あの、ファイブスターの永野くん(爆笑)。もう、大体自分の絵をど う考がえているのか、正直にわかっていいですよね。

で、次に、吹き出し書き文字を消去。これ、ややこしい作業なんですよ。漫画の中に あるエフェクトとか、あの、サウンドエフェクトの「ドバッ」とか「ガッ」っていう のは、大体、字の上に乗っかっちゃってるんですね。背景の絵の上に、乗っかるよう に書いてしまっているのが多いんです。その周りを修正する、これにかなり時間がか かります。

で、ようやっと翻訳ですね。吹き出しの中の文字とか、サウンドエフェクト類の翻訳 をすると。で、レタラー、レタリングをする人が修正を入れていくと。例えば、サウ ンドエフェクトを書き加えていったり、吹き出しの中に英語を翻訳したものを書き加 えていく。ここまででプロダクションは終了です。

ポストプロダクション
次に、ポストプロダクション。まず、プレスキットの作成ですね。これはメーカーだ けでなくて、ディストリビューター、あとアメリカ全土のコミックブックストアに置 くチラシ、パンフレットとか、ポスターというのを、あらかじめ作らなければなりま せん。何でかと言うと、出版数確定というのは、この後なんですよ。つまり、どんな 漫画が出てくるのがわかって、それの宣伝用素材を作らないと、コミックブックスト アというのは、数入れてくれないんですね。じゃあ、うちは40冊買いましょう、う ちは10冊買いましょう、うちは100冊買いましょう、というのがアメリカ中の小 売店から、全部の数字になって、ディストリビュータ、配給元に届いて、最終的に、 6000オーダー、1万のオーダーというのが決まるわけです。プレスキットの出来 次第で、出版数というのは決まってしまうわけです。プレスキットを作ると。

次に、ディストリビューターへ告知すると。「はいこれ何月何日に出ます。まいてく ださい」「この漫画は結構日本で売れています」とかですね、例えば「この作品は、 ナウシカの宮崎駿さんが、昔やった名探偵ホームズというやつを漫画にしたやつです」 とか、いろんなね、売りを作って宣伝するわけですね。で、ようやっと出版数がここ で確定すると。日本の邦物の場合、6000〜12000ぐらいと言われています。 で出版。

こういう風なプレプロダクション、プロダクション、ポストプロダクション、 という3つの部門に分かれています。結構大変ですよ。作業として。
で、実例を。
(映像)
これが、海外版の攻殻機動隊ですね、この辺がわかりやすいですね。
(映像)
これが、カラーだから特に苦労しているんですけれども、向こう版の書き文字ですね。 このWAAAANというやつが、日本版だとどうなっているかというと。
(映像)
こうなっているわけですね。つまり、この状態であちら側には納品されちゃうわけで すよ。これのカラーの紙焼きの状態で、向こうの出版社側に来て、これを翻訳出版し なさいと言われるわけですよ。で、向こうのレタラーの人が何をするかというと、ま ず、このドドドドドという字を消すわけですよね。次に、この上のコマのところ黒く こんなところに伸びてるやつとか、全部消して一度きれいな絵に仕上げるんですよ。 でその上で、こういう風にするわけですね。
(映像)
だから、このあんまり上の部分が、はみでてない絵になっているのはですね。前の絵 で、一度やっちゃってるから、あまりそういう複雑な作業が出来ないわけです。この 部分も同じですね。この部分の原点の方を出してみます。
(映像)
こういう風になっているわけですね。現物の方は、カラートーンか何かを切り張りし た、大変透明感のあるやつに、なっているんですけども。それをレタッチすると、も うとてもそんなことする余裕がなくて、ちょっと透明感のある水彩絵の具で直接塗り 潰してしまっています。まだこの、士郎正宗さんの場合は、こういうところに書く擬 音を、少し英語で書いてくれるから、ましなんですよ。普通の漫画家の場合は、これ も全部日本語なんで、やりなおさなきゃいけないんですね。
(映像)
何かこのシーンなんか相当辛らそうですね。これ実際こうなっているわけですよ。こ の「ゴバッ」と書いてあって、血しぶきの上とかに、字が回り込んじゃってます。で、 横の兄ちゃんが「うわっ」と言っているのを翻訳すると、左右反転なんで、兄ちゃん がこちら側になって、何か、ホリッシューとか何か、変な言葉を叫んでいますね。ブ ームフーとか書いてですね。ブームフーの前にKがついてるな。

