「…吾郎か」
吾郎――高岡吾郎は、南北新聞社の記者である。雄海の実の息子でもあるのだが、現在では親子の縁を絶っている。その理由を知るものは少ない…。
「何をしに来た」
「今度その試食会を取材するんだが、あんたが出席するか確認しに来たのさ。メイドに聞いたら、さっさと帰ろうと思ったんだがな」
「ふん、おまえが取材する蕎麦など、大したことはなかろう」
「俺が行くのは7時過ぎだが、この分なら顔を合わさずに済みそうだ。あんたが山形の蕎麦を知らずにいることを、笑っておいてやるよ」
障子が閉められ、吾郎は立ち去る。その方向を、雄海は睨みつけていた。