ええと、というわけで、とりあえずこの連載も一旦休止と相成りました。ただ、BoutReviewなどでは、粛々と取材記事とか書いておりますので、そちらでお会いできればと思っております。 この連載自体も、もしかしたら、個人的に続けるかもしれないし・・・ ともかく、お金の話である。 年も押し迫って、他のスポーツでは、契約更改のシーズンだ。Jリーグの景気は、ご承知の通り、むやみと悪い。もう、せいせいする位悪い。日本人の一億円プレーヤーとか全くいなくなるようだ。対するプロ野球の方は、まぁ不況だから多少は渋くなっているのだろうが、それでも大魔神佐々木の4億7千万だか8千万だかを筆頭に、1億円プレーヤーはざら。活躍した人はみな年俸を上げてもらっている。 優勝に貢献したにも関わらず、お金がないので、来期の契約がなくなってしまったドゥンガやジョルジーニョの立場とは極端な違いである。 Jとプロ野球のこの差は、無論、「地域スポーツと企業スポーツの差」なんかではさらさらない。スポーツの特性に従って、そもそも、収益構造にむやみやたらと差があるのだ。 野球は年間135試合。それぞれ毎にチケット代が入り、放映権料が入り、グッズが売れる。それに対して、サッカーは、30戦とか40戦。そもそも儲けられる機会に差がありすぎる。おまけに1万5千人入るか入らないかの小さな球場が多く、ブームが去って以来、放映も減り・・・。だけども選手の数は同じくらい必要なんだから大変になるのは当たり前だ。 でも、だからといって、「サッカーも年間135試合やれ」といったってそれは無理な話。練習は反吐をはくまでやるらしいが、試合中は、半分はベンチに座り、残り半分も、つったっている時間ばかりの野球だからこそ、連日試合を組み、あまつさえダブルヘッダーなんてことができる。90分走りっぱなしのサッカーで同じことをやったら屍累々である。 では、プロレスや格闘技はどうなんだろう。 ざっくばらんにいってしまうと、プロ野球とJリーグみたいな差が、プロレスと格闘技の間にはある。今でこそ大分減ってしまったが、最盛期、全女は年間250試合以上こなしていた。週5日、毎日、毎日試合、ってぇことである。しかも、バスやトラックに乗っての全国巡業。歌手や役者だってなかなかこれだけの巡業はできない。 全女の250試合はいくらなんでも例外としても、プロレス団体だったら、年間100興行くらいこなすのは当たり前だ。プロ野球並のペース。これだけの興行数をベースに、ドームなどの巨大会場をも利用し、かつテレビ放映もある。かくしてメジャーと言われるプロレス団体の売上げは年間数十億円にも及ぶ。しかも、野球やサッカーよりも、はるかに選手数は少い。結果、メジャー団体では、若手でも年俸一千万円を超えることが珍しくなく、選手によっては、億が見えているところまでいっているらしい。 とは言っても、十分な金額か、というとそれには疑問も残る。何せ、馬場や猪木が全盛期だった頃には、当時の野球界のヒーロー、王・長嶋の年俸を鼻で笑うくらいの金額をもらっていたらしい。プロ・スポーツ最高所得、と言えば、野球ではなく、プロレス、という時代が確かにあったのだ。 必要な選手数が少ないにも関わらず、何故、今の日本では、プロレスラーの年俸がプロ野球を上回ることができていないのか。 まぁ、簡単に言えば、メディア収入の差ということだ。ゴールデンタイムに2時間も3時間も放映し、億単位で放映権料をもらっているプロ野球と、深夜の30分枠に押し込められ、億どころか、千万単位になっているのかどうかも甚だ怪しいプロレス。この差が効いてくる。逆に言えば、テレビ放映さえ何とかなれば、プロレスが「キング・オブ・(プロ)スポーツ」に返り咲くことも決して夢ではない、ということだ。 実際、アメリカのプロレス界、WCWやWWFでは、年俸うん億、うん十億という年俸を取っているケースがあることはご存じの通りだ。この背景には「アメリカでのプロレス番組は、ケーブルテレビの視聴率ベスト10の半分をしめる程、むやみやたらと人気が高い」という事実がある。何せニューズウィークが特集を組む程の大人気、めちゃくちゃなブームなのである(ま、相変わらず、「どうせ八百長」てな感じで書かれちゃってはいるが)。 この意味で、冬木が「向こうがいやだと言っても、ディレクTVと心中してやる」と言い、また、武藤や蝶野が、アメリカン・レスリングを目指してnWoを展開しているのは、完全に正しい。「プロレスのレベルは日本の方がずっと高い」。「アメリカのレスラーは、みんな、新日や全日で活躍することに憧れている」といったバブルな時代の常識は、少なくとも経済的な面、人気の面においては、全く通用しなくなってしまっている。 というところで格闘技に移ろう。 はっきり言って、格闘技の場合、毎日試合をやることは到底無理である。