9.そして、最強とは何か。96年後半、世界最強を巡る動きは些か混沌として来た。まずグレーシーがちと揺らいで来ている。グレーシー一家自体は一応負けなしを続けているし、ヒクソンは、95年にヴァーリ・トゥード・ジャパンの二回目をやって以来、殆ど試合らしい試合もしていないので安泰だが、弟子筋が時々負け始めているのだ。特に、そもそものきっかけとなったアルティメット大会での勝率が悪い(今やアルティメット大会のヒーローは、グレーシーではなく、プロレスラーのダン・スバーンである)。まぁボロが出始めたということやね。「何でもあり」とかいうと最初はおぉとか思うけど、コツさえ掴めば単純な話になっちゃうからね。後はそれに向かって練習すればいいだけの話。みんな同じように練習すれば、体格に余り恵まれていないグレーシー一派はどんどん不利になってくる。 加えて、自称「グレーシーの天敵」、ブラジルのもう一つの何でもあり対応格闘技のルタ・リーブレが登場したのも混乱に輪をかけた。ルタの選手に言わせれば(ホントかどうかはしらんが)ヒクソンはルタの挑戦から逃げ回っているらしい。それに、何より、はたから見てると、ルタもグレーシーも区別がようつかん。まっ、一応ルタはアマレス系なんだけどね。ヴァーリやる時はグレーシーと同じ戦法とったりするからね。 UWF系はしょぼしょぼである。前田日明率いるリングスは何年か前に世界最強っていうスローガンをやめてしまった。そういったロマンはおいといて、一スポーツ・ジャンルとしてオリンピック競技化を目指すというのが今のリングスの方針である。でも、前田自身は昔の虫がうずくらしく、「グレーシーなんて、ほんま、害虫やで。あんなやつら潰しとかなぁはじまらんで」と言っては、配下の選手にちょっかいかけさせ、返り討ちにあっている。パンクラスも「グレーシーは邪魔だから倒します」とは言っているものの、金欠で動きがとれない(ホイスやヒクソンを引っぱり出すには、1億円近いギャラが必要というのがもっぱらの噂である)。佐山聡は、ヒクソンとコネつけて我が世の春かと思いきや、いつのまにか自分の作ったシューティングからおんでてしまい、世界最強どころか、いろんなプロレス団体でタイガーマスクの余興をやっては昔を覚えてくれているロートルファンの拍手を貰うというどさ回り状態。何があったんだ、佐山! インターは、というか安生様は、別の方向をお見つけになった。あんまり発言がめちゃくちゃすぎるので、強い弱い関係なく、悪質なプロレス・ファンの人気が大爆発しちゃったんである。200%Tシャツは売り切れる。ファンクラブには何千人と集まる。で、図にのって、やるわ、やるわ。後輩を引き連れて、あっちこっちのプロレス団体渡り歩いては金的蹴り。自分たちだけは金カップ(ボクシングとかでローブロー対策にあそこにつけるファールカップのことね)つけて急所蹴りに対応し、「ウィ・アー・ゴールデンカップスゥ」とか言ってポーズとったり。あるいは、東京プロレスというインディー団体が3億円かけて宝石ギラギラのベルト作ったと聞けば、宝石の鑑定士連れてベルト挑戦にいったり。で、ベルト奪取したかと思ったら、そのまま一時控え室から行方不明になって、団体役員青ざめさせたり、とかね。 傑作なのは、そこの団体のオーナーと仲良しになって、「社長決定マッチ」というのを企画。それまでそこで社長をやっていたレスラーをケチらし、見事新社長に就任しちまったことだ(日本プロレス史上有数のセメント・マッチとも言われている)。で、その晩、新地にマスコミを招いて、ホステスに抱きついたり、持ち上げてスカートの中見せたりの大祝賀会を敢行。ほいでもって今度は両国国技館で社長就任記念大会をやるんだそうな。ヒクソンとはもう仲良しになったみたいだし、幸せを掴んだのかなぁ。料理の鉄人にもちらっと出ていたしなぁ。社長の座に安閑とせず、是非とも今後もバカを続けていって欲しい。 とまぁ、安生様からも目を離せないんだが、実のところ今一番不気味なのは、参議院を落ちた猪木の動きだ。政治家は選挙落ちればタダの人っていうが、猪木の場合は全く逆。議員やってりゃただのペーペー政治家だが、落ちてしまえば相変わらずのカリスマ、燃える闘魂アントニオ猪木。着実に動き始めている。ただし、今度はレスラーとしてではなく、プロデューサーとして。既に96年9月23日には、新日の大会にルタ・リーブレの選手を呼び、ヴァーリ・トゥードもどきを実施。新日のレスラーがルタの選手をタコ殴りでたたきのめして、世界最強路線復活の片鱗を見せた(長州はすげぇいやがってるけどね)。年末には福岡ドームを押さえ、アルティメット大会で名を馳せたシャムロック他の格闘家や、ルタ・リーブレの強豪を揃えて大ヴァーリ・トゥード大会をやる予定。もち、新日のレスラーも出場。グレーシーの引っぱり出しにはまだ成功していないが、猪木のこと、きっとどうにかしてしまうだろう。(この大会は結局中止になった。理由は契約問題のこじれとも、あまりにチケットが売れなかったためとも言われている) というわけで世界最強のロマンは、猪木の復活というまたとないスパイスを得て、今後も膨らみ続けそうな気配なんである。ヒクソンは逃げ切れるか。前田日明は、再び、格闘技界を揺り動かせるのか。佐山の奇跡の復活はあるか。それともみ〜んな猪木の掌の上か。 どきどきわくわくのワンダーランドの行く末は、まだ、わからない。 |
| <前のページへ> |