jyomonari 「縄文文化と東北地方―東北の基礎文化を求めて」 目次  前項  次項
第2章 縄文文化の再構築
3 縄文文化の担い手 縄文人
(2) 平均寿命の推測

 現在、世界一を誇るわが国の平均寿命は、縄文時代にはどうだったのだろうか。  縄文人の寿命に関しては、小林和正の「出土人骨による日本縄文時代人の寿命推定」と 題された興味深い研究がある。ここでは、貝塚出土の15才以上の人骨235体を資料としてその死亡年令を推測、5才毎に区分して時期ごとの平均寿命を算出している。
 これによると、縄文時代を通じての平均死亡年齢は男子・女子ともに31.1才となっている。この統計には15才未満の子供の死亡率が加味されていないことを考えると、縄文人の平均寿命は30才よりはるかに低いものとなる。現在ならまだ前途洋々、青年期の年齢であり、現在の私たちからは想像もできない過酷な現実である。
 これを各時期別に見ると、例えば前期は男子30.3才、女子29.6才であったのが、後期に男子が32.4才で、中期に女子が32.3才でピークを迎えている。ただし、その後ふたたび30才代に若年化した。この推移は、縄文時代の遺跡数にみる人口の増減傾向とも確実に一致している。なお、縄文時代を通じてその後期まで常に男子の平均寿命の方が高かったが、後期後半に女子の平均寿命と逆転して女子長命のパターンは現在までつづく。
 なぜ、平均寿命が右上がりに伸びずに、晩期に再び低くなっていったのであろうか。その背景としては、以下の2点が考えられる。
 ひとつは、自然環境変化による影響である。前期までは縄文文化形成期であり、生活環 境も過酷であった。しかし、中期は、植生の安定に起因する自然環境の向上があって縄 文人も長命化した。しかし後期以降は、気候寒冷化に伴って環境が悪化、ふたたび短命 化の道をたどったと推察される。
 一方、縄文人たちは、晩期には亀ケ岡文化を含むきわめて高度な工芸・生活技術を獲得 していたのである。それにも拘らず急激に人口が減少、死亡年齢も若齢化しているとい うことは、むしろ、環境変化以上の社会的要因を考える必要があるのかも知れない。 永峯光一は、縄文社会が自然の恵みに依存しながら発展してきた採集・狩猟文化である ことを示しながら、それ故に、一旦自然環境が悪化の方向に向かうと、それを克服でき るだけの文化的抵抗力に乏しかったのではないかと述べている。それが次第に社会その ものの停滞化を招き、結果として平均寿命の若年化と、人口そのものの減少に反映して いるのであろう。
 いずれにしても、縄文人たちは、このような厳しい条件の中で精一杯に生き、多彩な縄文文化を形成していたのである。


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