first 「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
はじめに
 
 

 あらゆる文化の基礎は、地域の伝統文化にあり、われわれは伝統の先端にあって、その伝統文化を同時代性をもって創造していくことが、文化の創造である。来るべき「成熟した時代」の日本文化を支えるものがこの伝統文化であるのだが、今日適切な手が打たれぬまま、それらが失われようとしている。


 この文化に対する理解がこの調査研究の基本である。そしてこの状態に際して、何らかの手を打つことが求められ、その方策を模索したのがこの調査研究である。


 明治以降、西欧化によって、急速な経済的成長を遂げてきた日本人は、文化というと西欧文化を示し、文化的であることは都市化であり、東京を頂点として全国に著名なものが最も優れた文化であるような錯覚にとらわれていないであろうか。
 経済がある程度豊かになり、人々が生活の質、都市や地域の環境、自らのアイデンティティと創造性といったものを重視するようになった今日、文化の持つ意味は、かつての趣味、娯楽といった消費文化のなかでの文化ではなく、生活のなかの一部としてとらえられるようになってきた。
 しかし、いざ自らが依って立つべき文化が個人や地域にあるかというと、それはどうも怪しいものである。地域を築き上げてきた伝統ある歴史は、その地域の生活や社会、文化を創り上げてきたはずであるが、そのような伝統文化にわれわれはあまりに低い評価を与えていたのではなかろうか。それは過去の遺物であり、廃れていくものと考えていなかったであろうか。
 われわれは急速な経済発展のなかで、忘れてきたものが数多くある。それが今日再度確認を迫られているようである。文化だけでなく自然や環境問題などもそうである。
 伝統文化は、歴史のなかで常に同時代性ある文化として現在まで継承されてきたのである。それはそれぞれの地域の発展と成長とともにその形を創造的に変え、今日に継承されてきているのである。
 従って、この調査研究は東北の歴史的な文化遺産を調査研究したのではない。これは『伝統の先端にいる現在において生活している人が創造している文化』を調査研究したものであり、生活者の文化活動をみたものである。そしてこのような文化活動こそが、支援されていくべきものではないかと考えるものである。
 しかし、伝統文化は地域や生活と密着した文化であるが故に、その支援や振興の方法 も、いわゆるオーケストラや劇団といった舞台芸術活動と同一に扱うことはできない。 単なる資金助成は伝統文化には必ずしも良い効果を生むとは限らない。支援の方法も関 わり方も全く異なるのである。ところが、その方法論は文化庁においても、自治体にお いてもこれまで充分な検討がなされてきていない。そのような方法論から検討しなけれ ばならないほどに伝統文化は押しやられているのである。

 伝統文化における創造と発展、これがそれぞれの地域の個性ある文化の創造であり、地域の創造、活性化の源である。全国のなかでも比較的伝統文化が豊かに継承されている東北地方が、それらを同時代性ある活動として活性化していくことで、多様で豊かな社会を創りあげることが期待される。

 われわれがそのような地域社会を形成していく活動に対して、適切な形で協働していけるとすれば、それは非常に大きな意義を持つものであると考えるものである。

 最後に、本調査に快く御協力いただいた各地域の伝統民俗芸能の継承者の方々、ならびに各関係者の皆様に心より御礼を申し上げる。
 なお、この調査研究は、1992年度において、東北電力株式会社の援助をいただいて実施したものであり、ここに改めて深く感謝の意を表すものである。


1993年3月
ぴあ総合研究所


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