32honron2 「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
本論 伝統民俗文化の継承と支援
II 伝統民俗文化の支援の方策の検討

2 ノウハウやソフトを
地域の人と共に考える支援


 無形文化を支援する場合、建物を建てたり、衣装や楽器を購入したり、記録を作成の ための機材を購入したりとかのように、目に見え、形に残るものに助成をおこなうこと が多かった。これは、助成をおこなう側が、伝承者を育てるなどどいうソフトに対応す るためのノウハウを持ってこなかったことに起因している。
 今日一番さきに取り上げなければならないのは、このソフトウェアの部分である。そ して、民俗芸能や民謡をもう一度コミュニティのなかに戻すことである。民俗芸能や民 謡が生まれ育まれた時代と異なる新しいコミュニティのなかで、新しい機能を発揮させ ることである。特に、農村が多職業の混住化地域にかわりつつある今日、地域住民のコ ミュニケーションの場を提供するのに、民俗芸能は大きな力を発揮するであろう。アイ デンティティ確認の機能と若者が地域社会に適応するための教育の機能と娯楽の機能を 同時に発揮することで、民俗芸能を中心としたコミュニティを形成することができるの ではなかろうか。
 いずれの場合も、伝承者の問題意識と協力がなければ、外部からの支援は不可能であ ることは変わりない。
具体的な方法として、次のような方策が考えられる。


(1)祭り休暇

 伝承者にサラリーマンが多くなり、練習時間が取りにくくなった。また、当日仕事を 休むのが難しい場合があるのはすべての民俗芸能に当てはまる。この問題を解決するた めに、オピニオンリーダー的存在の大企業が、まず率先して「祭り休暇」を認めるよう にするとかなり効果がある。「祭り休暇」は2通り考えられる。1つは、社員の住んで いる地域の祭りに対して出されるもので、もう1つは営業所のある地域の祭りに対して 出されるものである。後者は休暇でなく、「祭り参加」という業務ととってもらっても 構わない。営業所から祭りに参加し、記録作成までいかなくとも、写真をとって営業所 で写真展を開く。年間各地でとり貯めた社員の写真を対象に、本社でコンテストや写真 展を開くのもよい。地元に刺激を与えるという2重の効果をもたらすであろう。


(2)鑑賞者層の拡大

 かつてのように強制的な義務ではなく、有志で伝承されている民俗芸能はともすると 、愛好家のサークルになりがちである。また、民謡も婚礼などの宴席で歌われることが なくなり、民謡教室で伝授され、特定の人々の間でだけ鑑賞されることになりかねない 。まずは、伝承者やその家族以外の一般の人が楽しく鑑賞できる場を設けることである 。手始めに、現在おこなわれているものを地元の人々に宣伝し、存在を知らしめ、関心 を起こし、鑑賞者の裾野を広げることから始めることが必要である。


(3)記録作成

 これまでの記録作成のための補助は一過性のものが多い。ところが民俗芸能にしても 民謡にしても、芸の質は問われても、規範的な唯一の演奏というのはありえない。ただ 一度だけの記録では、芸能が固定化してしまう恐れがある。少なくとも同じ演者で複数 、そして演者を変えて複数の録音やビデオどりをすべきである。記録は祭り本番の実況 だけでなく練習も取る。最近の商業映画ではメーキングフィルムが作られ、そちらの方 が映画よりおもしろいことさえある。芸能が完成していく記録は伝承にも役立つ。  記録はプロの研究者に委託するのではなく、地元の人々の手でおこなうことがよい。 地元でも、行政の人ではなく、自ら行っている人々、その人自身が周囲の人の手を借り て行うことが望まれる。
 時々しか使わない高価なビデオの機材をそれぞれの市町村で持つより、記録作成セン ターなどを作って貸し出すをする方法もある。そこで記録作成のノウハウを学ぶための 講座を開くことも有益であろう。また、できあがった記録の保存・公開の情報センター も兼ねるとよいと考えられる。


(4)インタープリターの派遣

 伝統芸能の中には、伝承者と子供の距離が離れすぎて、教授がうまくいかないことが ある。伝統的な伝承方法はまず「見て覚えて」「まねて覚えて」「繰り返して覚えて」 というやりかたであるが、身近に見る機会のない現代の子供達には難しい。といって、 新しい教授方法を考案したところで、今度は師匠の方がそれを活用することができない 。結局は子供達はなんだか難しくてつまらないという印象だけを持つことになってしま う。
 そこで両者をつなぐインタープリターの存在が必要となってくる。鳥海町の獅子舞倶 楽部ではこのインタープリターを使って、子供達に民俗芸能の基本的技術を習得させ、 しかも好奇心をおこさせるのに成功している。インタープリターの活動の手順は、まず 、上演の記録を作ることから始まる。つぎに、自らが師匠に実際に習いながら、舞で注 意すべきことや所作の名称などの聞き取りをする。このとき同時にビデオをとる。これ らの記録をもとに、分析して基本的なパターンを取り出す。伝統的な教授方法では、い つでも演目の頭から練習するが、インタープリターは子供にパターンの練習から始めさ せる。笛では音のだしかたのこつや、指使いと音の関係などを飲み込ませてから、やは りパターンを教える。子供のなかに、ある程度蓄積ができてから、演目を教えるのであ る。
 インタープリターの仕事はここまでである。それから後は、子供自体がインタープリ ターとなって次の世代を教えることが可能である。そして、本当の演目は師匠から習う ことになる。ここまで基本訓練ができていると、師匠から習うことが可能になる。この 基礎訓練を行うことが、生活の中で芸能を自然と身につけることをしなくなった今日で は重要な要素となるのである。
 インタープリターは、外部の人のほうが効果が大きいと考えられる。その土地の民俗 芸能に初めて接するほうがよく、予備知識は必要ない。子供と同じ立場から始めるとな にが解りづらいのか発見することができる。そして、試行錯誤しながら学習する方法を みつけだす。いわば、「教わること」のエキスパートなのだ。「教えること」でない点 が今までの発想と大いに異なるのである。
 インタープリターは複数のほうがよい。しかも、男女混成チームが理想である。また 、年令は子供達の親より少し若いくらいがよい。東北では民俗芸能は男性がやるものと いう考え方が多い。女性でも太鼓も叩けば、笛もふく、舞もまうというのを実際に見る ことは子供達の意識を代えるのに役立つ。また、若い人が、遠来の人が興味を持つほど 自分達の民俗芸能に価値があったということに気づき、プライドと同時にアイデンティ ティの形成にもつながる。


