様々な“まつり”のかたちを生み出し、それを生活と身近な伝統文化として大切にした
縄文人。彼らのこうした文化を語るものは、土偶、配石遺構など数多い。
しかし、これに加えて「仮面」の存在にも、注目されるべきものがある。仮面は、世界
各地の先史文化に必ずと言ってよいほど普遍的に存在する文化要素で、それは多くの場
合、祭祀に関わる“変身”の道具として使われる。
縄文時代の仮面は、縄文後期及び晩期のものが、今まで全国で40例ほど出土し、その分布は北海道、近畿地方の各一例を除き東北地方に集中、これに関東、北陸地方が含まれる。その表情はユニークで、福島県三貫地(さんがんち)貝塚例の涙を流す悲しみの顔、岩手県蒔前遺跡例の幻覚状態で鼻が曲がった顔、埼玉県発戸(ほっと)遺跡出土の無表情で虚心に何かを見つめる顔など、いくつかのパターンに分けられる。
これらは縄文人の仲間の死に関する儀礼で、仮面を着装し“舞”をまうことで死者や精霊と合一化、守護神としての甦りを体現するために使われたと言われている。
現在残されている仮面はいずれも土製で、その大きさから実際に顔にかぶって使える大
形のものと、小形で必ずしも仮面としての実用には供し難いものの2種類があるが、こ
の他に木製の仮面や、耳・鼻・口などの部品を撚り紐で取り付けた、皮製の「組み合わ
せ仮面」も存在していたらしい。
岩手県萪内遺跡出土の大形土偶は、まさにその状態を土偶で表したものだったのである
。
頭部の大きさから、全身像を復元すると、優に1メートル以上。細かな縄
文を施した頭部に、木製の仮面をつけた顔。仮面の輪郭がはっきり表現され、細く切れ
長な目、綾杉状の彫刻が施された頬、そして写実的で大きな鼻・耳。仮面表現の周辺には鳥の羽根を刺し飾ったといわれる円孔が連続し、まるで縄文人の“鎮魂の舞”に使われる姿を彷彿とさせる。
また、岩手県八(はってん)遺跡では、土壙墓と思われる遺構の中から、この土製の
「仮面部品」のみが見つかった。「耳・鼻・口形土製品」と名付けられたこの遺物は、いずれもその端部に紐綴じ用の小穴が開けられ、縄文文化では稀なほど写実的に作られている。他にも岩手県立石遺跡、宮城県宝ケ峯遺跡などからも同じものが出土しており、後期後半の東北地方では広くこの仮面を使った儀式が行われていたらしい。
縄文時代の“仮面”のまつりは、縄文人の死者に対する追慕の念と、現世と来世との往
き来という、高度な他界観の成立を背景にしているのである。