ONLY.2.gif四角い電脳ジャングル 第四回
悪質とは何か
 


いや、もう、一寸先は闇である。

 大体が年末にUWFインターナショナルがぶっつぶれたから、これ幸いとUWF終焉の話を書き始めたのだった。それが、あろうことか、新団体キングダムを作り、いけしゃあしゃあと5月4日に再旗揚げしやがった。一体、インターの時の借金はどうしたんだ・・・等という話はどうやらタブーらしいので突っ込まない(笑)。
 その上、高田延彦(インターの代表にして、現キングダムの代表)は、ヒクソン・グレーシー@何でもあり400戦無敗、と世界最強決定戦をやるらしい、と思いきや、中止になったらしい、と思ったら実はまだ計画は進んでいるらしい、と情報が猫の目の様に変わる。この一戦は、まかり間違ったら、プロレス・総合格闘技業界をひっくり返してしまうかもしれない超ドレッドノート級のものだ。それが、結果はおろか、本当にやるかどうかもなかなかわからない(大体、8月15日=敗戦記念日に興行が打たれる計画になっているところもなかなかに胡乱である)。

こんな状況でUについて何を書けっちゅうんだ!

ということで今回は逃げを打たせてもらう。
題して、「トラウマと悪質」である。





プロレス界には3大トラウマと呼ばれるものがある。第一は、佐山聡@タイガーマスクが出版した「プロレスなんかみんな八○長だ」本(ケーフェイ)事件。第二は、アントニオ猪木史上最低のギミック、「海賊男」事件。そして第三は、上記二つの事件で「プロレスはインチキなんだ〜」とショックを受けまくっていたウブなファン達の最後の拠り所だった第二次UWFの突然の崩壊である。「信じる者は救われない」。これがプロレスに最強というロマンを求めてきた哀れなファンが心に深く刻み込んだ教えである。

で、トラウマは二種類の「悪質」を生み出した。
 一つは「インディーな方々」である。FMWやみちのく程度の話をしているのではない。昔はともかく、今やあそこのレスラー達は、新日や全日といったメジャー団体に平気で出場できるレベルに達している。そういうのはインディーとは呼ばない。具体名を出すとなんなんでなんなんだが、まぁ、後楽園ホール「未満」の会場とかでやっている、専門誌に試合結果がなかなか載らない、アンダーグラウンドなところに通い詰めているような方々である。
 で、何がいいかっていうと、ほぅっとするのだ。例えば「パーンチ」と口で言いながら、逆の手で自分の胸をドンと叩く。そうすると、相手が、拳に触れもしないのにひっくり返るのだ。パチパチ・パンチ、もしくはカメハメ波の世界。しかも、これを、観客の目と鼻の先でやる。ただの殴り合いですらこれだから、もう、相手の技に協力するなんて全くもって当たり前。何のきがねもないよねぇ。
 いや〜、メルヘンですわ。リング下に転げ落ちた時に、客の目を盗んでこっそり剃刀で額を切るような姑息なまねはしないもん。誰もがわかるところではっきりインチキやる。そうしたら、それって、もはやインチキじゃないよね。ギミックだって凄いよね。宇宙とかにいっちゃうからね。にも関わらず、やっぱり、そこには厳然と「勝敗」があったりするから、なおファンタジー。で、そのファンタジーを思いきり楽しみ、選手たちを暖かく見守る。
 あれもプロレス、これもプロレス。純な心はなくしたけれど、それでも、プロレス、愛してる。ときどき皮肉は言うけれど、ムッとしないで許しておくれ。
 海賊男も見るからさ。
 もはや演歌の花道状態なんである。

もう一つの悪質は根が深い。
 何故なら「騙された」「裏切られた」というルサンチマンがてんで昇華されてないからだ。で、極度に臆病かつ攻撃的になっていて、すぐ噛む。何を噛むかというと、大体、前田日明と前田の団体リングスに噛みつく。したり顔で「リングスも所詮プロレスだから」という。ちなみに彼らはプロレスを○百○の代替語として使っている。

何で彼らがこうなったか、というと、猪木に「プロレスは世界最強」と言われてそれを本気で信じてたからだ。だけどそれは佐山に否定されてしまった。猪木の下で異種格闘技戦をやっていた花形レスラーに八百長だと言われたら、今までの信念は捨てざるを得ない。
 で、じゃあ、と言って第一次UWFを信じていたら、サヤマ教祖がおやめになってしまう。しかも、UWFも「所詮八百長」だと教祖は仰り、真実の道、シューティングをお示しになる。だけどシューティングは流行らない(皮肉なことに、シューティングに客が入り始めたのは、佐山聡がシューティングから追い出されてからである)。もうこうなったら世間は敵である。とりわけ同じ出自なのにすごいブームになっている第二次UWFが気にくわない。前田がやっているUWFを真剣勝負だなんて思っているなんて、世間の人間は何て愚かなのだろう。真剣勝負だったら、見ていて面白いわけがないし、客がたくさん集まるわけもないじゃないか。

信仰が固められていく。
 何か、いつの間にか、「つまらない、マイナーであることこそが真剣勝負であることの唯一の証」みたいな思いこみが強固にできてしまう。そこに前田日明が格闘技界でメジャー扱いされることに不満たらたらのアマチュア格闘技関係者が吸い寄せられてくる。うちらが流行らないのは、競技に魅力がないからじゃなくて、「前田みたいに」八○長をしないからだ、ってなもんである。こういってりゃ、客入れに失敗しても言い訳がたつから、実に楽なもんだ。
 マッチポンプのマスコミも煽る、煽る。「秒殺が多いパンクラスこそ本当の真剣勝負だ」とかいう。実際には、選手層が薄く、実力差がありありのマッチメークを組まなければならなかったこと、また、ロープ・エスケープを考えた位置取りができなかったことが初期のパンクラスに秒殺(1〜2分で試合が終わってしまうこと)が多かったことの理由なのだが、そんなこたあおかまいなしである。秒殺ばかりだと興行がつまらないものになる。そんなつまらないものなら真剣勝負に違いない。
 何かもはや論理が逆転しまくりである。
 で、秒殺がなくなってきたら自分たちの過ちに気づくかと思ったら、今度は時間切れ引き分けという更につまらない試合が多くなってきたので、パンクラス信仰は未だ盛んである。パンクラスを率いている船木誠勝や鈴木実は「守りにまわって時間切れ引き分けになるのは大変まずい」と何度も公言してるのに、ね。
 加えてこの頃は「グレーシー柔術に似ていないものはインチキ」という新しい教義も浸透してきたようだ。ルールやレフェリングが違えば競技スタイルも違うのが当たり前なのだが、そんなことを言うのは「(サヤマ様がお示しになられた)格闘技の技術を知らない愚か者」ということになるらしい(笑)。確かにバーリ・トゥードには、膠着シーンが多いから、「つまらない=真剣勝負」教には最適だけどね。

ま、というわけで、プロレス・格闘技界には二種類の「悪質」が潜んでいる。一つは、目の前でインチキを見せつけられることを何よりの快感とする「マ」の悪質。もう一つは、人に、「お前の見ているものはインチキだよ」といいふらしてまわらないと精神が安定しない「サ」の悪質(これはとりわけライター関係の方々に多く見られるようだ)。で、それぞれの悪質には、それぞれの深い楽しみがあるらしい。

だけどね、実の所、一番プロレスや格闘技を「楽しめて」るのは、純な心を持ち続けてる人なんだよね。

だって、そうじゃないと、感動できないからさ。



[前のページへ]      [次のページへ]