DOKUJI 「縄文文化と東北地方―東北の基礎文化を求めて」 目次  前項  次項
第3章 東北の縄文文化
2 東北地方の縄文文化の流れ
(5) 高度な伝統技術の創造 世界最大の擦り切り磨製石斧

 昭和40(1965)年、秋田県上掵(うわはば)遺跡で発見された“超”大形磨製石斧4本は、多くの考古学研究者を驚かせた。最大のもの長さは60.2センチ、幅10センチ、重さ4.4 キロ。決して実用とは思えない大きさ。良質な緑色凝灰岩を素材に、丹念に石を擦り切り、石斧の形を整えた“擦り切り技法”による、世界最大の磨製石斧である。 前期には、北海道から中部・北陸地方までの広い範囲に、この技法で作られた磨製石斧 が分布するが、長さ40センチ以上の大形品は希にしかなく、いずれも実用を超えた宝器的性格が強いと考えられている。上掵遺跡の石斧は、偶然の発見のため必ずしも出土状態がはっきりしないが、4本が一括して土壙に埋納されていたらしく、刃部にははっきりとした使用の痕跡がない。
 大形の石斧を特殊な用途に使用する例は、韓国の新石器時代に、墳墓の副葬品に知られる。国内でも北海道出土の長さ51.5センチの擦り切り途中の原石、岩手県日戸遺跡出土の長さ47.5センチの完成品などがある。縄文時代前期には、この他にも秋田県上ノ山遺跡で初めて出土しその用途が話題になっている「燕尾形石製品(えんびがたせきせいひん)」、独特な形の「鋒形石器(ほうがたせっき)」、「両尖匕首(りょうせんあいくち)」は、いずれもこの時代の遺物である。

 はじめ、専ら実用的な目的で作られた石器類も、やがて利器の持つ鋭利な“力”そのも のが象徴化、実用以外の用途に使われるものか生まれ、ある時には共同体の祭祀の場 で、またある時には村の有力者の墓への副葬品として、“第二の道具”としての機能を 併せ持つようになっていく。近年調査された山形県一ノ沢(いちのさわ)遺跡では、全長46メートルの長大な竪穴式建物が発見され、その内部で、かなり専業的に石器製作をおこなっていたことが判明した。興味深いのは、その竪穴で作られた石器が、他集落との交易品と思われるほど多量で、ふつうあまり出土しない両尖匕首を主とすること、石器作りの際に出る莫大な量の剥片・砕片を、決して竪穴の中から出さず、そのまま建物の内部にのこしていること。この行為は、もしかすると他の集落の人々に石器製作の技術を模倣されることを恐れた 一ノ沢“ムラ”の人々の、“縄文特許”の保護手段だったと考える研究者さえいる。安 定した集落の発展と、強固な集落共同体の団結を背景に獲得された東北地方の縄文文化 は、石器製作の技術にも、他に追随を許さない内容を持っている。


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