伝統民俗文化は地域の自然風土と歴史と生活に根ざす文化であることから、それを支 える地域が形成されていないと活動自体が困難となる。そこに伝統民俗文化の活性化と 地域の活性化の連携が求められる。この典型的な例が観光の種としての伝統民俗文化の 利用である。
(1)観光産業化と観光化の明確な区別
一方、伝統民俗文化の誤った保存の形式を、むしろ古い形が残され、地域に特徴的な
文化だという誤ったとらえ方をし、それを他の地域に対して有効な特産物、商品だとし
て観光産業化への道を探る自治体もある。確かに、珍しいもの、奇異なもの、古いもの
はそれだけで価値があり、人々の興味をそそり、観光の目玉となりうるかもしれない。
あるいは地域の個性として地域を紹介する道具ともなりうるかもしれない。それを核に
観光産業を活性化することができるかもしれない。他に産業がない地域の場合、それも
一つの選択肢となりうるであろう。
しかし重要なことは、そのような観光産業化は文化振興でも地域の生活者の創造性を
豊かにするための政策でもないことを認識することである。産業としての文化はそれほ
ど容易ではなく、見る人を想定し、サービス産業としてお客を楽しませ、対価を得るだ
けに充分な商品価値をもたなければならない。それは伝統民俗文化の論理とは全く異な
るものである。伝統民俗文化は見る側、演ずる側双方が同一平面にあって、生活のリズ
ムのなかで相互に楽しむ創造的な活動である。むしろ観光産業化するのであれば、それ
は文化活動とは切り離し、産業として育成すべきであって、生活者の文化活動振興とし
て行うべきものではない。伝統民俗文化の振興と観光産業化は全く別なものとして取り
組まなければならない課題であり、伝統民俗文化の地域への社会機能の利用と地域活性
化の論理を同次元において、安易な観光産業化することは避けなければならない。
(2)外部コミュニケーションとしての観光化
ここで観光産業化と観光化は明確に区別される必要がある。それぞれの地域固有の伝
統民俗文化は地域の生活者が楽しみ、造りだす文化であるが、閉鎖的で他者を受け付け
ない文化であってはならない。否、伝統民俗文化が地域の人々の自信と創造性に支えら
れている限り、むしろ積極的に他者とその文化によるコミュニケーションを図るであろ
う。今日の社会環境のなかでは、他者とのコミュニケーションを前提としない地域活動
は存在しえない。国内だけでなく、国際的視野にたって交流とコミュニケーションが求
められるのである。したがって、この意味における観光化、他者から見られるあるいは
見せるといった鑑賞化は必要である。そのような観光をどのような形で行うかはそれぞ
れの置かれた文化状況によって異なり、それはケーススタディのなかでも多様な取組が
見いだされたとおりである。
伝統民俗文化は地域の生活者の文化を介したコミュニケーションによって成立し、他
地域との文化を介したコミュニケーションを可能にし、それぞれの生活に根ざした固有
の文化のぶつかり合いによって、日本全体の文化の活性化を引き起こしうるのである。
伝統民俗文化はその社会的機能を通じて、地域の活性化に寄与するものである。しか
し、それは住民意識や故郷意識、地域生活の充実度、豊かさといったものを高めるので
あり、経済的な、物質的な豊かさを高めるものではない。このような生活の豊かさこそ
今後の成熟社会にむけて必要な豊かさであり、社会的にも付加価値を高める生産的なも
のとしてとらえられるものなのである。
21世紀にむけて新しい社会システムにおける生活の豊かさは、大都市において実現さ
れるのではなく、地域において実現されることを予見させるものが、伝統民俗文化には
存在するのである。