4syuuron5 「伝統民族文化の継承と支援」―日本文化の創造と地域の創造―  目次  前項  次項
終論 伝統民俗文化の創造的継承のための支援の方法論の提起
 
5 伝統民俗文化の創造的継承のための支援方法の提起

 ここでは、今日、伝統民俗文化に対して最も必要であり、その創造的継承のために有 効な支援の仕組みを構築していくためのプランを提起する。これは従来行われてきたよ うな資金的な支援とは異なり、また、単なる実態把握に停まるものでもない。民俗芸能 や民謡の実態を把握しつつ、それらの技法を記述し、多様な創造的加工が可能で、かつ 伝承可能な技法を抽出する。それを基に、組織化、公開、実態把握プロセスの蓄積と公 開、更にその民俗芸能や民謡の地域での展開の可能性を検討するといった、一連の方法 論なのである。それは、伝統民俗文化を今日に生きる創造的な活動として継承していく ために必要なマスタープランと言い換えられよう。
 この方法論にはプロセスとして下のような5つの段階がある。

[1]伝統民俗文化支援方法マニュアル
a.創造的継承ガイドラインの作成
b.実態把握マニュアルの作成
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[2]指導者(インタープリター)の養成
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[3]現地での実施プロセス
a.地域の人々による記録の作成
b.技法の整理
c.継承の組織化
d.成果発表の場の整備
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[4]記録の蓄積と流通
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[5]伝統民俗文化の展開の可能性の検討
 次にそれぞれのプロセスにおける具体的な方法についての提起を行う。

[1]伝統民俗文化支援方法マニュアルの作成
 実際に民俗芸能や民謡に対しての支援策を講じていくためには、その方向性を示した 計画図とでも言うべきものが必要である。無計画な支援と改革は逆に伝統民俗文化の価 値を損ない、継承のあり方を混乱させる。民俗芸能を支援していく上での目的・理念・ 方法を明示したマニュアルを作成していくことが、こうした状況を回避し、最終的にそ の仕組みや仕掛けを地域に内在化させることに繋がっていくのである。以下、2つの方 法を提起する。

a.創造的継承ガイドラインの作成
 地域コミュニティ内部において民俗芸能の継承は、伝統的に受け継がれてきた方 法によって行われている。しかし、今やそれが地域社会の現状に則さなくなり、継 承システムのあり方の見直しが必要となっていることは既に何度も述べてきた通り である。ところが実際に芸能の継承を行っている人々は伝統や地域のしがらみとい ったものから離れることが難しく、継承の仕組みそのものを変化させるような発想 や行動に移るまでにはなかなか至っていない。地域の人々にとっても、また、支援 を行っていこうとする外部の人間にとっても、創造的継承とはいかなるもので、ど のような方法を行っていけばよいのかを明確にしていくことは必要なことである。 まず、民俗芸能や民謡が創造的なものであり、表現をそのまま継承するのではなく 技法を継承するのであって、表現自体はそれぞれが創造していくものであるという ことを認識させることからはじめなければならない。こうしたガイドラインを、道 標として作成していくことが支援方策の出発点となるのである。

b.実態把握マニュアルの作成
 民俗芸能の創造的な継承を具現化するためには、地域の中で現在その芸能が占め ている位置や果たしている機能を把握しておく必要がある。しかし、特に生活の中 のひとつの文化として直に接しているコミュニティ内部の人々にとっては、自分た ちの芸能が有している価値や意味、他から見た特異性について認識することが難し い。そこでこれは、個々の芸能の現状を記録していくうえでの着眼点・留意点・必 要事項などをマニュアル化し、実態把握のためのフレームを整理するものである。


[2]指導者(インタープリター)の養成
 創造的継承の仕組みづくりは方法マニュアルのみによっては当然推進されない。そこ にはもうひとつ、マニュアル活用に関する助言や客観的な発想・指摘等が可能な指導者 的人材が要求される。ただしそれによって行われるのは、あくまでも外部からの「刺激 剤」としての指導であって、決して絶対的規範となることではない。マニュアルに基づ いた指導・伝承の道筋を提示し、地域の者に伝授することにより、コミュニティ内部に おける自律的な継承の仕組みづくりへと繋げていくことがその目的である。むしろ、コ ミュニティ内の人と人、人と芸能を結び付ける仲介役というべきであろう。こうしたイ ンタープリターの育成、または育成に対する支援・条件整備を行っていく。

[3]現地での実施プロセス
 マニュアル作成とインタープリターの育成は言わば外部の者が主体となって行う活動 であるが、地域に密着した民俗芸能に対しての支援は、無論現地における活動が主とな っていなければならない。そこで次に、実際にその地域で行う支援活動及び地域住民に よってなされるべき活動方法についての提示を行う。以下のa〜dは現地での実施プロ セスにおいて一連の流れの中で行われるものである。

a.地域の人々による記録の作成
 外部の研究者によって芸能が記録化されることはこれまでも多く行われてきてい る。しかし、それは一過性の記録であり、それによって地域住民が啓発されたり、 創造的な継承が触発されることは少ない。そこで、作成された実態把握マニュアル に基づき、調査・記録自体を地域の人々の手によって行わせることによって、その 過程を通じて自分たちのオリジナル文化の性格・意義を学ばせる。これは、民俗芸 能を中心としたコミュニティ形成の促進と、その継承システムの内発的な構築へと 繋がっていくものである。

