「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
終論 伝統民俗文化の創造的継承のための支援の方法論の提起
 
終論

 本論において、東北地方に継承される5つの伝統民俗文化の実態に基づいて、その支 援の方策を考察した。伝統民俗文化はそれぞれの置かれた地域の状況や文化の状態、取 り巻く環境条件によって、その支援の仕方は全く異なるものになる。それぞれに応じた 対応が必要なのである。
 しかし、すべてに個別な対応が必要であるとすれば、その支援は非常に困難なものと なってしまう。ここでは、今、伝統民俗文化に対して何をなさなければならないかとい う基本的な問題に立ち返って、支援のための一般的方法論の検討を試みる。
 はじめに、伝統文化に対する支援の基本的な法律と仕組みを持つ、文化財保護法と文 化行政の問題点を振り返り、さらに一般的な文化への支援方策を検討し、伝統民俗文化 に対して今何をなさなければならないかという視点から、今後において、伝統民俗文化 に対する支援を行う場合の一つの方法論を提起したい。


1.文化財保護法の問題
 わが国での文化財保護に関する国としての最初の対応は、明治4年(1871年)に布告 された「古器旧物保存法」である。欧化主義や廃物毀釈等の影響によって、国の文化財 が危機に直面していたことを契機としての制定であった。その後、明治30年(1897年) に「古社寺保存法」、大正8年(1919年)に「史跡名勝天然記念物保存法」、昭和4年 (1929年)に「国宝保存法」が制定されるが、総合的で体系だった対応がなされたのは 昭和25年(1950年)の「文化財保護法」による。
 この時、文部省に文化財保護を推進する専門的機関として文化財保護委員会が設置さ れた。同時に「無形文化財及び埋蔵文化財に関する保護制度」が新設されたが、無形文 化財については「国が助成措置を講ずべきものを定める」にとどめられていた。
 昭和29年になって、文化財保護法は大きく改正され、無形文化財についても「重要無 形文化財」として指定を行う指定制度が創設された。さらに、重要無形文化財以外の無 形文化財でも、価値の高いものを選択して、記録の作成等の措置を講じることができる こととされた。この改正において、初めて民俗文化財に関して定められたが、民俗文化 財に関しては、有形の民俗資料の指定、無形の民俗資料の選択などに留まった。
 さらに、このとき「文化財の保護・活用には地域及び住民の理解と協力無くしては実 効を収めることは困難」との観点から、地方公共団体が自ら条例により、文化財指定が 出来るようになった。
 その後、昭和43年に文化庁が設置され、文化財保護審議会が文化財保護委員会に代わ って設置された。その後、昭和50年に大きな改正がなされ、この時始めて、無形民俗文 化財にも指定制度が創設され、現在に至っている。
 無形の民俗文化財に対する文化財保護法上の取扱は多くの問題を含んでいる。最も大 きな問題は、文化財保護法自体が、ある過去の形の保存を前提とした体系となっている ために、創作や変更を許さないことである。これでは常に創造的に変化している民俗文 化には対応できない。むしろ、ある形を固定してしまうことで、その活性化を阻害する ことすらあるという点である。
 これは法自体が『創造性』ということを想定しておらず、あくまで『保存』のための 制度であることからの限界である。
 また、民俗文化については、無形文化財のような伝承者の養成や芸そのもの自体の公 開に対する支援についての項目が無く、また、「国民の生活の推移の理解のため」に保 存の対象とするといったように、創造的な文化活動としてとらえていないなどの仕組み としての大きな問題を抱えている。
 現在、文化庁内部において、文化財保護法自体の見直しがなされており、無形文化財 や無形民俗文化財に対する取扱についても、改善の方向で検討がなされていると言われ る。しかし、文化財保護法はその法としての理念や政策体系について限界もあり、この 体系だけにたよるのではなく、もっと多様で積極的な取組が、多様な主体によって行わ れることが望まれる。


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