この調査研究は、当初企業と文化の関わり方についての考察から出発した。今日、企業が何故文化に関わり、支援をしなければならないかというと、それは単に18、19世紀のパトロネージやフィランソロフィーの概念が日本において見直されたということではなく、今後の社会システムの変化のなかで、社会を構成する主体がそれぞれの活動の規範やあり方を変えていく過程のひとつの動きであるということが指摘される。それは自然やコミュニティ、経済社会を含む広い『社会』のなかで豊かさを実現していくために必要な企業の変化なのである。
しかし、その豊かさをもたらす文化とは何なのか。それは日本の文化状況への問い掛けとなった。明治以降の日本の文化は本当に豊かであったのか。東京を中心とした経済発展文化に幻惑された実体のない文化ではなかったのか。日本文化とはこのようなものであったのか。そこには様々な疑問があった。
そこで東北地方という日本の自然、風土、生活文化が息づく地域において継承されている伝統民俗文化に注目した。何故ならば、全ての文化は地域の伝統文化に根ざしているからである。しかし、日本の風土のなかで、一人ひとりの創造性が集合して創られる伝統民俗文化こそが日本の文化の創造性の源であるはずであるのに、今やそれは過去の遺産として維持保存する対象と化しつつある。そしてそれを改善していく努力は細々と行われているにしか過ぎず、システムとしての総合的な支援が必要な段階にきている。
われわれはごく僅かの事例を見たに過ぎないため、残念ながら一般的な支援システムを構築するには至っていない。しかし、ここで検討した支援システムをパイロット的にでも現実に適応させていくことが、次なる段階として必要であろうと考えている。しかもそれは早急に行われることが求められている。何故ならば、保存的な継承であってもそれを継承している人が既に高齢化してしまっているからである。
伝統民俗文化の創造的継承は日本全体の文化状況の改善に繋がるだけでなく、地域のアイデンティティを形成し、地域生活の豊かさを高めていくものである。これを支援していくことは大きな資金を投入することではなく、地域とともに考えていく姿勢と少しばかりの知恵を提供していくことである。なぜなら、伝統民俗文化は地域の内発的自立性によって支えられるものであるからである。