いやはや、このコラムもおめでたいことに第3回目にしていきなり最終回である。これから『ガメラ3・邪神覚醒』や『スター・ウォーズ/エピソード1』など、トクサツ者には観るも語るも熱くたぎる1999年が到来し、このコラムもそんな息吹をつぶさにサポートできると思っていた矢先の休刊・・・。 う〜ん、みんな不況が悪いんや、トホホのホ。 まぁそんなワケで、今回の共通テーマが「お金がない!」ということなので、トクサツ者は製作費に泣いた作品、予算で七転八倒した特撮映画の話を供するとしよう。 「映画は妥協の産物」と名言を吐いたのはハリウッドの女プロデューサー【ゲイル・アン・ハード】だが、とどのつまり映画製作なんてものは、どこかで折り合いをつけなきゃ際限なく費用もかさみ、資金も早々に底を尽く。ことに特撮やヴィジュアル・エフェクトをふんだんに使った映画はコストがかかるので、製作費高騰や予算超過などの金銭トラブルとは常に背中合わせだ。無事公開にこぎつけたとて、中には当初の予定を大幅に変更したものや、気が付けばスタッフの顔触れが全然変わっていたなんてことも珍しくはない。 ■オレが作ると安くあがるよ!■ 今年満を持して公開されたアメリカ版『ゴジラ GODZILLA 』。本当なら『スピード』『ツイスター』の【ヤン・デ・ボン】が監督するはずだったのは周知の事実。 そもそも『ゴジラ GODZILLA 』を作るために製作元のトライスターは製作費8000万ドルを予算計上していた。 しかし、ヤンはソニー・ピクチャーズ・イメージワークスにCGIのデモンストレーション・フィルムを作らせ、その出来の素晴らしさに脱帽。 「これでゴーなら、いくら製作費が必要か?」 と見積もりさせたところ、約1億2000万ドルという数字がはじき出され、それをトライスターに要求したのである。 『スピード』をわずか3000万ドルで仕上げた、その節約の手腕を見込んだ会社側は大いに難局を示し 「どんなに上乗せしても1億まで。それがイヤなら視覚効果シーンを大幅にカットするか、他のエフェクトチームに頼め」という回答を呈示。妥協を嫌ったヤンは「降板」という形で応じることになった。 その後、【ローランド・エメリッヒ】監督が所属するセントロポリス・エンターテイメント社が 「わしらなら『ゴジラ』を当初の予算より安く作れるでぇ」 と売り込みをかけ、プロジェクトは再び始動したのである。 そんなエメやんの『ゴジラ』も、なんだかんだで最終的にかかった製作費は1億2500万ドル。まさに「もとの木阿弥」。その出来も災いしてか、最近では 「あのときヤン・デ・ボン監督ですんなりクランク・インしていれば・・・」 というif(もしも・・・)が、トクサツ者の間で頻繁に囁かれているようだ。 ■縮小規模で実現したものの・・・■ 【市川崑】監督作品『戦艦大和』は、戦艦大和沈没までの60時間に焦点をあてた大作として、1985年に東宝が製作を発表。『タイタニック』さながら、戦艦大和の甲板や46サンチ砲台をフルスケールのセットで再現し、当時で考えうる最新の視覚効果を導入して過去類を見ない海戦シーンを描く!・・・ハズだったのだが、大風呂敷を広げたあまり製作費が膨張し、クランク・イン直前で頓挫してしまった。 その後この企画はフジテレビで3時間のテレフィーチャーとして甦ったが、哀しいことに肝心の戦艦大和が殆んど画面に出てこないという安普請ぶり。しかも実物大で再現するはずだった甲板はマットアート見え見えの合成で処理され 「そこまで妥協して作るべきだったのか?」 という疑問を抱かせる結果となってしまった。劇中に使用されたマーラーの『交響曲5番』も、壮大にして尊大な戦艦大和の勇姿をバックに流れるべきだったろうに。 ■“ディレクターズ・カット”もままならない■ 変態【ディヴィッド・リンチ】が監督した『デューン/砂の惑星』は、製作費4000万ドル、ランニングタイム5時間という威風堂々たるSF大作だったが 「こりゃ長ぇよ。1日に2回しかフィルムを回せない」 という製作側の意向で大幅カットを要請、2時間18分に縮められてしまった。半分も削ればストーリーは判りづらくなるのは当然で、『デューン』は“難解で散漫なクズ大作”という評価を下されてしまう。 それを不服に思ったリンチは5時間ヴァージョンを復元し『デューン完全版』として上映しようと試みたものの、そのリストレーション作業に1本映画が製作できるだけのコストがかかるということで、あえなくキャンセルとなった。 その企画を継ぐ形で3時間10分に編集されたテレフィーチャー版がアメリカでTV放映されたが(日本ではヴィデオソフトで発売)、そのずさんな出来にリンチも自分の名をクレジットするのを拒否。ハリウッド伝家の宝刀【アラン・スミシー】監督作となった。 (最初の10分間、子供も赤面するような下手くそな絵で紙芝居のようなストーリー解説じゃ、監督ならずともトホホな気分だ) そもそも『デューン』は、『エル・トポ』『サンタ・サングレ』の【アレハンドロ・ホドロフスキー】がメガホンをとるはずだったが、これが製作費が捻出できずに頓挫してしまう(拘束衣をまとったようなザルタウカーのディザインは個人的に好きだったんだが)。そもそもがこの時点でつまずいていたのだからしょうがない。 クセ者監督の相次ぐ受難。原作者フランク・ハーバートの心中やいかなるものだったろう。 ■違うフォーマットになってた■ 『大誘拐』が好評を得た【岡本喜八】監督。その次回作として『遠い海からきたCOO』のタイトルが挙がったとき 「あの特撮嫌いが遂にその封印を解く」 と、トクサツ者は驚嘆と期待で胸を膨らませた。かってクレージー・キャッツ主演で企画されていた『日本アパッチ族』がボツになり 「もう喜八の特撮映画は観れない」 と嘆いていたファンにとって、まさに降って湧いたような朗報だったのだ。しかし・・・ 「リアルを標榜するあまり、安手の特撮が我慢ならない」 という姿勢を貫いていた作家が敢えてそれにトライするということは、それだけ要求されるものが大きいということ。案の定アメリカ海軍の大艦隊シーンやプレシオサウルスの視覚効果など、邦画の予算枠と表現の限界との板挟みになった『遠い海からきたCOO』は、原作者の故景山民夫氏による「幸福の科学」問題が後押しする形でオクラとなった。 その後、この作品は岡本監督の脚本をもとにアニメーション作品として製作されたが、喜八テイストは微塵もなく、凡百のアニメとして映画史の端に埋没してしまう。 そういえば「岡本喜八と特撮映画」の関係で面白いエピソードがある。 岡本監督が『大誘拐』を準備していた頃、東宝から 「『大誘拐』はウチでは予算が出せない。でも社長(田中友幸氏)が紫綬褒章のお祝いを言いたいということなので、本社まで来てくれ」 と連絡が入ったそうな。 「ヒトの企画ボツにしといて、祝ってやるから来いとは何事!」 監督怒り心頭、いい歳こいて「東宝特撮育ての親」をイッパツ殴りつけてやろうとスクーターで東宝本社まで赴き、社長室に入ったはいいものの、杖をついてヨボヨボの姿で涙を流しながら 「キミにはいつも苦労をかけるねぇ」 と低頭する田中社長の姿に、掲げたコブシを振り降ろすことができなかったという。 喜八っぁんと特撮の確執を象徴しているようだなぁ。 ■売れてこその“完全主義者”■ 巨匠【スタンリー・キューブリック】監督曰く 「『ジュラシック・パーク』の出現でヴィジョンの実現を確信した」 と、『2001年宇宙の旅』以来のハードSF『A.I.』の製作を発表したが、妥協を嫌う完全主義者は徹底リアルな視覚効果にあくまでこだわり、それにかける膨大な製作費が捻出できない。そこで企画をいったん保留し、トム・クルーズ&ニコール・キッドマン夫妻というハリウッドのマネーメイキング・スターを起用してサイコサスペンス『アイズ・ワイド・シャット』に着手。ギャラ以外は比較的安価に製作でき、確実に利を上げられる手段をとったのである。 これは過去にキューブリックが『バリー・リンドン』の興行的失敗をかぶり、コマーシャル・フィルムだといわんばかりに『シャイニング』を手掛ける経緯と似ている。映画が作家個人の「芸術」である以前に「売れる商品」であるべきなのは、天才監督とて忌避できない使命なのだ。 しかし、そんな『アイズ・ワイド・シャット』も、撮り直しと撮り足しで2年間という撮影期間を要し、さらには65ミリによる撮影やディジタル音響効果へのこだわりから、製作費は7000万ドルへと膨れ上がっている。 『A.I.』は7000万〜1億ドルあれば出来るという話だったのだが・・・。 ■低予算監督もタガが外れると・・・■ 【ジェームズ・キャメロン】監督作品として『タイタニック』の次に予定されている『アバター』は、なんと製作費3億ドル(邦貨レート約360億円!)を計上、金銭感覚がマヒするようなSF大作だ。 もともとキャメロンはロジャー・コーマン門下の頃より低予算をいかに効率良く活用するかを叩き込まれた作家で、さらには元カミさんのゲイル・アン・ハードがプロデューサーとして財布の口をしっかり固めていたから、『ターミネーター』は650万ドル、『エイリアン2』は1800万ドルという低予算で作りあげられたのである。 ところがキャメロンはハードとの離婚を境に、まるで堰を切ったかのごとくの如く製作費をかけまくり、『ターミネーター2』では1億ドル、『タイタニック』では2億ドルに達してしまった。 しかしキャメロンはこう語る。 「製作費の高騰は映画にとって得策ではないし、自分もしばらくビッグ・バジェットはこりごりだ」 そう思うなら自ら企画すんなよ、そんな映画。 ■そして今、危ないのは・・・■ 今後製作が予定されている作品で最も危ういのが『G・R・M/ガルム戦記』(監督:押井守)だろう。 製作費24億円。『ポケモン』や『踊る大捜査線 THE MOVIE 』のように、社会現象にでもならなければ上映興行だけで黒字が出ない数字だが、これは海外市場における押井守のネームバリューを念頭に置いての予算計上、海外資本の参入あればこそのバジェットに他ならない。 しかし仄聞では、アメリカ公開の配給先が脚本のリライトを幾度も要求し、資金を出し渋っているという話らしい。とはいえ「製作中止」の公式声明は出ていないし、テストフィルムを観る限りではヴィジュアルの感触もいいので、是が非でも完成にこぎつけてもらいたい作品である。 とまぁ、そんなこんなを取り留めなく書き連ねましたが、短い間の御愛読ありがとうございました。 あ、このコラムの引き取り先を募集しております。「『2001年宇宙の旅』をオファーを蹴った実験映像作家」や「幻の『童夢』実写版」などの隠し玉もありますんで。興味のある方は PXN07521@nifty.ne.jp まで。 (ドリー・蛇臼) |