b.技法の整理
 個々の芸能にはそれぞれ固有の技術が備わっている。その技術・技法を整理して いくことは芸の伝承となると同時に、技術の体系化へと結びついていく。ただし、 これは「保存」という意識の下に行われるような従来の技法整理ではない。それは 芸の「型」の画一化に繋がり、「生きた」芸能としての成長を止めることである。 この場合はそれぞれの芸能を構成する基礎的な技法の体系化を意味し、新たな作品 の創作や他の芸能との融合といった表現の多様化を図ることを目的とする。つまり それは、民俗芸能の発展型としての新しい芸態が生まれ得る土壌を創りだすことな のである。

c.継承の組織化
 各地域においては、固有の民俗芸能を継承するための保存会や協会が組織化され ている場合も多く見受けられる。確かに、それらは芸態や技術を継承していく主体 としての機能を果たしているが、必ずしも地域社会を形づくるコミュニケーション ツールとしての芸能を継承しているとは限らない。ここで想定するのは年配の者が 下の世代に芸能を伝えていく場として、世代間コミュニケーションを図る場として の組織の創出である。特に民謡は個人芸という側面が大きいため、それを中心とし た組織・コミュニティの大半は消滅している。こうした芸能の伝承者が自発的に継 承組織を形成していくことは困難であり、支援が必要であると考えられる。昔は日 常の中で子供が自然に芸に触れ学んでいた場を今、組織として形成し、芸能の意味  を伝えていくことがその目的である。

d.成果発表の場の整備
 技術・芸態を個人が習得しただけで終わることは、その芸能が単なる趣味とな ことを意味し、積極的なコミュニティの形成と創造的継承には繋がらない。身につ けた、あるいは身につけつつある芸能を披露することによって更に技術は磨かれ、 演者はその芸能に対する認識を深めていくこととなるのである。また、身近な人々 が演じるものを地域の他の住民が鑑賞することは、新たにその芸能を認知する人間 が増えることとなり、そこにひとつの地域コミュニティの姿を現出させることにも なる。そこで、それまでの練習の成果としての芸能を発表する場を整備する。これ は発表施設の設置というよりも、発表できる機会を提供するということである。例 えば、かつては祭礼や年中行事としてあった発表の場を疑似的にでも再生させる。 民俗芸能は演じる者、見る者、手伝う者といった全ての人が共有してこそ「芸能」 なのである。


[4]記録の蓄積と流通
 上記[1]〜[3]のプロセスが継続的に行われることにより、民俗芸能に関する記録・技法 ・継承ノウハウなどが必然的に蓄積されていくこととなる。個々の地域・芸能ごとのこ うした情報をひとつに統括し、更にそれを広く公開していくことは、他地域に対する啓 発と各地域間のネットワーク化を促す。そこで支援方法のプロセスのひとつとして、こ れらの機能の中心的に担う機関・組織・施設を設置することが求められる。例えば、東 北地方に伝わる民謡をCD化し、それをライブラリー化することは、われわれ日本人に とっての貴重な文化資産をストックすることとなり、幅広い人々にそれを聴く機会を提 供することによって、更に新しい文化を産みだすきっかけとも成り得るのである。特に 民俗芸能においてはこうした情報が不足しており、単独の地域では困難な事業でもある ことから、外部の支援のあり方として意義のあることであろう。

[5]伝統民俗文化の展開の可能性の検討
 これらの方法論を実践していくことにより、地域の人々や支援者たちは個々の伝統民 俗文化、ひいては日本文化に対する新たな認識を持つに至るであろう。その結果、更に 創造的な継承を現実のものとする方策についての提起が可能となる。全体的な視点でそ れぞれの芸能の価値と意義を評価できるようになった時、その時代や社会状況に適応し たこれからの方向性が見えるようになってくるのである。それは民俗芸能全体を一般化 して一括りにできるものではない。それぞれの芸能がそれぞれの地域社会に適した方向 を歩んでいくのである。あるものは他地域とのコミュニケーションツールとして、ある ものはムラ社会を形成するための中心機能として、またあるものは、どうしてもコミュ ニティの中でその意義を見いだせず、「保存」や「消滅」への道を進むかもしれない。 地域の内部と外部の人々が互いに共通の認識をその民俗芸能に対して抱き、一体となっ て今後の方策について考えていくことが、創造的継承のための一番の支援となるのであ る。


 以上のプロセスの全てを通じて念頭に置いておかなければならないのは、こうした支 援はあくまでも地域の人々を啓発すためのきっかけとしてなされるものであって、決し てそれが主導権を握るものではないということである。何故ならば、民俗芸能が創造的 に継承されるためにはその継承の仕組みや仕掛けが地域の内発的欲求によって生まれた ものでなければ意味がないからである。また、そうでなければ創造的なものとはなり得 ない。民俗芸能は地域コミュニティのひとつの中心に位置することができて初めて民俗 芸能と言うことができる。そのためには、伝承者となるべき地域住民にそうした認識と 理解がなければならないのである。そしてその時、地域の人々が継承という活動を通じ て、社会に適応していくためのロールプレーイングを行うという民俗芸能が本来持って いた機能が発揮されることになる。民俗芸能は地域社会の中での生活の一部である。す なわち、民俗芸能を支えていくということは、地域を支えている人々の生活の一部を支 えることへと繋がっていくのである。


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