(5)後援者層の拡大

 後援者というのはファンと言い替えても良い。「演じる側」と「見る側」も同じ地域 、共同体の一員である。民俗芸能を深く知ることは、その土地の歴史を知ることになる 。自分の生まれた土地、住んでいる土地の歴史を知ることは、その人間にとっての誇り につながる。たから、観て興味を抱いた人に、芸能支援の一助を乞うことは可能だと思 う。ただ「観る」だけでなく、なにか「行動」をしてもらう。また、「観る側」がいず れ演じる側に移行する可能性もあるのだから、気楽にその芸能を「体験」できる機会を 作ってみてはどうか。衣装や楽器のある芸能は、それに触れ、演奏できるチャンスを与 える体験塾のようなものを開催するのも1つの方法である。実際に使うのは、本物でな くてもいい。限りなく本物に近いコピーでかまわない。とにかく身近に接し、自らの文 化として体内化していくことが重要なのである。


(6)発表の場

 外部の人に観てもらいたい、価値を認めてもらいたいというのは芸能をしていく上で 自然の心の動きであろう。それは、日本青年館や国立劇場で舞台に立った経験からさら に強くなっているようである。しかし、そうそう東京の舞台に立つチャンスはない。そ れなら、次には地元に外部の人を呼んで観てもらおうという発想になる。そのとき、実 はまったく違う方向がいくつか生まれている。まず、本式に観光産業へと組み込まれる ケース。そして黒川能のように本物の祭りと、鑑賞用の舞台芸能の両方を公開している ケース。鳥海町の番楽獅子舞では、限りなく本物に近い「コピー」の場と鑑賞用の舞台 芸能を公開しているケース。
 黒川能では中央五流の能のファンとお稽古人口が見にくる。だから、祭りや民俗から 離して芸能の芸態だけを取り出しても、能の古体を残すということで鑑賞が成り立つ。 ところが獅子舞番楽は中央に対比する芸能が控えていない。お稽古人口というのもない 。舞台芸能化しても、外部の観客はあまり興味を示さないだろう。それより、「コピー 」型の演出について、もっと積極的に考えてみてはどうだろうか。獅子舞番楽の公開用 の民家を作り、本物に近い演出で外部の人に見せるのも1つの方法である。そのための 資金援助が考えられる。


(7)民謡コンクールの開催

 コンクールは諸刃の剣のようなところがある。審査基準となる歌い方が唯一のものと いったように、民謡が固定化される危険性は多いにある。また、特定の曲だけ有名にな って、その周辺の曲がないがしろにされ忘れられることもあった。しかし、コンクール のおかげで民謡が盛んになることも確かである。プロデュースの方法を慎重に検討する ことを条件に、民謡コンクールの開催も1つの方法であることを加える。


(8)女性への助成

 民俗芸能を伝承して演じているのは今だに男性のほうが圧倒的に多い。しかし、練習 や接待など、舞台裏で民俗芸能を支えているのは女性である。女性の人権費や経費に対 して経済的助成を是非ともおこなうべきである。例えば、公演にいくときの交通費とか 宿泊費とか、あるいは写真代とかに使える費用が必要である。


(9)ブレインの派遣

 以上のような伝統文化の継承・発展のアイデアのなかには、伝承者達からおよそでな いものもあると思う。しかし、考慮してみる価値はあるのではないか。どのようにした ら良いかを共に調査し考えるブレインを持つことは、伝承者にとって今一番必要なこと であり、また、固定化した発想を撃ち破るきっかけにもなるであろう。


(10)情報の公開

 それぞれの民俗芸能や民謡を継承・発展させるために、それぞれの地域で独自の試行 錯誤が繰り返されている。しかし、お互いの情報が流れないので、せっかくのよいアイ デアが応用されることがない。情報交流の仕組みとして、解り易い情報誌を作ることな どが役立つのではないか。
 以上のように、単に助成金を出すだけでない、ノウハウやソフトをともに考える支援 が今後重要になってくるだろう。それは図らずしも、民俗芸能や民謡が本来持っていた 、伝承組織の運営を通して社会に適応するためのロールプレーイングの機能に他ならな いのである。民俗芸能や民謡への支援は、支援をする側自体も支援を通じて地域社会と の関わり方を会得していくロールプレーイングを求められており、その上に立って地域 との有効なコミュニケーションが形成されていくのではなかろうか。


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