2honron1 「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
本論 伝統民俗文化の継承と支援
I 東北地方の伝統民族文化の継承の現状

1 伝統民俗文化の現状と東北地方

 民俗芸能は集団組織で伝承されるものである。その組織はほとんどの場合、ある特定の地域と密接に結びついている。そして成立基盤である地域と、そこから生まれた民俗芸能の伝承組織の構造は、ともに一般論では片付けられない様々な様相を呈している。 しかし、どのような民俗芸能でも、地域の社会的経済的活動から遊離して存在すること はできない点で一致している。
 今日では、民俗芸能が生まれ育まれた時代と比べ、成立基盤である地域社会そのもの が大きく変化してしまった。民俗芸能の宝庫と言われてきた東北地方でも状況は同じで ある。むしろ、世界的な大都市東京に交通網がダイレクトにつながるため、他の地域よ りさらにその変化が大きかったのではなかろうか。
 こうした変化のなか、「伝統的」民俗芸能と「新しい」地域社会との関わりかたにつ いて、実は、どこでも実験的模索をしている状況が続いているといえる。しかもお互い にその情報が流れないので、それぞれが独自にその努力がなされ、さまざまな方法を試 みることになった。
 一口に民俗芸能といっても、伝播の方法は様々ある。信仰に伴って広まりその土地に 定着したものもあれば、専業の芸能者から習ったものもある。また、藩主の移封のとも なって新しい土地にもたらされたものもある。さらに、その内容は多種多様である。東 北地方の代表的な民俗芸能のジャンルについて、概観すると以下のとおりである。

《山伏神楽》
山伏修験者が行っていた神楽。このジャンルでは次のような民俗芸能が有名である。
・山伏神楽   岩手県稗貫郡大迫(おおはざま)町の大償(おおつぐない)と同町
 岳(たけ)
・番楽    秋田県由利郡鳥海町、北秋田郡阿仁町根子(ねっこ)など
・ひやま    山形県飽海郡遊佐(ゆさ)町杉沢
・能舞     青森県下北郡東通(ひがしどおり)村
・霜月神楽   秋田県平鹿郡大森町保呂羽山
・法印神楽   宮城県石巻市を中心とする陸前地方
・岩戸神楽   福島県地方

《田植踊り》
東北地方独特の豊年予祝の芸能。
・田植踊り   宮城県名取郡秋保(あきう)町湯本・長袋・馬場
・えんぶり   青森県八戸市

《鹿踊り》
鹿の頭を付け、8から12頭ではげしく踊る。東北地方独特のもの。岩手県と宮城県に分 布する。
・鹿踊り  岩手県江差市

《獅子踊り》
獅子頭を付け踊るもの。「一人立ち」の三匹獅子と「二人立ち」の神楽系獅子舞がある。どちらも東北一帯で数多く伝承されている。

 《けんばい》
念仏踊りの一種で、岩手県と宮城県に分布する。
・大念仏    岩手県紫波郡都南村永井
・鬼けんばい  岩手県胆沢郡衣川村川西
・雛子けんばい 岩手県和賀郡和賀町藤根

《盆踊り》
東北地方一帯でおこなわれている。特に有名なものとして、次のようなものがある。
・盆踊り    秋田県雄勝郡羽後町西馬音内(にしもない)
・盆踊り    秋田県鹿角市十和田毛馬内(けまない)

 以上の民俗芸能は東北地方一帯で伝承され、その土地でそれぞれ変化に富んだ芸態を 持つようになった。それとは別に非常に限られた土地に根付いた芸能もある。
《延年(えんねん)》
・毛越寺延年  岩手県西磐井郡平泉町毛越寺
・白山祭延年 宮城県栗原郡金成町小迫
・大日堂祭堂  秋田県鹿角市八幡平字小豆沢

《黒川能》
山形県東田川郡櫛引町黒川のみ。

 民謡についてはさらに多様なものが各地にある。日本の民謡は、それが一様ではなく同でも多様なバリエーションがあることに特徴がある。
 例えば、民謡が各地にどのくらい存在するかを『全国民謡緊急調査』(文化庁補助による各都道府県教育委員会実施、昭和61年〜62年)によりみると、全国に現在確認される民謡は約58,000曲あるとされるが、そのうちの約20%の約11,000曲が東北6県と新潟に存在する。
 また、国による重要無形民俗文化財の指定件数(民俗文化財の定義『衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能及びこれに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のために欠くことのできないもの』とされている。)でみると全国での指定件数は145件であるが、東北6県及び新潟県で34件、約23%を占めている(平成元年現在)。
 同様に、都道府県の無形民俗文化財指定件数では約13%、市町村の無形民俗文化財指定件数では約23%となっている(平成元年現在)。
 東北地方は、豊かな自然と共に生きてきた歴史と、そこから築かれた伝統、それを継承してきた生活者の知恵と努力が多数存在するのである。この内発的なエネルギーである伝統民俗文化を創造的に発展させ、地域を文化活性することが望まれる。


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