招待客の誰かが、声を上げた。都内のホテルの広間、『山形の蕎麦 試食会』の会場に、山原雄海が現れたのである。6時過ぎに会は始まったばかりだが、主催者の顔が、そして会場全体が、一瞬にして緊張する。
「蕎麦を」
雄海が言った。間を置かず、蕎麦が運ばれてくる。雄海が箸をつける。その眉がピクリと動く。会場の誰もが、雄海の言葉を待つ。はたして、どんな評価をするのか…?
「吾郎め…」
雄海がぼそりと言った。その顔に、怒りとも笑いとも受け取れる表情が浮かぶ。そして雄海は、さらに箸をつけた。
会場がどよめいた。あの雄海が、試食に2度以上、箸をつけたのだ。