3.カリスマとは何かプロレス界には過去三人のカリスマがいた。「唸る空手チョップ」力道山、「燃える闘魂」アントニオ猪木、そして「格闘王」前田日明である。カリスマになるためには条件がある。まず元々自分がいたところでいぢめられ、で、それに耐えに耐えるんじゃなくて、すぐにぶち切れて飛び出し、んで新しいものを「お客さんど〜ですか」と差し出す。反体制しないといかんのである。一つのスポーツの枠組みに留まってたらカリスマにはなれんのである。プロレス・ファンから見たら、一生ジャイアンツの長嶋茂雄なんて、単なる甘ちゃん、保守本流じじいである。力道山は、三役までいきながら、部屋を追い出され廃業した。だからプロレスを作ったんである。猪木は、力道山に、ことあるごとに馬場さんと比較されてはいぢめられ、デビュー時のリングネームなんか「死神酋長」だった。力道山死後も、エースは結局、ジャイアント馬場。だから、新日を旗揚げし、異種格闘技戦を発明したのだ。で、前田が一番いぢめられたのは、UWFが新日に出戻った時だったというわけだ。 1986年に新日に来たUWFの連中は、とにかく、蹴った。もう、蹴って蹴って蹴りまくった。片や佐山教祖のもとでキックに血道を上げていたUWF、片や格闘技世界一もひと段落してキックとも空手ともおさらばしていた新日本。結果は見えてる。哀れ新日のレスラーは鼻血だらだらのサンドバックと化した。顰蹙である。「明日も試合あんのにど〜してくれる」である。中でも顰蹙だったのは当然前田だ。突然「誰がいっちゃん強いか決めたらええんや」とかいう。興行には段取りがあるのである。いきなり誰が強いか決まったら後に続かないんである。おまけに「猪木、勝負せい」とか、猪木が相手の急所蹴って勝ったら「猪木だったら何やってもええんか」とか言う。猪木は社長である。代表取締役でおまけにカリスマなんである。そおいう正直な発言はいただけない。まして、試合中でもないのに、猪木ご自慢の顎を蹴っとばしたりなんかしてはいけない。まるで猪木が弱いみたいぢゃないか。 ただ、顰蹙だからといっていきなり首にしたら、新日が、猪木が逃げたように思われる。かといってエース猪木とシングルなんてとんでもない。格というものがある。秩序というものがある。そんな横紙破りを誰が認めるものかぁ(決して猪木が弱いわけぢゃないぞ)。というわけで新日は一計を案じた。ホンマに強い奴にセメントやらせてリング上で前田を潰しちまえ、という計略である。第一の刺客はアンドレ・ザ・ジャイアント。身長2m23cm、体重230kg。一人民族大移動、「一人と数えちゃ間尺にあわない、大勢に数えちゃ人口統計の辻褄が合わない」世界の大巨人だ。当時マジでアンドレとやったら誰も生きてはマットを降りられないという風評だった。 前田と対峙したアンドレは、いきなり、潰しにでた。普段は、相手の技を受けるだけ受けて「利かないぜ、そんなの」ポーズをし、おもむろに相手を倒して尻を載せてピン・フォールを取るだけなのが、この時は、組み合った途端に230kgの体重で前田を押しつぶしに来たのである。ぐぅ。どうにか難を逃れた前田は、おかしいんちゃうんか、とコーナー・ポストのところにくる。リングの回りには新日の役員がいやな顔して集まっている。ポストの下では、UWFの藤原選手が、「セメントだ、いかなきゃ潰されるぞ」と叫んでいる。覚悟を決めた前田は、アンドレの膝の皿を正面から蹴る作戦にでた。まともに当たれば大怪我である。特にアンドレのように体重がある場合、再起不能になる危険性がある。アンドレの対応は大人だった。いきなりねっころがって「もう、おしまい」。近づいてきた前田に一言「It's none of my buisiness.」。新日とおまえの喧嘩だから、俺はこれ以上やらねぇよってわけだ。新日の思惑は外れ、せっかくテレビが入っていたのに、首都圏では放映されなかった。 こんなことで諦める新日ではない。第二の刺客は、アメリカのキックボクサー、ドン・中矢・ニールセン。お得意の異種格闘技戦ってわけだが、今度は些か趣が違う。ニールセン側には新日がせっせと前田の資料を渡し、対レスラー用の練習をさせるのに、前田には何の連絡もなし。こうやってお膳立てして、前田が自慢の打撃で負けたら、「それ見たことか」ちゅう作戦である。で、確かに前田は苦戦した。特にパンチでは殴られ放題。グローブ付けたことのないUWFの死角は顔面パンチだったわけだ。しかしその後がいけない。殴るニールセン、とっつかまえる前田。乱打戦の末、前田勝利。ニールセンが下手に対レスラー用の練習なんかしてたもんだから、異種格闘技戦なのに、すっごくかみ合った面白い試合になっちゃって、観客大盛り上がり。それでもって一夜明けたら前田は大ヒーロー。「格闘王」っていう称号が奉られていた。 うわぁ、もう、手の施しようがなぁい。 ここでやめりゃいいのに、新日は最終手段に出た。前田が顔面けっぽって相手レスラーを骨折させたのを「プロレス道にもとる」といちゃもん付けていきなり解雇したのである(ちなみにプロレスが道になったのはこの時が最初。もしかしたら最後かもしんない)。また、前田、野放しだ。しかも、テレビもろくろく付かず何の知名度もなかった前のUWFと、2年に渡って全国中継され、前田が格闘王になったUWFとは、レベルが違う。テレビがなくともビデオが売れるし、団体営業できなくともチケットぴあがある。時代も違うのだ。 それに、なにより、いまやUWFは「世界最強」なんである。 |
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