honron2 「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
本論 伝統民俗文化の継承と支援
I 東北地方の伝統民族文化の継承の現状

2 伝統民俗文化を見る視点

 現在まで受け継がれてきた民俗芸能が「伝統」として存在し続けることができたのは、それが地域社会における共同体のコミュニケーション媒体としての中心的な位置を占め ていたためである。民俗芸能は地域社会に暮らす人々の日常的な生活の中から生成し、 発展してきた。すなわちそれは、東北地方をはじめとする農村社会においては、神仏に 対する奉納・祈念という重要な社会的・経済的活動として存在していたと同時に、地域 コミュニティの維持・形成のための中核的な役割をも果たしていたのである。
 しかし、近代化の進展と共に地域社会の形態は劇的な変化をなした。それに伴い、成立 基盤の変化による当然の帰結として、民俗芸能が持つ神事・儀礼といった従来の意味も 薄れていかざるを得なかった。今後もそうした芸能が後世へと継承されていくためには、現代の地域社会のあり方に適応した存在として成立しなければならない。そこに求められるのは新たなるコミュニケーションツールとしての役割を果たすことである。それが地域に暮らす人々に自らのコミュニティを再認識させる結果となる。その方向性としては次の2つが考えられよう。 ひとつは変容し続ける地域社会の中で民俗芸能に新しい意味を見いだし、その地域のコ ミュニティ成員同士が交流を図るためのツールとなること、もうひとつは地域を超え、 その地域社会に属さない外部の人々との交流を図るためのツールとなることである。
 前者は民俗芸能を「共通の楽しみ」としてとらえることによる地域コミュニティの再形 成を意味する。民俗芸能は元々神事としての意味を持つと同時に、地域住民にとっての 楽しみでもあった。神事・儀礼としての重要性が薄れつつある今、これまで以上に大切 な役割となっているのは、そこに集う者に「楽しみ」として共有されることである。芸 能のために地域の人々が集い、それを媒介としてお互いが知り合い、交流を深めること でコミュニティは維持・形成されていく。そうした過程の中で芸能そのものが継承され るシステムも構築されていくのである。
 後者は民俗芸能を鑑賞の対象とするという言わば「観光化」といった形で実践される。 ただし、これは「観光産業化」とは異なる概念である。民俗芸能はその地域固有の文化 であり、それを通じて外部とのコミュニケーションを図ることは地域アイデンテティーを形づくるひとつの核として芸能を認識することへと繋がっていく。それはとりもなおさず地域コミュニティの結束を強めることとなり、結果的に芸能それ自体を継承するための仕組みがつくられていくこととなる。 ここで重ねて強調しておくが、これは観光化そのものを目的とした「観光産業化」する ことを意味しているわけではない。何故ならば、観光産業となった芸能は地域から遊離 し、民俗芸能としての本質を失うからである。そういった意味で、民俗芸能を外部との コミュニケーションツールとする際には、あくまでも外とのコミュニケーションによっ て地域コミュニティを閉鎖的なものから一般化し、形成していくことを目的とするもの でなければならない。
 現存する民俗芸能はいずれも継承のあり方に関して課題を有しており、こうした方向性のいずれかを選択せざるを得ない状況にある。地域社会の変化に適応できず、そのコミュニティの中での存在意義を喪失した民俗芸能は「保存」という名の下、その「形」を残していくしかない。 民俗芸能にとって、現在はまさに今後の方向性を探るための模索の時期であり、その継 承に対する支援のあり方を考えるに当たっては、上記のような視点を持って現状を認識 し、検討を行っていく必要がある。つまりそれは、個々の芸能が地域社会の中でのコ ミュニケーションツールとしていかなる働きをしているかを把握し、今後それが意味を 持ち続けるためにはどうすればよいのかを考えるということである。


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