僕きいたんですけど、向こうのコミックライターの場合、擬音って全部自分で、オリ ジナルで作るんでしたっけ。えーと、かいほさん。
「あ〜人それぞれだと思います」
あの、パターンがあんまりなくて、ひとりひとり、一人前のちゃんとしたコミックラ イターたるもの、自分で擬音のパターンを作ると。だから、鉄砲撃つときもバキュン バキュンとかズキュンとか、書くんじゃなくて、ひとりひとり音が割と違うのが、一 流のライターであるときいたんですけど本当ですか。
「確かに同じ音というのは、ほとんど見かけません」
あ、そうですか。だから、これの人達も一応苦労してて、ブームフーの前にちょっと Kをつけたり、この弾が小さく当たる部分、ピシュピシュピシュとか、こう、弾が当 たる部分を、こういう風に、何だこれ、ブミッフブミッフかな。(笑)スニッフとか、 なんかそういう風なのを作っています。で、これのおかげで、翻訳結構大変なんです よね。で、向こうの出版社の人が言うのは「日本の漫画家は、出来れば絵だけを紙に かいて、セリフとかそういうものは、上にセルか何か乗せて、その上に書いてくれ」 という風に言うんですけれども、今の日本の漫画というのは、そういう余分な手間を かけずに、とにかく速く作るという量産体制で、今のペースと値段を保っているわけ で、まあ、海外のたかが6000や10000の出版のために、そこまでの手間がか けられないので、まあ、そこら辺のことは「向こうのレタラーの人が泣く」というこ とになっています。で、この攻殻機動隊と、アップルシードという漫画が、今アメリ カの、日本の漫画を出版する中で「2大手間がかかる本」と言われてですね(爆笑) 大体ほぼ日本の2年遅れて出版されるわけですけれども、2年間というのは延々この 作業なんです。スクリーントーンも売ってないんですよ、アメリカだから。スクリー ントーン売ってないところで、スクリーントーンの上に乗っている絵を消していって、 スクリーントーンと同じドットの目に、ペンでこう点々点々点と打ったりするわけで すよ(笑)で、トーンが手に入る場合は、それ使えるんですけれども、下手に、違う トーン貼っちゃった場合、モアレ干渉というか、違う模様だからちょっと、干渉じわ みたいなのが起きてしまって、よくないので、「だったらもう手で打っちまえ」とい うことで、とんとんとんとんとんと、打ったりして2年ぐらいかかると。

で、それに対して、日本でそんなことをしてあげられないのは、何でかというとね。 日本の漫画というのは、恐ろしい体制で出来ていましてですね。例えばこう、みんな ね、テレビとか、雑誌なんかで漫画を見ているとね、漫画の原稿というのをね、

(板書)
こういうもんだと思っているんですよ。紙に書いてる、でここにコマ割がして、と。 こういう風なものは、最終的に確かに印刷屋に入る時はこうなんです。で、一番最初 に、漫画家の先生の手元にある時も、こうなんですけれども。忙しい作家になってく ると、こう、コマ割りますよね、で、先生がペン入れしますよね。この瞬間、カッタ ーで切るんです、ばああーっと、バシッと切るわけですね。で、これを、それぞれの アシスタントにわけるわけです(笑)で、一斉に、ペン入れするわけですね。で、墨 塗るわけですね。で、これを、まあ大体、仕事場にこんな蛍光燈があってですね。蛍 光燈のところにセロテープで、まあメンディングテープで、ばあっと、こうやって、 貼って、で、2000Wぐらいのアメリカ製のドライヤーで、ぐわぁぁぁーっと乾か すわけです。で、終わった後で、再度これを裏側から、ガムテープでバキバキ貼るわ けです(笑)

で、漫画の原画展というのが、案外開かれないのは、これがばれちゃうからですよ(爆笑)漫画の原画展に出す原画っていうのはね、こういうのがないやつばっかりなんですけども、あの、大体ね、数かいてる漫画家って、ほぼ全員これやってますね。浦沢直樹も確かやってたし。有名なのがね、国友やすひろっていう人が、 これの天才ですね。とにかくあの人の仕事場行くとね、パズルが置いてあるんですよ。 (笑)この無限に小さくなったやつが、いくつも置いてあって、アシスタントのチー フの人が、裏返してどんどん貼っていくと間違いがないと。

こんなこと出来るんだっ たらね、俺、新作漫画かかずに、今までのやつ組み合わせてやりゃあいいじゃないか と(爆笑)なんかね、一時期漫画家の人に「漫画界はこれがあるんですよ」と自慢さ れたことがあってですね。俺も、思わずその時に、「いやいや、サンライズはこれで 一本アニメ作ったことがありますよ」(爆笑)何か今までの、何かこう、アニメーシ ョンの、バンクとか呼ばれるやつを組み合わせて、アニメーション一本作ったという のは、アニメ界ではよくある話なんでですね。ナディアでもやったよな(笑)エヴァ でもやったよな(爆笑)必ずね、スケジュールが混んでくるとやるのです。

で、こんな状態の、継ぎ接ぎのものをもらってもしょうがないので、これをフィルム製版して 紙に焼いたものを、アメリカの人は、もらって、これを左右逆転して、ここらへんに、 ズガガと書いてるのを、これをきれいに消しとって、でなんだっけ、クブームだっけ。 この部分に2年かかっちゃうんですよね。で、これ何とかしてくれと言っても、何せ 日本はこれだから、やってる間がない、という風な状況であります。

えーと、漫画の方は、大体ざっと、そういう風なもんなんですけれども。


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