(1)接ぎ木された日本の文化の現状
明治以降、日本の文化は西欧化することで展開してきた。それは日本の経済社会環境
のなかでは支持されることではある。日本はその食文化に代表されるように、雑多な文
化が混在する稀な国である。このような混沌とした文化状況自体が日本の文化であると
も言われる。その典型が東京であり、東京は固有の文化はないが、いろいろな文化がバ
ザールのように存在する。
それは日本の固有の歴史の上に、いきなり西欧文化、アメリカ文化を接ぎたしたよう
な状況であり、根を持たない西欧文化と根だけが残った日本文化が日本とも西欧とも付
かない接ぎ木文化を爛熟させている。
しかし、成熟社会にむけて、様々な文化領域、特に、音楽、演劇、舞踊といった舞台
芸術領域から日本の文化への問いかけがなされている。日本が持っている風土や環境、
歴史のなかで生み育ててきた文化の上に立つ今日の舞台芸術が存在するのかという問い
かけである。生活や都市に根づかない、西欧やアメリカなどの文化を紹介するだけの活
動が氾濫しているのではないだろうかという問いである。
小さいことから12音階、ドレミファソラシドで育ってきている若者に流行るポピュラ
ー音楽のなかにも、実はその音楽は日本の民謡などに多い音階を自然と折り込んでいる
ものが多く指摘されている。その事実は民族主義の現れといったものではなく、日本の
自然と風土の生活様式がもたらすものなのではないだろうか。
西欧のクラシック音楽がその起源を辿れば、一民族音楽に帰着するように、全ての文
化は地域の伝統文化に源を持つのである。しかし、東京のような大都市ではすでのその
ような地域の文化に根ざした文化を創造していくことはできない。
東北地方にまだまだ地域民俗文化が継承されてきている。それが、今後の日本の文化
創造の大きな資源であることは間違いがないのである。しかし、その伝統民俗文化が正
しく評価され、取り扱われてはいない。それが、日本の文化状況を非常に貧困なものに
している大きな原因なのである。このような文化状況は日本の社会経済の大きな歪みを
率直に現すものとしてもとらえらえるのである。
(2)日本の文化創造と地域の創造のために
この調査研究で一貫して提起してきた『全ての文化は地域の伝統文化に根ざし』われ
われは『伝統の先端にいて、伝統を同時代性ある文化として創りだしている』のである
という理念は、残念ながら、現在の状態では現実のものとなっていない。これを現実の
ものとする支援が今早急に必要とされている。
その必要性は、単に伝統文化が廃れて残念だといった感傷や、地域開発や経済的投資
が足りないがために地域の文化が廃れるのだといった批判を源にしているのではない。
伝統民俗文化が持つ日本の文化の創造への力、伝統民俗文化が持つ地域の生活の質の
向上、豊かさの向上への力、それらへの可能性の期待から発しているのである。このよ
うな文化の創造の仕組みが各地にできて、全国から沸き上がることが日本の文化状況を
変えていくものであり、文化から地域が活性化していく新しい『地方の時代』の到来な
のである。伝統民俗文化への支援は日本の文化の創造と地域の創造のために求められる
ものとなっている。
成熟化社会とはこのような文化の持つ社会の付加価値生産性を重視し、生活の豊かさ を創り上げていく社会ではなかろうか。それが東北地方から展開していくとすれば、東 北から切り拓く日本の文化の時代を創造することとなるであろう。
現状の伝統民俗文化をこのような視点から転換していくための支援は容易ではない。 支援の仕組み自体をその地域ごとに構成するような支援のソフトウェアを開発すること から始めなければならない。そしてそのソフトウェアを地域との人々に伝え、ともにそ の適用を考えていくことが必要である。しかし、一旦それぞれの地域に創造的継承の活 力が芽生え出せば、それは連鎖的に各地に広まっていくものである。むしろ地域はきっ かけとノウハウを求めているのであり、そこまでの支援が今必要なのである。