プロレスは、別段野球のようにぼおっとベンチに座っているわけではないが、それでも、「暗黙の了解」だか「プロレス道」だかがあって、「相手の急所を直撃したり、怪我に直結するような関節技を乱発したり」とかは滅多なことではしないし、タッグとかもあるし、地方ではしょっきりをやる場合もあるし、何より、減量などせずに、ひたすら筋肉と脂肪の鎧を付け、とにもかくにも受け身の練習をしている。「連戦しても怪我をしない」ための種々の工夫があるわけである。だから、「練習時間がない時も、試合を通じて、コンディションを調整する」などという芸当も可能になってくる。 ところが、格闘技は、そこのところがどうも宜しくない。「脳にダメージを残す」ことを目標にぼかすか殴る蹴るをするもんだから、打ち所が悪いと、ダメージを抜くためだけに数カ月休まなければならなかったりするし、関節は容赦なくひんまげるし、ボクシングやキックでは、細かな重量制がしかれているものだから、「極度の脱水症状を無理矢理起こしてまで」減量したりなぞする。こんな「スーパー・ダイエット」を連続して続けていたら、あっという間に心臓が参ってしまって、おじゃんのパーである。格闘技の場合、月に一回というのでもどちらかと言えばオーバーペース気味なのである。 かくして、貧乏物語が始まることになる。ボクシングだと、日本チャンピオン・クラスになっても、別に仕事を持っていなければ食べていけない。まして、他のプロ・スポーツのように、「老後のために居酒屋でも開く資金を作るか」とかなったら、もう、これは世界ベルトを取るしかない。キックにしても、最近で一番景気がよかった時に、最大の人気選手であった立嶋が全日本キックと年俸1500万円で契約したのがものすごい話題になったくらいだから、後は押して知るべしである。 この中で、例外的に「バイトをしなくても選手が食べていける」経済条件を用意できているのが、まず、K−1、ついでリングスとパンクラスである。 この理由も、またしても、メディア。K−1は言うまでもない。フジテレビで始め、今では日本テレビからも放映権料が入ってくる仕組みを作り上げた。これに興行収入と、正道会館の道場としての収入があるのだから、経営は万全である。 リングス、パンクラスにしてもそうである。そもそも、母胎となったUWFにしてからが、「プロレス団体で始めてビデオに本格的に取り組んだ」ことで大儲けをした歴史がある。今では考えられない話だが、当時、UWFの試合のビデオは、毎大会ごとに何万本単位で飛ぶように売れていた。テレビこそ付かなかったが、それを上回る収入を、ビデオというメディアから得ていたのだ。 その後継者たるリングスとパンクラスには、それぞれ、WOWOWとGAORAという衛星放送がついている。特に、リングスは、一大会毎の単価でいったら、おそらくはメジャー・プロレス団体を上回る放映権料を得ていると思われる。リングスの分厚い世界ネットワークは、この資金源なくしては、考えられない。対するパンクラスは、BSとCSの差から考えて、リングスほどの放映権料は得られていないだろう。その分をグッズ販売とスポーツ・ジム経営で何とかカバーする。こうした努力で、多数の若手選手を養っているのだ。 つまるところ、最終的にはメディアなのだ。年間一戦くらいしかしないボクシングのヘビー級チャンプが大金持ちでいられるのは、アメリカのCATVでペイ・パー・ビューを行い、何百億円という収入を上げているからだ。この何年か話題のUFCにしても、実際の会場は2千人とか3千人とかしか入っていない。収入はどこまでいってもCATV、衛星放送頼み。ディレクTVを初めとするデジタル衛星放送が、TCIなどの大手CATVの撤退の穴を埋めていなければ、今頃UFCはなくなっていただろう。 日本の「プロ」格闘技業界がどれだけ育つか。アメリカのように、他のプロスポーツと肩を並べられるほど選手が収入を得ることができるかどうかは、ひとえに、メディアとの関係、特に新しいメディアである衛星放送に掛かっている。スカイパーフェクTVやディレクTV、そして2000年に開始が予定されているBSデジタルの各チャンネルなどなどだ。 だが、残念ながら、そうは問屋が卸さなさそうだ。プロレス・格闘技専門チャンネルのサムライは、当初予定を大幅に下回る顧客数しか確保できていないし、ディレクTVは、業績不振から、社長の交代劇があった。今後始まる各種デジタル放送にしても、そう簡単には普及しない、という見方の方が一般的だ。 はっきりいって、この何年かの日本で、メディアとして順調に普及を遂げたのはインターネットくらいのものである。そのインターネットにしてからが、「お金がない」ということでは、選ぶところがないのだから・・・ 全くもって「やれやれ」である。 |