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| ●喫茶店にお世話になった青春時代 常盤さんの喫茶店好きは有名だ。著書に『東京の小さな喫茶店』があるほどである。 「わびしい喫茶店が好きですね。いつまでもウエイトレスやバーテンが変わらないような店が落ち着きます。人の入れ替わりの激しいところはあまり好きじゃありません。若い頃、一番通ったのは渋谷のトップと高田馬場のユタでしょうね」 この両方の喫茶店ともに『遠いアメリカ』に登場する。 井の頭線の階段をおりてきて、露地をちょっとはいったところにあるトップは十二、三人もはいればいっぱいになる。ドリップ式でていねいにいれるコーヒーがおいしい喫茶店という評判で、重吉もここのコーヒーなら飲める。稽古場がある芝の大門から帰る椙枝を送っていくとき、重吉はたいていトップで待つことにしている。 ポロシャツを着ると、下駄をはいて出かける。高田馬場の駅まで五分もかからない。ゆうべ、椙枝を送っていくときに、食事をした駅の向い側のガード下にある巴鮨の前を通り、ユタに行く。重吉はこの喫茶店で毎朝少なくとも一時間はつぶす。五十円のモーニングサービスを注文し、ジャムつきのトーストをゆっくり食べ、ミルクコーヒーを飲みながら、まず報知新聞、日刊スポーツ、スポーツニッポンを丹念に読み、そのあとで朝日や読売、毎日、東京新聞に眼を通す。ユタには週刊誌もそろっているから、時間がたつのを忘れることができる。 『ちょっと町へ』というエッセイ集には常盤さんお気に入りの喫茶店や食べ物屋のことが描かれている。日本橋の「理文路」、総武線の亀戸と新小岩の間にある平井の「ワンモア」、飯田橋の「エリカ」などなど。どこも店主や奥さんが常盤さんをほっとさせる人たちなのだ。「町の中を歩くことが好きなんですね。昔は銀座が好きだったが、いまは平井や浦安のような町が好きですね。歩くことの大切さを教わったのはニューヨークかもしれません。ニューヨークではよく歩きました。だから東京でも歩くようになった。汽車やバスや自動車に乗っていると分からないようなことが、歩くと見えてくるんですよ」 |
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